Maria Tsvetkova Polina Nikolskaya
[ロンドン 3日 ロイター] - 飲酒をとがめられた新兵。命令に背いた兵士。そして受刑者――。
今年、こうした軍紀違反者や民間の犯罪者ら数百人が、「ストームZ」と呼ばれるロシアの懲罰部隊に投入され、ウクライナの前線に派遣されている。ロイターでは、ストームZ部隊の兵士5人を含む13人の関係者に取材した。
生き残って自分の体験を語れる者はほとんどいない、と彼らは言う。
正規軍兵士の1人は、「ストームZ部隊の兵士はただの『肉』だ」と語る。匿名での取材に応じたこの人物は陸軍第40318部隊に所属し、今年5月と6月、激烈な争奪戦の舞台となったウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムト周辺に派遣された。
戦場ではストームZ部隊の負傷兵6、7人の集団を治療した。名前も知らない指揮官からは放置しておくよう命じられたが、従わなかった。命令の理由は分からないとしつつ、将校らがストームZの兵士を通常の兵士より下に見ている典型的な例だと主張している。
ストームZの兵士らが置かれた苦境には同情しているという。「息が酒臭いことを将校に気付かれた兵士は即時、ストームZへ直行だ」
ロイターは第40318部隊の将校の1人に接触したが、ストームZについてはコメントを控えるとして通話を切られてしまった。ロシア政府に問い合わせたところ国防省に回されたが、コメント要請への回答は得られなかった。
政府の統制下にあるロシア国内メディアでもストームZ部隊の存在は報じられており、激戦に投入され、所属兵士の中には勇敢な行動を表彰された者もいるとされる。だが、部隊編成の実状や、被った損失については明らかにされていない。
ロイターは報道機関として初めて、実状を直接知る複数の情報提供者に取材し、ストームZ部隊の編成や配備について包括的な記事にまとめた。
取材に応じた13人には、ストームZ部隊兵士の親族4人のほか、同部隊と関わりのあった正規部隊の兵士3人が含まれている。前述の第40318部隊の兵士同様、全員が報復を恐れて匿名を希望している。ロイターでは、記事に関連する兵士全員について、犯罪歴やソーシャルメディアのアカウント、戦友や家族らへの取材に基づいて、その身元を確認した。
関係者によれば、この懲罰部隊は各100―150人程度で構成され、正規軍部隊に組み込まれる。通常は前線の最も危険な場所に派遣され、甚大な損失を被ることも多いという。ウクライナ側による東部および南部での反攻を撃退するために投入された、少なくとも5つのストームZ部隊も関係者によって特定された。
取材したストームZ部隊の兵士5人のうち3人、および他部隊の兵士3人の親族は、所属する兵士の大半が命を落としたという悪夢のような戦闘について語った。
窃盗罪で服役していた刑務所から動員された1人の兵士の話では、第237連隊に従軍していたストームZ部隊120人のうち、6月のバフムト近郊での戦闘で無事だったのは15人だけで、残りは死傷したという。
こうした懲罰部隊の配置は、ウクライナ侵攻におけるロシアの逸脱ぶりを示している。6月の反乱の後に解散させられた民間軍事会社ワグネルが受刑者を前線に送り込む例はあったが、ストームZは国防省直属の部隊だ。
別の関係者によれば、ストームZでは減刑の約束と引き替えに戦闘への参加を志願した受刑者と、軍紀違反により処罰された正規軍兵士が混在しているという。
戦況の推移を追っている独立系調査組織「紛争情報チーム(CIT)」によれば、ストームZはロシア国防省にとって、使い捨ての歩兵部隊として展開できる便利な道具になっているという。ロシアで設立されたCITは「ストームZの兵士は前線において、防御面であれ攻撃面であれ最も危険な場所にひたすら送り込まれている」と述べている。
ロシア国防省がストームZ部隊の創設を認めたことはないが、その存在が最初に報じられたのは4月のことだ。米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」がロシア軍から漏えいしたものとして引用した報告書に、同部隊の編成が書かれていたのだ。
ロイターはストームZ部隊に所属する兵士の総数を割り出すことはできなかったが、取材に応じた実状に詳しい人々は、現在少なくとも数百人のストームZ部隊兵が前線に配備されていると指摘している。
搭乗機の墜落事故で死亡したワグネル創設者のプリゴジン氏は、6月の反乱の際、ワグネルには約2万5000人の戦闘員がいると述べていた。
プーチン大統領は9月29日、正規軍に混じって戦闘に参加している受刑者に言及した。プーチン氏はテレビ番組の中で、ロシアの職業軍人からなる少人数のグループと会談し、彼らの戦友である元受刑者2人が戦死したと言明。「彼らは母国のために命を捧げ、自分の罪を十分に償った」と述べ、詳細には触れなかったものの、受刑者の家族には支援が与えられるだろうと続けた。
