[ニューヨーク 3日 ロイター] - 米大統領選で民主党のバイデン前副大統領、共和党のトランプ大統領のどちらの候補が勝ってもドルの長期低落傾向は変わりそうにない、というのが投資家やアナリストの見立てだ。
主要6通貨に対するドル指数 (=USD)は最近多少持ち直したとはいえ、3月の高値をなお9%前後下回り、今年の値動きは2017年以降で最低になる見込み。米国の金利がこれから何年も過去最低圏にとどまるとの予想が重しになっている。
多くの市場参加者は、バイデン氏が勝利し、民主党が上下両院を制した場合、ドルに一段と下げ圧力がかかる公算が大きいと考え、大規模な財政支出などドルにマイナスとなる要因が出てくる点をその理由に挙げる。
一方、トランプ氏が再選を果たせば、ドルがたどる道筋は不透明感が増すだろう。トランプ氏の対中強硬姿勢は国際的な緊張をもたらし、確かに安全通貨としてのドルの魅力を高める。ただ米国の実質利回りのマイナスが続くなど他の要因が、そうしたプラス材料よりも大きく影響するのではないかとみられている。
ロイターが10月実施した調査では、1年後のユーロ/ドルの予想中央値は1.21ドルで、足元の水準から約4%ユーロ高が進むことになる。
以下にドルに長期的な影響を及ぼす主な要素を示した。
<金利差>
これまで何年間にもわたり、米国の金利が他の先進国に比べて高いことが利回りを求める投資家の眼鏡にかない、ドルを支えてきた。
ところが今年、米連邦準備理事会(FRB)が新型コロナウイルスのパンデミックに対応して政策金利を引き下げ、この先数年間も過去最低金利を維持すると約束したため、米国が持っていた金利差の優位は失われた。
ソシエテ・ジェネラルのキット・ジャックス氏は顧客向けノートに「外国為替市場最大のトレンドは、新型コロナがもたらす金利の下方収れんになる」と記し、これがドルにとって間違いなく悪い材料だが、まだ織り込み済みとは到底言えないとの見方を示した。
<実質利回り>
米10年国債の実質利回りは今年、パンデミックが起きた中でマイナスに沈み、ドルの魅力を低下させるとともに、株式から金までありとあらゆる資産の価格を押し上げた。
ロイターが9月に行った調査では、1年後の米10年国債利回りは0.93%になる見通しで、なお物価上昇率の半分程度にとどまる。つまり実質利回りのマイナスは向こう1年、まだ解消されないことを意味する。
BNPパリバのアナリストチームは「米国の実質利回りがマイナスのままで推移する公算が大きい以上、(ドルの)現在の幅広い下げ基調の再開を覆すようなシナリオは想定していない」と述べた。
<売り持ち>
通貨先物市場における先週時点のドル売り持ちは264億6000万ドル相当。8月に記録した9年ぶり高水準の340億7000万ドルからやや減ったものの、依然として規模が大きい。
これはドルに対する弱気ムードを反映している。もっとも売り持ちの投資家が一度にポジション巻き戻しを迫られる事態が起きれば、ドル高になってもおかしくない。
米大統領選の結果を巡る争いが起きて先行きが不透明になれば、そうした巻き戻しが生じる可能性が出てくる。またトランプ氏が勝利するか、大統領と議会、あるいは上下両院で与野党の「ねじれ」が生じれば、財政支出がより小型化するか実施が遅れ、やはりドル買い戻しにつながるだろう。
TDセキュリティーズのアナリストチームは、市場はバイデン氏勝利にかなり傾いているようなので、トランプ氏再選はドルにとってかなりの強気材料になると指摘。「市場は新たな地政学的不確実性の再燃や、ゼロサムの結果をもたらす貿易戦争の再発を織り込んでいない」と付け加えた。
<準備通貨需要>
トランプ氏は就任からこれまでのほとんどの期間で、ドル高に否定的な立場を取り、他国に貿易面で不当に有利な立場を与えていると不満を表明してきた。
このためバイデン氏が政権を握れば、財政支出拡大がドルを圧迫しそうな半面、国際的な摩擦を和らげようとする民主党の外交政策が準備通貨としてのドルの魅力を高めるのではないかとの声も聞かれる。
ドイツ銀行のアラン・ラスキン氏は、バイデン氏は口先でドルを押し下げようとしないだろうし、ドルの準備通貨の立ち位置を後押しする枠組みを含めた多国間主義を採用するだろうと指摘した。