■中長期成長戦略と進捗状況
5. 基盤素材事業の事業ビジョンと進捗状況
(1) 基盤素材事業の使命と事業ビジョン
基盤素材事業の事業ビジョンは競争力の強化と収益安定性の増大だ。
同事業は石化製品・化学品の外販が事業の柱であるが、同時に、三井化学 (T:4183)の他のセグメントに対して様々な種類の素材を提供するという重要な役割があり、この部分での競争力なしには同社の成長戦略は成り立たない。
製品の対外販売では、川上に位置するという事業の性質上、原料ナフサ価格や石化製品・化学品市況(特に海外市況)の影響を受けて業績が変動しやすい特性がある。
収益変動性(ボラティリティ)を低下させ、安定的に一定水準の利益を確保することが同事業の最大の使命と言える。
基盤素材事業では2026年3月期の営業利益目標を300億円しているが、この目標値が意図するところは、基盤素材事業は市況サイクルによる収益変動が避けられないものの、サイクルをまたいで300億円前後の利益を着実に獲得できる収益体質を確立することを最大の目標とするということだ。
2026年3月期が化学品市況サイクルのどこにあるかは予測できないため、ベースとしての300億円を目標値としたに過ぎず、状況次第ではこれ以上の利益を目指すことになるだろう。
(2) 進捗状況と当面の見通し
基盤素材事業の収益体質改善は、2015年に参画していた京葉エチレン(株)から離脱し、自社の千葉・大阪両エチレンプラント(ナフサクラッカー)のフル稼働を可能としたところから始まる。
一番の川上であるナフサクラッカーの部分の設備稼働率が、川下の誘導品のコストを決定するためだ(基盤素材事業の収益構造や収益改善の取り組みの詳細は2016年1月6日付レポート参照)。
ナフサクラッカーのフル生産体制を確立するのと同時に同社が取り組んでいるのが“地産地消”と高付加価値品へのシフトだ。
同社の戦略上は、この2つは不可分の関係にあるとも言える。
地産地消とは、国内で生産した分は最大限国内で消費するという商流の確立を意味している。
その理由は、国内の石化製品はいわゆる原料フォーミュラ式の値決めが浸透しているためだ。
これは原料ナフサの価格を基準に一定の利幅を載せる形で各種誘導品の価格が決定されるという仕組みだ(両者の値動きのタイムラグで一時的には利幅の縮小・拡大はある)。
したがって利益は数量の変動に左右されることになる。
海外に輸出する場合はそうはいかない。
海外市場では、各化学品の価格は、コモディティ商品の原則どおり、その時々の需給バランスにより市況が決定されるためだ。
地産地消の収益構造を追求した結果、現在同社は、生産したエチレンの90%以上を国内で消費している。
しかも国内消費分の90%(総生産量に対しては約80%)は自社誘導品で消費している。
エチレンの輸出分が10%以下に縮小したことで同社の業績安定性は大きく改善した(一方で、海外市況高騰局面ではそのメリットを取りにくくなっているのも事実だ。
しかしそれは同社が目指すところではない)。
高付加価値品のシフトの狙いは単純に価格が汎用品よりも高いことだけではない。
地産地消を実現するためには、きっちりと国内で売り切ることが必要だ。
高付加価値型ポリマーは汎用品に比べて需要が安定しているという大きな特長がある。
汎用品がスーパーのレジ袋に使用される一方で高付加価値品がラミネートフィルムの基材として使われることをイメージすれば理解がしやすいだろう。
同社はエチレンの最大消費先であるポリエチレン(PE)樹脂において、汎用ポリエチレンのプラントを停止する一方、高機能タイプのポリエチレンの能力を増強した。
これはメタロセン触媒を利用した直鎖状低密度ポリエチレンで、エボリューTMブランドで販売されている。
ポリプロピレンや他の化学品も同様の方向性にある。
2018年3月期は三井化学SKCポリウレタンのシステム事業のインド拠点が第4四半期に稼働開始予定だ。
ポリウレタンのシステム事業については2019年3月期以降、グローバル展開が検討される見通しだ。
またシンガポールのエボリューTMのプラントの稼働率を高めるべく、アジア地域でのシーラント分野での需要獲得も期待されている。
より長期の視点では、国内のポリプロピレン設備の更新の検討や、次世代の差別化商品であるエボリューTMEの開発促進が図られる見通しだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
