[東京 30日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は30日、共同通信社「きさらぎ会」での講演で、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の買い入れについて「従来以上にめりはりをつけた買い入れを行うことで持続性と機動性を高めることができる」と説明した。講演後の質疑応答では、政府が進めるグリーン化・デジタル化について、日本の成長力強化に極めて重要な施策であり、「日銀は緩和的な金融環境を提供することで変革に向けた動きをサポートしていくことが基本になる」と述べた。
黒田総裁は気候変動リスクへの対応について、実体経済や金融システムにも影響を与えることから中央銀行の使命にも関係してくると指摘。「物価の安定と金融システムの安定という使命に即して必要な対応を検討していく」と述べた。
<金利の大幅上昇に警戒感>
日銀は18―19日の金融政策決定会合で政策点検の結果を取りまとめ、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運営やETFなど資産買い入れの手法を見直した。黒田総裁は講演で、政策点検について詳しく説明した。
黒田総裁はETF購入について、年12兆円を上限に「市場の状況を見極めながら、必要に応じて、買い入れを行う」と述べた。買い入れ対象をTOPIX連動型に一本化したことについては「一部の銘柄の株式の間接保有比率が偏って高まることを避けるため、今後、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するETFのみを買い入れることにした」と説明した。
日銀は決定会合で、長期金利の変動幅を「上下0.25%程度」と明確化した。黒田総裁は、YCCの持続的な運営のためには「市場機能の維持と適切な金利コントロールとの両立を図ることが重要だ」と指摘。「金利の変動が一定の範囲内であれば、緩和効果を損なわず、国債市場の機能にプラスに作用することが点検で行った分析から改めて確認された」と述べた。
その一方で、金利の大幅な上昇に警戒感を示した。黒田総裁は「金融緩和の効果を確保するためには、金利が大きく上昇する場合にはそうした動きをしっかりと止める必要がある」と指摘。今回導入した連続指し値オペを活用することで「必要な場合に、これまで以上に強力に金利の上限を画することが可能になる」と述べた。
対照的に、日々の動きの中で金利が一時的に下限を下回るような場合には「金融緩和の効果を損ねることはないので、そうした動きには厳格には対応しない」と明言した。
<来年度は「はっきりとしたプラス成長」>
黒田総裁は、足元の経済について「対面型サービス以外の経済活動は、世界貿易の回復や巣ごもり需要にも支えられ、相応に維持されている」と話し、感染症の影響に経済が
左右される状況は続いているものの「持ち直しの動きは維持されている」と述べた。「まもなく始まる2021年度は、今年度の落ち込みの反動に加え、政府の追加経済対策の効果もあって、はっきりとしたプラス成長になるとみている」とも語った。
<金融政策「やや複雑になっている」>
講演後の質疑応答では、日銀が修正を重ねてきたことで金融政策の全体像が複雑になったとの指摘に対し、黒田総裁は「手段としてやや複雑になっている面がある」と認めた。その上で、政策の目標や考え方を示していくことに加えて、経済・物価動向を分かりやすく示していくことも重要だと指摘。「コミュニケーション面で不断の努力を重ねていきたい」と述べた。
米国政府の積極財政については「米国経済の回復は日本を含め、世界経済にとって望ましい」との考えを示した。黒田総裁は「米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が経済再開に伴う支出増などから物価の押し上げ圧力は生じ得るが、これらはインフレ率に一時的な効果しか与えない可能性が高いと述べている」と指摘。その上で「私自身もパウエル議長の見解が中庸を得たものと考えている」と語った。
*内容を追加し、構成を変更しました。
(和田崇彦、杉山健太郎 編集:内田慎一)