[シドニー/ニューヨーク 9日 ロイター] - 米ファイザー (N:PFE)が開発中の新型コロナウイルス感染症向けワクチン候補について、臨床試験の暫定的な結果で高い有効性が示されたと発表したことから、投資家の間では、世界経済の回復とそれに伴う幅広い銘柄の値上がり期待が高まりつつある。パンデミック期間に形成された市場の構図に変化が生じ、いわゆる「バリュー株」が本格的に復活してもおかしくない展開になっている。
9日には、長い間ロックダウンと移動禁止で痛手を受けてきた航空株や銀行株、その他景気敏感銘柄に投資家の買いが集まり、米ダウ工業株30種平均主要株価指数が取引時間中に一時最高値を更新。一方で金や円といった安全資産は売られ、米国債利回りも急上昇(価格は急落)した。
投資家の間ではかねてから、世界経済の傷をいやし、金融市場に次なる大きな動きをもたらす最も重要な手掛かりは、新型コロナに対する効果的なワクチンの開発だとの見方が広がっていた。そして実際に今後数カ月中にワクチンの実用化の可能性が見通せる段階になったことで、さまざまな「想定」も軌道修正を迫られかねない。つまり米議会が可決を必要とする追加経済対策の規模や、米連邦準備理事会(FRB)がどれぐらいの期間、超低金利を継続しなければならないかなどだ。
一方、パンデミックで手堅い収益力を持つと証明された大型ハイテク株やモメンタム株の魅力は低下するかもしれない。9日にはアマゾン・コム (O:AMZN)などそうした銘柄の値動きが全般に比べて見劣りした。
クレセット・キャピタル・マネジメントのジャック・アブリン最高投資責任者は、有望なワクチン候補の登場で、人々の健康と経済活動の両面において新型コロナの悪影響から立ち直る道筋が投資家に見えるようになったと思うと述べた。
感染対策による各種規制措置で身動きが取れなくなっていた航空、クルーズ船、ホテル、カジノといった業種は9日、エネルギーや金融、工業などの景気敏感セクターとともに軒並み高騰した。
これらの多くはバリュー株に属し、今年は成長株に比べて相当出遅れていた。ところが9日は両者の立場が逆転し、ラッセル1000バリュー株指数 (RLV)が5%余り上昇したのに、ラッセル1000成長株指数 (RLG)の上昇率は0.5%にとどまった。
ここ数カ月、iシェアーズ・ラッセル1000バリュー株上場投資信託(ETF) (P:IWD)を購入し、テクノロジー・セレクター・セクターSPDRファンド (P:XLK)の保有を減らしてきたキングスビュー・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ポール・ノルテ氏は、ハイテク株は事実上、人々の在宅生活局面での保守的とも言える投資対象になっていたと指摘。ワクチンが機能すれば「少なくとも人が再び集まる機会が生まれ、過去半年前後にわたって苦境に置かれていた多くの業界にとって追い風になる」と付け加えた。
ソシエテ・ジェネラルの北米株式計量分析戦略責任者ソロモン・タデッセ氏によると、過去にはモメンタム株が犠牲になる形でバリュー株が持ち直してきたケースが多々あった。例えば2009年には3カ月間でバリュー株が25%上がり、モメンタム株がおよそ30%下落した場面が見られたという。
JPモルガンのストラテジストチームは9日のノートで、ワクチン関連の明るいニュースと世界同時的な景気拡大期待、米議会勢力図が選挙結果を受けて拮抗する可能性という組み合わせは、新型コロナ危機で打ちのめされてきたバリュー株が一気に上昇する起点になるはずだとの見方を示した。
(Tom Westbrook記者、Lewis Krauskopf記者)