基太村真司
[東京 28日 ロイター] - 「夏の円高」が例年よりひと足早くやってきた。ドル安が勢いづいてきたことに季節要因も加わり、ドルは来月に102円台まで下落するとの試算も出始めた。今後の展開を左右するポイントとなるのは、米国やドルの要因だけでなく、ニュージーランドで9月に行われる総選挙も、意外な鍵を握る可能性がある。
<8月の円高、確率77%>
外為市場の風物詩、夏の円高が発生するのは主に8月だ。98年以降、7月末のドル/円が月初の水準を下回る、つまり月間で円高に振れたのは22回中10回と5割にも満たない。
ところが8月に入ると様相は一転する。円高となったのは過去22回中17回。その確率は77%に急上昇する。
その背景となる主な要因は、1)米国債の利払いや償還が集中して国内投資家が資金の一部を円に替える、2)夏季休暇入り前に企業が外貨建て債券を集中的に円転(外債を売却して円に替える)する、といったものとされる。
さらに、グローバル投資家が夏の閑散相場の間、資産をいったん米国債へ逃避させることで米金利が低下しやすくなり、ドルに下げ圧力が及びやすいこと、参加者が少なく流動性が低下した市場では、短期筋の仕掛け的な円買いが機能しやすいことなども影響を及ぼしている。
<経験則からみた下値めどは104円台>
三菱UFJ銀行によると、12年末の安倍政権発足以降、7月月初から8月安値までの平均下落率は2.8%。最大は15年の5.2%だった。
今年の7月月初のドルは107.98円。平均値に沿えば8月安値は104.96円、最大値になると102.37円まで下落する計算となる。
同行のチーフアナリスト、内田稔氏は「夏にかけて不確実性が高まる恐れが強く、リスク回避姿勢の台頭とともに、ドル/円が下落する可能性には十分留意が必要だ」と指摘する。
<夏の円高、最も顕著は対NZドル>
現在進んでいる円高は、米ドル安が主導しているとの見方が大勢だ。米国での新型コロナウイルスの新規感染者数や追加財政出動の思惑などが国債金利を低下させ、主要通貨に対するドルの値動きを示すドル指数 (=USD)は約2年ぶり水準へ低下した。
しかし例年、8月の円高は対ドルのみで集中的に発生する訳ではない。ソシエテ・ジェネラルが2000年以降、毎年8月の主要10通貨の変動率を調べたところ、最も下げが目立ったペアはNZドル/円で、月間の平均下落率は2%弱。金融危機が発生した10年以降では、16年を除くすべての年で下落した。
NZドルが8月に下落しやすい理由ははっきりしない。ただ、豪ドル/円も同期間に17回下落していることを考慮すると、夏の閑散相場の下では、リスク選好の際に買われるような通貨は、人気が落ちやすい可能性があるとみられている。
そのNZでは今年9月、3年ぶりに総選挙が行われる。シティグループ証券が前回2017年まで過去11回、総選挙時のNZドルの動きを調べたところ、選挙の5週間ほど前から2週間後にかけて、対米ドルで下落する傾向が見られたという。その期間中に下落したのは9回、平均下落率は5%強だった。
投票日は9月19日で、その5週間前は8月15日。米国債の償還が集中して日本勢の円買い発動がうわさされる時期にあたる。NZドルの下げが対円でも進めば、円相場全体にかかる上昇圧力はより強くなり、対ドルでも円高に振れやすくなる。
(編集:伊賀大記、青山敦子)