軍紀違反者の前線部隊への投入には歴史的な前例がある。第2次世界大戦中の1942年、旧ソ連軍がナチスドイツの侵攻を受けて退却を重ねていた頃のことだ。ソ連の指導者だったスターリンが、パニックに陥ったり持ち場を離れたりした兵士らを「懲罰部隊」へ配属し、前線の最も危険な場所に配置したことが、スターリン自身の署名した政令で確認されている。
ウクライナ政府も、戦闘への参加に同意することを条件に一部の受刑者を釈放していると明らかにしている。
<刑務所を出て殺りくへ>
「ストームZ」というのはロシア軍で使われている俗称で、突撃部隊を意味する「ストーム」と、ロシア軍がウクライナ侵攻の象徴として使う「Z」を組み合わせたものだ。
モルドビア出身のアルチョム・シューキンさん(29)は2021年12月に強盗容疑で懲役2年を宣告されたが、国防省の徴兵担当者が刑務所を訪れ、ウクライナに行って戦うことを希望する受刑者はいないか打診したという。裁判所の記録およびシューキンさんの親族2人の談話により確認した。
今年12月には釈放されるはずだったシューキンさんは、この募集に応じた。家族によれば、前科を消し、家族のため家の修繕資金を稼ぎたいと考えていたからだという。ストームZ部隊の兵士3人は月20万ルーブル程度(約30万円)の給与を提示されたが、実際には、平均してその半分程度しか支給されていないと話している。
家族によれば、シューキンさんは今年5月、第291親衛自動車化狙撃連隊に従軍する懲罰部隊に配属となり、ウクライナ南部ザポロジエ州に派遣された。そこではウクライナ軍がロシア軍の防衛線突破を試みていた。
ロイターで同連隊本部の当局者に問い合わせたが、回答は得られなかった。
ザポロジエ州にロシアが設けた行政機関の当局者で、この紛争について定期的に最新情報を公開しているウラジミール・ロゴフ氏は、第291連隊は今年の夏、同州で戦闘を続けてきたと対話アプリ「テレグラム」に投稿している。ロイターはロゴフ氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
シューキンさんから家族への連絡は、6月18日を最後に途絶えた。
<従軍中の泥酔、薬物使用>
2人の兵士によれば、懲罰部隊の中心は元受刑者だが、軍紀違反に対する懲罰として正規部隊の兵士が配属されることもあり、自分の部隊にはそうした形で異動してきた兵士もいたという。殺人未遂で服役していた「イゴール」と名乗るストームZの兵士も同様の証言をしている。
この2人の兵士のうち1人は第40318部隊所属で、将校らは勤務中の飲酒、薬物の使用、命令遂行の拒否などの理由で兵士をストームZに送り込んでいたと話している。
軍隊の規律に関するロシアの法律によれば、兵士が懲罰部隊に異動させられるのは、軍事法廷により有罪を宣告された場合に限られる。だが、ストームZに送り込まれた兵士について取材に応じた人々は、誰1人として、そのような兵士が軍事法廷で審理を受けたとは語っていない。先週ロイターが接触した第40318部隊出身の兵士は、そうした異動に伴う軍事裁判は全く行われていないと述べており、イゴールと名乗るストームZ兵も、やはり軍事裁判が行われた例は知らないと話している。
戦時国際法を定めたジュネーブ条約は、自軍内部での兵士の処罰については扱っていない。
<ストームZの反乱>
ザポロジエで第22179部隊に所属していた約20人のストームZ部隊は扱いに耐えかね、前線に戻れという命令を拒否した上、6月28日には処遇への不満を示す動画を撮影した。ロイターは、この部隊の連絡先とされる番号に電話をしたが、使われていなかった。
兵士の1人はこの動画で「私たちがいた前線には、弾薬が補給されなかった。水も食料もなかった。負傷者は搬送されず、遺体は今も放置されている」と語った。「実行する価値もないような恐ろしい命令を下される。われわれは戦闘続行を拒否する」
動画は撮影当日、ロシアの受刑者の人権擁護を求めてフランスで活動する団体「グラグ・ネット」により公開され、ロイターもこれを閲覧した。ロイターはこの反乱に参加した2人の兵士の身元を確認し、それぞれの親族に話を聞いたところ、動画の証言が裏付けられた。
2人の親族によれば、動画の公開後、2人の兵士および同じ部隊の兵士は反乱に対する処罰として、憲兵隊の将官から激しく殴打されたという。その後、2人の兵士は親族に待遇の改善を伝えてきたものの、2人が除隊を認められる時期については不明だという。
当局者らはこの件について公式にコメントしておらず、ロシア国防省はロイターの問い合わせに応じなかった。
刑務所で志願してストームZ部隊に所属し、その後反乱に参加したシベリア出身の兵士の親族は、前線からの知らせにおびえていると語った。
女性はこの戦争について「何ということか。とにかく早く終わってほしい」と嘆いた。
(翻訳:エァクレーレン)