[ロンドン 15日 ロイター] - 世界の主要中央銀行による資金供給はことし総額1兆2000億ドルを超え、2017年以来で最高となる公算だ。しかし超緩和マネーに乗って過去最高値を更新し続けてきた株式市場は、それでも失望する可能性が十分にある。
主要中銀は昨年、2011年以来で初めて供給量を上回る資金を市場から吸収すると予想されていた。ところが、米連邦準備理事会(FRB)は金利正常化を停止して3度利下げし、中国人民銀行と欧州中央銀行(ECB)も緩和を強化した。
ピクテ・アセット・マネジメントのシニア・マクロ・ストラテジスト、スティーブ・ドンゼ氏によると、この3行に日銀とイングランド銀行(BOE、英中銀)を加えた新規資金供給は今年、総額1兆2300億ドルとなる見通しだ。
これは、2017年の2兆6000億ドル以来で最大で、2008―09年の世界金融危機以降の年平均に近い。しかも昨年の3700億ドルに比べると急増する。
調査会社クロスボーダー・キャピタルによると、マクロ流動性環境は先月、10年ぶりの高水準に達した。
市場にとっては朗報ぞろいのようだ。しかし実際には、市場は失望しかねない。ドンゼ氏の推計では、MSCI世界株価指数 (MIWD00000PUS)は現在、中銀が今年2兆4000億ドル供給することを織り込む水準となっている。
「過去12年間の流れを考えると、現在の市場は朗報をすべて織り込むばかりか、それ以上の期待も反映している」とドンゼ氏は語り、自身が予想する供給量と市場の期待との差が、2008年の危機以来で最も大きく開いていると指摘した。
ピクテは、資金の追加供給が市場の期待に沿わなければ、株価は10%下落する可能性があるとみている。
ピクテのモデルによると、流動性が1兆ドル供給されるごとにMSCI指数は20ポイント上昇する関係にある。現在の指数は、世界の流動性プールが19兆9000億ドルに達した状態を織り込む水準だが、実際の流動性プールは17兆5000億ドルだという。
<中銀頼み>
昨年は企業利益がふるわず、貿易戦争が激化する中でも株式市場は過去10年で最も好調な年となり、中央銀行がいかに相場を支えているかが浮き彫りになった。
ピクテによると、08年以来、株価変動の90%は中銀の流動性供給に起因している。
中銀の次の動きはどうなるか。FRBとECBはバランスシートの拡大を続ける一方、最近では利下げ休止の方向に傾いている。一方、BOEは今月の利下げに含みを持たせ、中国人民銀行は年明け早々、預金準備率を引き下げて実質的に1150億ドルを経済に供給した。
ピクテの推計では、今年の資金供給を主導するのは中国人民銀で、差し引き4600億ドルを供給しそうだ。
FRBの資金供給は昨年の10倍を超える3500億ドルとなり、昨年1000億ドルを吸収したECBは2700億ドルの供給に転じる見通しだ。
クロスボーダー・キャピタルは顧客に対し「流動性相場はひどい末路を迎えがちだ。従って、一番の問題は中銀が現在の緩和ペースを続ける意思があるか、またそれが可能かどうかだ」とし、中銀が想定している以上の緩和策が必要かもしれないと指摘した。
金融政策の限界が指摘される中、番狂わせとして財政出動の拡大が考えられる。しかしニューバーガー・バーマンの債券運用担当者、ジョン・ジョンソン氏は、財政政策は「動きが鈍く」、市場が急落した際に中銀ほど迅速に対応できないとし、「今年は相場が不安定化しそうだ」と話した。
(Tommy Wilkes記者)