[シンガポール 25日 ロイター] - 米ドルが急上昇し、中国が人民元の防衛に動いていることで、アジア諸国の中央銀行は自国通貨を買う市場介入を余儀なくされている。これらの中銀は、減速する経済を支えるため徐々に金融緩和を進めたい意向だったが、通貨安のためにそれも阻まれている。
インドネシア、韓国、フィリピンの各中銀は今月、予想通り政策金利を据え置いた。
投資家は、インフレの鎮静化と景気刺激の必要性から、これら中銀が将来の利下げを示唆すると期待していた。しかし、中銀の焦点は通貨安へとシフトしていた。
バンク・オブ・シンガポールの通貨ストラテジスト、モー・シオン・シム氏は「アジア中銀は拙速な利下げを非常に警戒している」と述べた。
フィリピン中銀が、将来の利上げの可能性を維持するとのメッセージを発したことについて、シム氏は「通貨安が勘案され始めていることを示すシグナルだろう」と語った。
インド準備銀行とインドネシア銀行(ともに中銀)はここ数日、下落する自国通貨を支えるために市場介入を行っている。フィリピンとタイの中銀も為替介入をちらつかせた。
一方、中国はゼロコロナ政策解除後の景気回復が失速したことと、主要各国との金利差拡大を背景に、人民元が一時5%も急落。その後、当局は人民元防衛の取り組みを強化した。
これを受け、他のアジア各国も重視する問題を単なる輸出競争力から、為替の安定および資本フローへとシフトさせた。
<間接的な為替防衛>
インドネシア銀行は24日に金利を据え置き、通貨ルピアの安定を図る意向を強調した。
ルピアは年初に比べドルに対して2%上昇しているが、米連邦準備理事会(FRB)が予想以上に長期間にわたって高金利を維持するとの見方からドルと米国債利回りが上昇したため、足元では下落している。
インドネシアの経常収支は第2・四半期、2年ぶりに赤字に転換した。
インドネシア中銀のワルジヨ総裁は「あらゆる国々が通貨安を経験中だ。われわれは、介入を通じた為替レートの安定に注力する」と述べた。
インドネシア中銀は、来月から新たな短期証券の入札を行うことも発表した。米国債の利回りが上昇しても外国からの投資を呼び込むのが狙いだ。
INGのアジア太平洋調査責任者、ロブ・カーネル氏は「大幅に改善したインフレの数字に対応しないというよりは、経常収支への警戒感がやや強まったということだろう。経常収支は通貨を強力に下支えできなくなった」と語った。
カーネル氏は、ドルが下落し始めるか、FRBが高金利を長期間維持するとの見方が崩れ始めるのを、インドネシア中銀は待っているとの見方を示した。
韓国ウォンは今年、ドルに対して5%余り下落しているが、韓国中銀は年内に利下げする可能性を排除していない。
フィリピンペソは先週、中国とFRBに関する懸念から9カ月ぶりの安値を付けた。
ロイター調査によると、アナリストは、アジア各国の中銀が最終的には利下げに着手すると予想している。ただし、FRBの政策見通しとインフレ基調がもっと明確になりそうな来年までは、利下げに二の足を踏みそうだという。
(Ankur Banerjee記者)