[ロンドン/ニューヨーク 22日 ロイター] - 世界各国が新型コロナウイルス対策で導入したロックダウン(都市封鎖)の緩和に乗り出し、米欧の経済指標にかすかな回復の兆しが見え始めたにもかかわらず、世界の株式相場 (MIWD00000PUS)の今月の上昇は1%程度にとどまっている。
こうした横ばいの動きは、3月下旬から4月にかけて株価が約30%上昇した局面とは対照的だ。当時の経済統計は現在よりはるかに悲惨な状況だったが、それでも投資家は政府の支援に支えられた成長回復に期待を寄せていた。
ある意味、新型コロナや経済への影響に関する世界各国の理解に変化はほとんどない。一部の投資家やエコノミスト、公衆衛生専門家らは数週間前から、経済再開は段階的になり、ワクチン開発にも時間がかかるため、回復には長期を要すると警告していた。
しかし、投資家は今になってようやく、そうした警告に注意を向けているようだ。
投資家は、株式市場が成長回復のスピードを読み違えたことが、足元の株価停滞の一因と指摘する。市場は売りに動くか従来の路線を維持するか判断する上で、ワクチンや大型の追加経済対策といった新たな手掛かりを必要としているという。
独保険大手アリアンツの首席経済顧問、モハメド・エラリアン氏は「市場は1カ月以上にわたりほぼレンジ取引が続いており、新たな材料が出てくるのを待っている」と指摘。経済活動再開やワクチンに関する明るい材料は、一連の弱い経済指標や回復の速度を巡る懸念を打ち消すには不十分だとの見方を示した。
市場の足踏み状態は、世界の政策当局者が新型コロナとの闘いで直面するより大きな難題を浮き彫りにしている。世界各国が表明した総額15兆ドルを超える支援策は4月に株価を押し上げた。各国政府が世界経済の崩壊を阻止するとの安心感が市場で広がったためだ。しかし、一連の支援措置で経済を存続させることはできても、景気回復を生み出すことはできない。回復のためには、まず感染を抑制する必要がある。
<綱引き>
欧州最大の資産運用会社アムンディの株式部門責任者、キャスパー・エルムグリーン氏は、市場は強材料と弱材料の「綱引き」状態だと指摘する。
同氏によると、強材料は「過去の危機よりもかなり迅速かつ強力に打ち出された異例の財政・金融刺激策」だという。一方、景気と企業業績の回復のスピードと形に関する根強い不透明感が弱気の要因で、来年の正常化を織り込むのでさえも市場は先走り気味だと同氏は語った。
「トンネルの先に光があるとしても、企業には見えていない」とした。
予想PER(株価収益率)で見ると、米欧の株式相場は新型コロナウイルス流行の影響がまだ本格化していなかった3月初めの水準まで戻している。
ただ、世界経済は大恐慌以降で最大のマイナス成長に陥ると予想されており、リフィニティブのデータによると、米欧企業の利益は第2・四半期に40─45%落ち込むとみられる。
著名投資家のデビッド・テッパー氏とスタンリー・ドラッケンミラー氏は最近、市場は割高で、リスクとリターンのバランスがひどく悪いと述べた。ドラッケンミラー氏はV字回復への期待は「幻想」だと一蹴した。
<早期警告>
多くの投資家と政策当局者は当初、新型コロナ危機の経済的影響は短期で終わると考え、市場の楽観論を支えた。
しかし、株式市場は歴史的に警戒シグナルを見逃す傾向がある。今回の危機でも、今後の道のりは平たんではないとのシグナルが軽視されてきた。
ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのマルチアセット責任者、ポール・オコナー氏は4月の相場上昇について「経済成長を巡る世界的な心理改善あるいはマクロ環境の再評価を意味してはなかった」と分析。
債券利回りが上昇せず、金価格が7%上昇し、米マネー・マーケット・ファンド(MMF)に積み上がった4兆7000億ドルの資金の活用を拒む投資家の姿勢が市場の神経質さを物語っていたという。
他にも大声で警戒を発する人物がいた。
米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は3月3日に既に、新型コロナのワクチン接種が可能になるまでには少なくとも1年─1年半かかると指摘していた。
4月7日にバーナンキ元米連邦準備理事会(FRB)議長は、早期の景気回復を期待すべきではないと警告。経済活動の再開は徐々に進めらる見通しで、新型コロナ感染が再拡大した場合は活動を再び緩める必要が出るかもしれないと述べた。
<リスク資産の圧縮>
こうした悲観的な見方は現実のものとなりつつある。
欧米よりも長期にわたって新型コロナ対策を迫られているアジア諸国の例を見ると、数カ月にわたる封鎖措置の解除後も、必ずしも外食や買い物は急増しておらず、V字型回復の可能性が後退している。
バンク・オブ・アメリカ (N:BAC)証券部門の投資家調査によると、現在、投資家の75%は、緩やかなU字型回復、もしくはW字型の二番底を予想している。
ノーザン・トラスト・アセット・マネジメントで投資戦略を指南しているウーテル・ストルケンブーム氏は「中銀の介入で市場のテールリスクがある程度縮小した」と考え、3月の急落時に株式などのリスク資産を買い増し、4月もオーバーウエートで維持していた。
だが先週には、リスク資産のウエートを7%引き下げ、キャッシュやキャッシュ等価物のウエートを引き上げたという。
同氏は「初期の景気回復が、期待されていたほど急ピッチなものではなく、緩やかなものになるのではないかと懸念している。現時点では、予想外の上振れリスクとほぼ同程度、予想外の下振れリスクがあるとみている」と述べた。
(Saikat Chatterjee記者、Sujata Rao記者、Megan Davies記者)