Shinji Kitamura
[東京 16日 ロイター] - 為替市場で進むドル高/円安が輸入企業の為替リスク管理計画を狂わせている。想定外の大幅円安で中小を中心に多くの企業の為替前提が崩れ、リスク回避策の再構築が迫られている。投機の動きなどを背景に円安の勢いが続いているだけに、こうした実需のドル買いが膨らめば値動きが増幅する可能性がある、との思惑も出ている。
<介入ライン突破もまだ実弾投下なし>
これまで市場で介入ラインと目されてきた152円を突破して以降、ドルは4営業日でさらに2円超上昇し、1990年6月以来34年ぶり高値となる154円台まで上昇した。その原動力は米利下げ見通しの後ずれと米金利高で、金融政策の行方を示すとされる米2年債利回りは一時5%台と、23年11月に付けた18年ぶり高水準へ迫る勢いを見せている。
日本政府がまだ介入に踏み切らない理由として市場で挙げられているのは、ドル主導の上昇であることと、円安の勢いがまだ限られていることだ。
米消費者物価指数(CPI)が発表された10日以降、ドルは対主要通貨でほぼ全面高となり、ユーロや豪ドルに対して5カ月ぶり高値を更新した。「中東情勢の緊張に米経済指標の上振れ、欧州中央銀行(ECB)の利下げ期待と、ドル買いムードは着実に高まっている」(りそなホールディングスのシニアストラテジスト、井口慶一氏)という。
一方、ユーロや豪ドルの下げは対円相場にも響き、対ドル以外の円相場は以前のような全面安となっているわけではない。通貨オプション市場でも、1カ月物のドル/円の予想変動率(インプライド・ボラティリティ)は現在9%台と、前回介入時の15%前後に及ばず、現時点で円が投機に狙い撃ちされているとは断定しづらい状況ともいえる。
<155円で「ノックアウト」、上抜ければ弾みも>
もともと市場では、ドルが前回介入時高値を上抜けて152円台へ乗せた後、投機の参戦もあって円安が勢いづいた時に介入が入るとの見方が多かった。そのため、ドルのじり高が続いている現在、154円台へ乗せても、いつ実施されてもおかしくないとの見方にあまり変わりはない。
そこで注目を集めてきたのが、ドル155円の節目だ。
22年9月に過去最大の円買い介入が行われた後、ドルは151円台から翌年1月に127円まで下落した。輸入を手掛ける多くの中小企業が、その円高局面で長期の為替予約に動いたとされる。
そうした企業の多くが利用するのは「ノックアウト・オプション」と呼ばれるもので、一定の期間中に設定した水準を超えなければ損失が限定されるものの、超えると権利が消失する。その上限、市場で「ノックアウト・ポイント」と呼ばれる注文が集中するのが「155円前後ではないか」(シティグループ証券通貨ストラテジストの高島修氏)と見られている。
為替予約が消失した企業は、再び同様の契約を結び直さねばならず、その執行は市場で円安圧力となる。高島氏は「この水準を超えてドル高/円安が進むと、無秩序な円安となりかねない。当局の通貨防衛も難しくなるだろう」と話す。
ドルは前日海外で一時154.45円まで上昇し、1990年6月以来34年ぶりの高値を更新した。岸田文雄首相の訪米中は日本の当局は市場介入を実施しづらい、との思惑もあっただけに、首相が帰国した現在、市場では円買い介入への警戒感が一段と高まっている。
(基太村真司 編集:橋本浩)