中川泉、金子かおり
[東京 18 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、時限的に規制が緩和されたオンライン診療の活用が目に見えて広がっている。現場の医師や医師会からは、医療の質や診療報酬などの点で、導入に必ずしも積極的ではない声も聞かれる。他方、若手の医療関係者からは、対面診療にオンライン診療という選択肢が加われば、患者の治療継続率向上や医師の働き方の変化につながり、医療制度の持続性という問題解決への突破口になるとの期待も寄せられている。
<利用急増でもほど遠い本格普及>
東京都千代田区にある「九段下駅前ココクリニック」(内科)では、オンライン診療の台帳に記載された患者が6月半ば時点で600人近くと、コロナ禍が深刻化して以降、利用者が約200人増加した。以前からオンライン診療を利用していた患者に、通院していた既存患者のオンラインへの切り替えも加わった。
コロナ感染防止対策として厚生労働省が4月に入り、初診からの遠隔診療を時限的に認め、再診も規制を緩和したことから、電話を含めた情報通信機器による診療は5月までに利用が増えたようだ。
株式会社MICINによると、2016年に提供を始めたオンライン診療サービスの医療機関との契約数が、昨年12月時点での1700件に対し、直近で約4000件となった。
LINE (T:3938)では、傘下のLINEヘルスケアが、すでにビデオ通話を活用した医療相談を提供しているが、今後は医療機関との連携を強化し、この夏に新たにオンライン診療に参入する予定だ。
しかし医療機関全体での普及度合いをみると、まだ本格的な広がりにはほど遠い状況だ。
厚生労働省の統計によれば、5月下旬時点で全国で1万4500の医療機関が情報通信機器での診療を導入、うち5割が初診で使用しているという。およそ18万の医療機関総数に比べると、1割に満たない。しかも、実際に画像と音声による遠隔診療は、実はそれほど広く普及しているわけではなさそうだ。
遠隔診療のほとんどが電話診療という調査結果もある。日経メディカルの調査によると、今年に入って汎用テレビ電話や専用のオンライン診療システムを用いた医師は調査対象施設のうち6.7%にすぎず、大方は電話診療か対面診療だった。
<「医療の質が落ちる」との懸念も>
多くの医師がオンライン診療の導入を躊躇する背景には、診療報酬の問題がある。現在の規制緩和はあくまでコロナ禍での時限的措置で、規制が元に戻れば初診は対面診療が原則となる。再診でのオンライン診療には対面診療とほぼ差がない点数で診療報酬がつくが、事前の3カ月間で毎月対面診療を実施していることが必要だ。
オンライン診療が適している疾病はそれほど多岐にわたるわけではなく、対面診療による触診、診断、検査が必要な病気が多いことももう一つの理由だ。
全国保険医団体連合会理事の山崎利彦医師は「画像や電話では医療の質が落ちる」との判断から、検討していたオンライン診療の導入を見送ったと明らかにした。「やはり触診や目で確認しなければ病状は分からない」と話す。
日本医師会の中川俊男副会長は「オンライン診療・服薬指導はコロナ感染症の局面のもの。平時の対面診療とは比較困難であり、感染収束後に用いることは極めて慎重にすべきだ」と語った。
<ブームは終わるか>
このままコロナ感染の収束とともにオンライン診療ブームは終わるのだろうか。政府会議に参加する民間識者からは緩和措置の恒久化が提案されており、厚生労働省では規制緩和の終了時期について「コロナ収束時をいつとみるかなど、現在検討中」(医政局)だという。
「九段下駅前ココクリニック」では、6月に入ってからはオンライン診療の件数が減っているという。外出自粛措置の解除とともに下火となりつつあるようだ。
しかし、同クリニックの石井聡院長は、感染症対策にとどまらず、オンライン診療の可能性はより広がりがあると指摘する。
現在、健診で異常が見つかった人のうち、最初から治療を放置したか継続通院しないケースが6―8割に上るといったデータもあるという。石井院長は「継続治療が必要な生活習慣病の場合、オンライン診療を活用してアクセスが良い医療が実現できる。患者は治療を継続しやすくなり、治療成果の改善につながる」と語り、地理的制約から解放されることは患者の利便性の点でも医療成果の観点からもメリットが大きいとの見方を示している。
<医療制度持続への突破口に>
新たな選択肢としてのオンライン診療が語られ始めただけでなく、医師の働き方など医療制度の持続可能性という点でも課題解決への一つの突破口になり得るとの考え方も出てきている。
オンライン診療システムなどを開発・提供する医療IT企業メドレーの代表取締役医師の豊田剛一郎氏は「『持続可能な医療体制の構築』が日本の医療課題解決の鍵。そのためのステップの一つがオンライン診療」だと語る。
同社のオンライン診療システムは、電子カルテと連携し、カルテから直接患者アプリへアクセスすることも可能にする。「直接患者とコミュニケーションしながら通院をサポートすることで、治療継続率の向上にもつながる」(豊田氏)という。
豊田氏は、医師不足が叫ばれる中で、診療所の掛け持ち医師の移動時間削減などにもつながるはずだと話している。
(編集:青山敦子)