[ロンドン 10日 ロイター] - 資産運用担当者にとっては、新型コロナウイルスの感染拡大で世界の株式市場から数兆ドルの時価総額が消えたことだけで、もう十分苦い思いを味わっているが、実はもっと悪い話がある。感染拡大が実体経済や企業のバランスシートに、ひいてはポートフォリオに一体どれほどの悪影響を及ぼすか、皆目見当がつかないということだ。
新型ウイルスがほんの数週間で一挙に約100カ国・地域に広がったため、政府統計や企業の業績に関する発表は実情を反映させ続けるのが難しくなっている。そのため多くのファンドマネジャーとエコノミストは、先々の見通しを立てて戦略的な判断を示すことができない。
つまり、不確実性を嫌うはずの投資家は、結果的に近年で最悪となっている株式市場の混乱や、経済成長を巡る懸念が生じる中、手探りで進むことを強いられている。
交通封鎖や在宅勤務といった政府や企業による新型ウイルス対策は、世界のほとんどの地域の経済に打撃を与える見通し。現在も対策は続けられている上に、新型ウイルスの脅威が変化するので対策の中身も常に修正を迫られ、成長や業績の予想を一層困難にしている。
3700億ドルを運用するジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのマルチ資産責任者ポール・オコナー氏は「経済データは大して役に立たない。データは市場の底値を決して教えてくれない」と述べ、金融政策の面で打てる手が枯渇しかけている以上、中央銀行が発するシグナルも効果がないと付け加えた。
その代わりにオコナー氏は、市場の値動き自体を売買の手掛かりにしている。実際、9日にS&P総合500種 (SPX)とストックス欧州600指数 (STOXX)が2008年以降で最大の下げ幅を記録すると、同氏は市場心理の底打ちが近いとみなして買いに動いた。
確かに経済データは軽視されつつある。先週発表された2月米雇用統計は、雇用の伸びが力強く、失業率はおよそ50年ぶりの低水準となったものの、市場はまさに過去のニュースとして一蹴した。
貴重な景気先行指標として注目される購買担当者景気指数(PMI)も、ユーロ圏で2月に半年ぶりの拡大ペースを見せたが、発表元のIHSマークイットでさえ「偽りの夜明け」だと断じた。
今後の経済見通しにも但し書きが付く。オックスフォード・エコノミクスは9日、今年の世界経済成長率を0.5%ポイント引き下げた。とはいえそれは家計と企業が正常な活動をする能力と意思を持ち、中国が持ち直すという前提が置かれている。
<新たな指針>
あまりにも先が見えないので、専門知識を有する投資銀行に助言を求めようと奔走する向きも多い。
例えばゴールドマン・サックスは顧客からの「膨大な量の問い合わせ」を受け、うちひしがれた市場の行方を占うための幾つかの新たな指標をまとめた。具体的には中国の電力消費を探るには日々の石炭消費を、イタリア経済のダメージを知るにはホテルの客室稼働率やミラノの交通量をそれぞれ調べることを提案している。
新型ウイルスの感染状況を、投資の指針とする考えも出てきた。中国ではどうやら感染が峠を越えたとみられる半面、欧米では感染者が増加しており、今後イタリアにならって特定地域を封鎖し、消費や企業活動が痛手を受ける恐れがある。
パインブリッジ・インベストメンツのマルチ資産グローバル責任者マイク・ケリー氏は「爆弾が命中した地点が安全なので、そこに飛び込むべきだ」と語り、中国A株や銅に買いを入れたり、米国のサービス業などから製造業に投資の軸足を移していると明らかにした。
一方、大胆な投資を敬遠して金や政府債、円といった安全資産の保有にこだわる投資家もいる。スイスのプライベートバンク、UBPの外為戦略責任者ピーター・キンセラ氏は、経済データで事態がはっきり分かるまであと6-8週間かかりそうなので、安全通貨を買うのは「定番」の選択肢だと指摘。「この先数週間、われわれは暗中模索しながら進んでいくことになる」と警告した。
(Sujata Rao記者)