Wa Lone
[トロント 9日 ロイター] - 成功を夢見てカナダにやってきた多くの移民が、生計の維持に苦しんでいる。生活コストが上昇し、賃貸住宅が不足しているためだ。国外流出人口は増加しており、移民たちが第2の故郷にしようと選んだカナダを再び後にせざるを得ない状況がうかがわれる。
人口増加の減速と高齢化というカナダが抱える大きな課題への対策としてトルドー首相が重視するのは、経済成長の加速にもつながる移民受け入れ推進だ。カナダ統計局によれば、今年、カナダの人口は移民の流入により過去60年以上で最も大幅な増加を見せた。
だがここに来て、このトレンドに逆行する動きも出始めている。公式統計によれば、2023年1─6月にカナダを離れた個人は約4万2000人。2022年は9万3818人、2021年には8万5927人だった。
移民に関する啓発団体「カナダ市民権研究所(ICC)」が最近発表した報告書によると、カナダを離れる移民の数は2019年、20年ぶりの高水準に達した。カナダ統計局のデータでは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けたロックダウンが導入された当時は流出は減少したものの、再び増加の傾向が現われている。
同じ時期に26万3000人の移民がカナダに流入していることを思えばわずかな数だが、識者の一部には、出国人数の着実な増加を懸念する声もある。
移民を基盤として成立したカナダにとって、国を離れる人々の増加傾向は、トルドー首相の看板政策の1つである移民受け入れ推進に影を落としかねない。トルドー政権はわずか8年のあいだに過去最高となる250万人に対して恒久的な在留許可を与えてきた。
ロイターでは、生活コストの高さを理由にカナダを離れた、あるいは出国を予定している6人に話を聞いた。
カラさん(25)は2022年、香港からの難民としてカナダにやってきた。現在、トロント東部スカボローで、地下のワンルームを月650カナダドル(約7万円)で借りているという。手取り収入の約30%に当たる金額だ。
「西側の国で生活しようと思ったら借りられるのは地下の部屋だけ、というのはまったくの想定外だった」とカラさんは言う。カラさんは、廃案となった「逃亡犯条例」に端を発する2019年の抗議行動に参加した後に香港を逃れたため、本名を伏せることを希望している。
カラさんはパートタイムの仕事を3つ掛け持ちし、オンタリオ州の最低賃金である1時間16.55カナダドルを稼ぎながら、大学の単位を得るために社会人向けの公開講座に通っている。
「ほぼ最後の1セントまで使ってしまう」とカラさん。香港では月給の約3分の1は貯蓄に回せていたという。
政府の公式データによれば、国外流出人口をカナダの総人口に占める比率で見れば、最高は1990年代半ばの0.2%で、現在は約0.09%にすぎない。
今のところ数そのものは小さいものの、弁護士や移民受け入れコンサルタントは、流出人口の増加は、移民先として最も人気のある国の1つというカナダの魅力に影を落としかねないと警告する。
ICCのダニエル・バーナード最高経営責任者(CEO)は、「(人々がカナダに留まる意思を固めるには)、移民してまもない時期にポジティブな体験を得られることが非常に重要になる」と語る。
別の国への再移民を考える気になった最大の理由として移民たちが挙げるのが、住宅コストの急騰だ。
RBCは9月に発表した報告書の中で、カナダの全国平均では、住宅保有のためのコストは家計収入の約60%に相当すると指摘している。バンクーバーではこの比率が約98%、トロントでは80%に上昇する。
ミョー・モウンさん(55)は30年前にミャンマーからカナダに移民し、不動産業やレストラン経営で成功を収めてきた。だが今、引退後はタイなどの国で生活することを計画している。カナダでは年金収入だけでは生活水準を維持できないと考えているからだ。
トロント大学で移民問題を研究するフィル・トリアダフィロプロス教授(政治学)は、急速な移民流入により住宅不足が深刻化していると語る。
「そうなると、カナダでの状況を体験した後で、選択肢のある人が別の国に向かう、あるいは母国に戻るとしても意外ではない」とトリアダフィロプロス教授は言う。
トルドー政権は先月、住宅市場への圧力を緩和するため、2025年以降の年間移民受け入れ目標について50万人という上限を設定した。
だが、この措置は手遅れで、踏み込みも甘いという人もいる。
ジャスティナス・スタンカスさん(38)は2019年にリトアニアからカナダに渡り、トロント大学で政治学の博士号を目指したが、今は生活コストが安く、研究を続けられる可能性のある東南アジアに移ることを考えている。
スタンカスさんが生活する1ベッドルームのアパートの家賃は光熱費込みで2000カナダドル。生活コストの高騰により、必需品の購入にも苦労するほどだという。
「大学院生の経済力では、これでは生活していけない」とスタンカスさんは言う。
香港出身のカラさんは、ここでは自由を感じられず、別の場所に移動したいと言う。「機会さえあればカナダを離れる。その機会をつかむつもりだ」
(翻訳:エァクレーレン)