[シンガポール/ロンドン 28日 ロイター] - 中国経済の実情を政府統計だけに頼らず非公式データなどからも探ろうとしている投資家の目には、赤々とした警告ランプがはっきりと灯っている。
そのため多くの投資家が、中国減速の影響を受ける世界各地の資産から資金を引き揚げつつあるところだ。
こうした売りの勢いは、ロンドンやバンコクなどの株式市場を失速させ、豪ドルやニュージーランドの乳製品価格、資源大手BHPグループといった中国と関連が深い資産を圧迫している。
結局、中国ではゼロコロナ政策解除後に期待された持続的な消費回復や、不動産市場の「雪解け」が起こらず、大半のアナリストの見立てでは、今年の成長率は政府目標の5%に届きそうにない。
さらに経常黒字の縮小、膨張する預金残高、先行きに対する自信喪失を示唆するセンチメント調査といった材料は、投資家の悲観論を一層強める形になっている。
購買担当者景気指数(PMI)や実効為替レート、経常収支、成長率予想、流動性など7つの要素から各国のマクロ経済動向を点数評価しているジャナス・ヘンダーソンのポートフォリオマネジャー、サット・デュラ氏は、中国について「かなり弱い。PMIは低調に推移し、国内総生産(GDP)は下方改定されている。厄介な状況だ」と分析する。
その上で「これらの動きが続いている中で、中国に対して強気の見方をする根拠は、どこにも見当たらない」と断言した。
デュラ氏のファンドは中国に投資しているが、銀行や不動産、工業といった景気敏感セクターは対象外だ。
そして、中国がほとんどの近隣諸国や主要国にとって最大の貿易相手になっているだけに、需要冷え込みの影響は広範囲に波及してきている。
例えば、世界最大の乳製品輸出企業であるニュージーランドのフォンテラは「重要な輸入地域の需要減少」を理由に1カ月で2回も牛乳の卸売価格見通しを引き下げた。同社は以前、最も需要が鈍化したのは中国だと指摘していた。
BHPグループが先週に発表した年間利益は過去3年間で最低を記録し、同社が非中核事業をスピンオフして設立した「サウス32」の利益は67%前後も落ち込んだ。
プリンシパル・グローバル・インベスターズのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー氏は、中国減速の影が欧州にも忍び寄ってきたとみている。投資家の間で、ドイツの製造業の命運は中国の顧客需要にかかっていると見られがちなことも、その理由の1つだ。
シャー氏は「欧州に関しては幾分先行きの暗さが増している」と述べ、中国は米国株にもリスクをもたらすと付け加えた。
<我慢の時間帯>
BHPのような企業や豪ドル、タイバーツといった通貨に関して、今年は中国がコロナ禍から力強く回復して追い風が吹くと期待してポジションを構築していた投資家にとって、相次ぐ中国のさえない経済指標はまさに「寝耳の水」の事態だった。
ふたを開けてみれば、タイを訪れる中国人旅行者はコロナ禍前の3分の1にとどまり、バーツは低迷。バンコク株の年初来下落率は6.5%に達し、アジアでこれより大幅な落ち込みとなっているのは香港株しかない。
年初から好調に推移してきた日本株でさえ、UBPインベストメンツのポートフォリオマネジャー、ズヘア・カーン氏は、中国需要に依存する銘柄は売り持ちにするか、買いを避けていると話す。
カーン氏は、中国で消費者物価と生産者物価が下落し、若者の失業率が20%を超えるといったデータから読み取れる問題の大きさからは、すぐに積極的な政策対応が必要なことが分かるが、今のところそれは打ち出されていない、と説明した。
中国と関連が深い企業でも、高級ブランドのLVMHやカジノ運営のラスベガス・サンズなど一部の株価は上昇しており、中国に対する強気姿勢を維持する向きも存在する。
しかし、現在はバリュエーションがより現実的な想定を反映するまで我慢する時間帯に入りつつある。
ヌビーンのポートフォリオマネジャー、ジャグディープ・グフマン氏は「中国経済の本格再開は、1つのテーマとしてある程度は実現した。だが、もっと大事なのはそれが当初の期待を下回っているという点だ」と強調。足元の市場ではこのような期待をリセットする動きが進んでおり、各企業の株価は不安定になっていると付け加えた。
(Tom Westbrook記者、Dhara Ranasinghe記者)