5. 基盤素材事業の事業ビジョンと進捗状況
(1) 基盤素材事業の使命と事業ビジョン
基盤素材事業の事業ビジョンは競争力の強化と収益安定性の増大だ。
同事業は石化製品・化学品の外販が事業の柱であるが、同時に、三井化学 (T:4183)の他のセグメントに対して様々な種類の素材を提供するという重要な役割があり、この部分での競争力なしには同社の成長戦略は成り立たない。
製品の対外販売では、川上に位置するという事業の性質上、原料ナフサ価格や石化製品・化学品市況(特に海外市況)の影響を受けて業績が変動しやすい特性がある。
収益変動性(ボラティリティ)を低下させ、安定的に一定水準の利益を確保することが同事業の最大の使命と言える。
基盤素材事業では2026年3月期の営業利益目標を300億円しているが、この目標値が意図するところは、基盤素材事業は市況サイクルによる収益変動が避けられないものの、サイクルをまたいで300億円前後の利益を着実に獲得できる収益体質を確立することを最大の目標とするということだ。
2026年3月期が化学品市況サイクルのどこにあるかは予測できないため、ベースとしての300億円を目標値としたに過ぎず、状況次第ではこれ以上の利益を目指すことになるだろう。
(2) 進捗状況と当面の見通し
基盤素材事業の収益体質改善は、2015年に参画していた京葉エチレン(株)から離脱し、自社の千葉・大阪両エチレンプラント(ナフサクラッカー)のフル稼働を可能としたところから始まる。
一番の川上であるナフサクラッカーの部分の設備稼働率が、川下の誘導品のコストを決定するためだ(基盤素材事業の収益構造や収益改善の取り組みの詳細は2016年1月6日付レポート参照)。
ナフサクラッカーのフル生産体制を確立するのと同時に同社が取り組んでいるのが“地産地消”と高付加価値品へのシフトだ。
同社の戦略上は、この2つは不可分の関係にあるとも言える。
地産地消とは、国内で生産した分は最大限国内で消費するという商流の確立を意味している。
その理由は、国内の石化製品はいわゆる原料フォーミュラ式の値決めが浸透しているためだ。
これは原料ナフサの価格を基準に一定の利幅を載せる形で各種誘導品の価格が決定されるという仕組みだ(両者の値動きのタイムラグで一時的には利幅の縮小・拡大はある)。
したがって利益は数量の変動に左右されることになる。
海外に輸出する場合はそうはいかない。
海外市場では、各化学品の価格は、コモディティ商品の原則どおり、その時々の需給バランスにより市況が決定されるためだ。
地産地消の収益構造を追求した結果、現在同社は、生産したエチレンの90%以上を国内で消費している。
しかも国内消費分の90%(総生産量に対しては約80%)は自社誘導品で消費している。
エチレンの輸出分が10%以下に縮小したことで同社の業績安定性は大きく改善した(一方で、海外市況高騰局面ではそのメリットを取りにくくなっているのも事実だ。
しかしそれは同社が目指すところではない)。
高付加価値品のシフトの狙いは単純に価格が汎用品よりも高いことだけではない。
地産地消を実現するためには、きっちりと国内で売り切ることが必要だ。
高付加価値型ポリマーは汎用品に比べて需要が安定しているという大きな特長がある。
汎用品がスーパーのレジ袋に使用される一方で高付加価値品がラミネートフィルムの基材として使われることをイメージすれば理解がしやすいだろう。
同社はエチレンの最大消費先であるポリエチレン(PE)樹脂において、汎用ポリエチレンのプラントを停止する一方、高機能タイプのポリエチレンの能力を増強した。
これはメタロセン触媒を利用した直鎖状低密度ポリエチレンで、エボリューTMブランドで販売されている。
ポリプロピレンや他の化学品も同様の方向性にある。
2018年3月期は三井化学SKCポリウレタンのシステム事業のインド拠点が第4四半期に稼働開始予定だ。
ポリウレタンのシステム事業については2019年3月期以降、グローバル展開が検討される見通しだ。
またシンガポールのエボリューTMのプラントの稼働率を高めるべく、アジア地域でのシーラント分野での需要獲得も期待されている。
より長期の視点では、国内のポリプロピレン設備の更新の検討や、次世代の差別化商品であるエボリューTMEの開発促進が図られる見通しだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)