Howard Schneider
[ワシントン 22日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)の政策担当者には、インフレ退治は一筋縄ではいかないとの思いがあり、足元で物価上昇率が減速していてもなお、「勝利宣言」をためらっている。
2023年12月のデータからは、その理由が読み取れる。
消費者物価指数(CPI)は総合ベースで上振れしたものの、コアCPIは鈍化した。卸売物価指数(PPI)は下落、小売業者による上乗せ利幅の指標も急低下し、価格競争が広がってきた可能性がうかがえる。
しかし住居費は上昇を続け、自動車保険料を含めた各種サービスの価格も上がっている。アトランタ地区連銀の賃金トラッカーは最近、現在の就業者の賃上げ率が加速したことを示しており、高い賃金の伸びが続いてきた労働市場がクールダウンしつつあるという見方に明らかな反証を提示した。
金融市場はFRBが早ければ3月にも利下げを開始すると期待しているが、FRBの政策担当者の考えは異なる。彼らとしては、利下げに動く前に、物価上昇率が目標とする2%に戻り、そこに定着すると確信できるより確かな証拠を求めているのだ。
<射程圏内>
FRBは30─31日に開催する次回の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を5.25─5.50%に据え置く見通し。背景には、一部の物価指標がはっきりとFRBの望む方向に転じている半面、別の指標は落ち着くかどうかまだ分からないという事情がある。
FRBのウォラー理事は先週、利下げ開始の検討に際して議論の基本的な枠組みとなる考え方を披露している。
ウォラー氏は、足元の物価上昇率はFRBの目標まで「射程圏内」にあるとの見方を示し、重要視している個人消費支出(PCE)物価指数の11月までの6カ月ベースでは前年比上昇率が目標と同じ2%になった点を指摘した。26日に発表される12月のPCE物価指数も下振れ傾向を維持すると予想されている。
つまりインフレ再燃リスクは小さくなってきた。それでもウォラー氏は「想定される最悪の事態は、(物価情勢の)全てが逆に(上向きに)動いているのに、われわれはもう利下げを始めているという展開。われわれは今の改善の流れが続くという証拠がほしい。私はこれが持続すると信じるが、FRBとして決断が可能になるまで見守る必要がある」と語った。
<ベース効果の先>
ではFRBを確信に導く要素は何か。
今後数カ月の物価上昇率は、いわゆる「ベース効果(比較対象の前年分が高水準なため伸びが小さくなること)」で鈍化が期待される。
だがFRBの政策担当者はその先の、さまざまな品目のより短期的な価格動向を見定めて、企業の値上げ意欲が本当に弱まっているかどうかの感触を得ようとするだろう。
既に多くの製品ではそうした事態が起きており、モノの価格は9月から12月までで約1%下落した。変動の大きい食品とエネルギーを除くモノの価格は7カ月にわたって下がり続けている。在庫もコロナ禍期間の積み直しで潤沢になり、在庫・売上高比率はコロナ禍前にほぼ等しい。
それでも政策担当者は、このような状況を過度に重視するのを避けている。物価上昇圧力の復活につながりかねないと心配される要因として、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の商船攻撃による紅海の物流混乱や、米中の貿易摩擦が挙げられる。
<住居費の動き>
21年2月までの12カ月の住居費伸び率は、コロナ禍前の半分弱に切り下がっていたが、そこから値上がりが加速して23年3月までに伸び率が8.2%まで高まった。足元までには再び鈍化し、FRBは住居費の「ディスインフレ」は続くとの自信を崩していない。
ただそのディスインフレのペースが非常にゆっくりであるため、一部の政策担当者は住居費の高止まりを警戒している。
シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は今月のロイターのインタビューで「幾つかの危険要素の中で、住宅インフレ問題は目先の重要なピースだと思う」と述べた。
新入居者向け家賃のリアルタイム指標は今後の家賃上昇鈍化を示唆しており、最終的には物価全体を押し下げるはずだ。それでも改善が頭打ちになっているケースがある上、住宅建設と販売、住宅ローン金利、雇用創出や賃金上昇といった各要素が複雑に作用し合う構図を踏まえると、有力エコノミストの間でも住宅インフレがどこまで、どういったペースで収まるか意見はまとまっていない。
住居費は、CPI算出に利用される品目バスケットの約3分1のウエートを占める。PCE物価指数ではウエートがその半分程度に減るものの、政策担当者としては、住宅インフレが想定通り落ち着かない限り、利下げに尻込みするかもしれない。
<最終問題>
FRBのインフレ退治が最終的に一つの問題に絞られるとすれば、米経済の3分2を担うサービス部門全般の価格が、航空運賃のような動きになるのか、それとも自動車保険料のような軌道をたどるのかになるだろう。
22年6月にCPIの前年比上昇率が9%超と直近のピークに達した時点で、自動車保険料と航空運賃はそれぞれ約0.15%ポイントと0.18%ポイントの寄与度だった。しかし現在、航空運賃は9カ月連続で下落しているのに対して、自動車保険料は12月までの1年間で20%も上昇し、同月のCPI前年比上昇率(3.4%)への寄与度は0.5%ポイントになった。
住宅以外のサービス価格は上昇が鈍っているがなお水準は高く、一部の政策担当者はそうした高止まり傾向が続くのではないかと心配している。
リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は今月、物価情勢に関しては上昇と下落双方向の力がせめぎ合っているとの見解を示した。
この綱引きの行方がFRBの政策判断に影響を及ぼす可能性は十分にある。バーキン氏は「顧客や競争相手から不可能のシグナルを突きつけられるまで値上げされる。コロナ禍は個人と企業どちらの購買者にとっても状況が複雑だったため、価格水準の面で何が正常なのかの感覚を取り戻すのは難しい。だからわれわれは全ての要素がどのように展開していくのかを見極める」と強調した。