[28日 ロイター] - 足元でドルの下げ足が速まっていることが、世界的に幅広い影響を及ぼしている。特に目立つのは、ハイテク株から金までさまざまな資産価格の上昇を加速させている点だ。
主要6通貨に対するドル指数 (=USD)は3月以降で約9%下がり、7月全体の下落率は2011年以来の大きさになろうとしている。米国は他国よりも、新型コロナウイルス感染のパンデミックがもたらす経済的な打撃が大きいとの見方などが売り圧力になった。
キャクストンのシニアアナリスト、マイケル・ブラウン氏は「ドル安はほとんど自己達成予言になりつつある。リスク性資産の値上がりがさらなるドルの軟化期待を生み、そうした資産を一段と押し上げている」と分析した。
年初来で見ても、ドルはおよそ3%下落している。
ドル安は米国の輸出競争力を高め、同国に拠点を置く多国籍企業にとってドル建ての海外利益が大きくなる。これは最高値圏まであと少しまで迫った後、直近では上昇の勢いが鈍ってきた米国株には好材料となる可能性がある。
ゴールドマン・サックスは最近のリポートで、過去にドルが急速に下落した数カ月間には、S&P総合500種 (SPX)の平均リターンは2.6%だったと説明。ドル指数が10%下がった場合、今年の米企業の1株利益は約3%増加すると試算するとともに、今後1年でドルはあと5%下がるとの見通しを示した。
もっとも11月の大統領選で再選を目指すトランプ氏にとって、このドル安が政治的な追い風となることは期待薄だ。トランプ氏はかねてから、長年にわたるドル高が米国の製造業を痛めつけてきたと不満をあらわにしてきた。ただし、製造業にドル安の効果が浸透するには少なくとも1年かかり、大統領選に好影響を及ぼすには時間がなさ過ぎる、とドイツ銀行のチーフ国際ストラテジスト、アラン・ラスキン氏は指摘する。
幾つかの資産は、既にドル安の恩恵に浴している。例えば多くのコモディティー同様にドル建てで取引される金は、ドル下落で外国人の買い手から見た魅力が強まったため、過去最高値が目前だ。
ドル建て債務の返済負担が軽減する新興諸国もドル安を歓迎する公算が大きく、そうした事態を見越して、ブラジルレアル
テンパスの通貨トレーダー、フアン・ペレス氏は「短期的であれ長期的であれ、ドル(高)を主張するのは難しくなっている」と述べ、ドル安は新興国投資家や実物資産保有者にプラスとなりそうだとも指摘した。
一方、これ以上のドル安は、自国通貨高が経済成長や物価押し上げの取り組みに冷や水を浴びせかねないという面で、欧州や日本にとっては好ましくない状況と言えそうだ。
(Saqib Iqbal Ahmed記者、Ira Iosebashvili記者)