和田崇彦 木原麗花
[田原本町(奈良県)/大津市(滋賀県) 22日 ロイター] - 環境保護や社会貢献が企業経営の重要指標になる中、日本の地域金融機関の間でも環境に配慮したビジネスを支援する「ESG金融」が活発化してきた。奈良県では信用金庫が森林再生に乗り出し、滋賀県では企業が立てた環境への貢献目標の達成度に応じて金利を優遇する融資制度を地方銀行が導入した。一方で、多くの地域金融機関は従来のCSR(企業の社会的責任)活動の域から抜け出せず、事業環境が厳しい中でどう収益につなげていくべきか、なお手探りの状態だ。
<吉野の山を守る>
日本三大名林の1つとされる吉野杉。安価な外国産材を使用する大手ハウスメーカーに押され、林業者、製材業者、建築業者、不動産業者と連なるサプライチェーンは分断、奈良県内の製材工場はここ20年で半分以下まで減少した。山から人がどんどん離れ、適切な植え替えがなされなくなったことで山は荒廃が進んでいる。
金融で吉野の山を守れないか──奈良中央信用金庫(奈良県田原本町)は吉野杉の利用を促し、かつてのサプライチェーンを復活させるプロジェクトに乗り出した。奈良県産の木材を使った住宅を建て、販売もしくは賃貸で投資を回収していく計画だ。間伐材を使った薪ストーブや太陽光発電を備え付け、環境問題への意識が高い人の利用を想定している。奈良中央信金は建築業者や不動産会社への融資のほか、経営アドバイスも行う。
ESG金融は、持続可能な経済と社会活動を支えるため、環境(E)・社会(S)・企業統治(G)の観点で企業やプロジェクトなどに資金を投融資する。環境省のアンケート調査によれば、日本では75%の金融機関が環境や社会に好影響を与える事業を成長領域と認識している。
メガバンクがグループ傘下の銀行、証券、研究部門などのリソースを活用して多角的に金融サービスを提供する半面で、地域金融機関は営業地盤とする地域の課題を掘り起こし、ESG金融で課題解決につなげることを目指す例が目立つ。
奈良中央信金の山田章生・地域産業創生部部長は「ESG、SDGs(持続可能な開発目標)は世界の流れ。地域の中小企業であってもこの流れに逆らって事業していくことはできない」と話す。吉野杉のプロジェクトは今年度、環境省の地域ESG金融促進事業の支援先金融機関に採択された。
琵琶湖のほとりに本店がある滋賀銀行は9月、地銀で初めてサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の提供を始めた。環境保全に貢献する目標を取引先企業に立ててもらい、その上で融資を実行、毎年の決算ごとに進ちょく度をチェックし、目標の達成度に応じて金利を優遇する仕組みだ。目標は「野心的かつ有意義でなければらない」と、環境省のガイドラインは定めている。
滋賀県は日本最大の湖を有するという土地柄、もともと環境保全に対する県民の関心が高く、そこに根を張る滋賀銀も1990年代から環境問題を意識した経営に取り組んできた。11月には滋賀銀を主幹事に、地銀合計16行によるシンジケートローン方式で再生エネルギーの開発などを手掛けるシン・エナジー(兵庫県神戸市)に運転資金25億円を融資した。
シン・エナジーは融資を受けるに当たり、再生エネルギーの発電所や地域新電力のプロジェクトを1年目に2件、その後はコンスタントに3件成立させる目標を策定。格付投資情報センター(R&I)から「野心的な目標」と認定された。
<「ボランティアでは続かない」>
一方、少子化をはじめ地方経済を取り巻く環境が厳しい中で、多くの地域金融機関はコスト削減を迫られ、ESGやSDGsの推進部署を置くことができずにいる。環境省のアンケートでは、案件の組成や環境・社会への影響を評価する専門部署の設置は10%に満たない。
地銀関係者からは「ESGやSDGsが重要だというのは分かっているが、具体的にどこから始めたらいいのか分からない」との声も聞かれる。CSR活動は地域貢献として以前から行っているが、事業の収益性を見極め、金融機関が融資することで社会を良くしていこうという点がESG金融は異なる。
滋賀銀行の嶋崎良伸・サステナブル戦略室長は「ボランティアでは続かない。利益を上げないと環境経営もできない」と話す。
奈良中央信金が進めるエコ住宅プロジェクトは、来年に賃貸住宅のパイロット版第1号が完成する予定。環境に配慮したものはコストが高くなりやすいが、賃料を高く設定すれば借り手が見つかりにくく、安くすると建設費用を回収できない。奈良中央信金は費用と収益のバランスについて調査を進めている。
環境省・環境経済課環境金融推進室の今井亮介室長補佐は「短期の利益を犠牲にしてまで、なるかどうかわからない中長期の利益を追い求めていいのかとよく言われるが、両立していくしかない」と話す。「中長期にわたって安定的に金融機関の経営をしていくには、先を見据えた種まきも必要だろう。そういうところに一部投資をしていく必要があるのではないか」と語る。
(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)