■中長期の成長戦略:『2030年に向けた長期ビジョン』
1. 『2030年に向けた長期ビジョン』の概要
日本調剤 (T:3341)は2018年4月に『2030年に向けた長期ビジョン』を公表した。
その内容は、国内の社会構造の変化(超高齢化社会の進行など)や医療費削減の要請の増大、薬局に要求される機能の高度化と調剤薬局の淘汰などの環境変化を乗り切り、調剤薬局事業を始めとして各事業を飛躍的に拡大させ、2030年をメドとした企業規模を売上高1兆円にまで高めようというものだ。
同社はまた、市場シェアとして、主力の調剤薬局事業で10%、医薬品製造販売事業で15%の獲得を目標に掲げている。
調剤薬局事業については、市場規模が現状の約8兆円規模から2030年時点では約9兆円規模に拡大していると想定されるなか、10%のシェア獲得により9,000億円の事業に成長させることを計画している。
医薬品製造販売事業については、同社はジェネリック医薬品メーカーが将来的に大手5〜6社に集約されるとの見方を示しており、その中で勝ち残り組の一角を占めることへの意欲が15%という数値に込められているとみられる。
事業ポートフォリオとしては、現状は営業利益の約80%を調剤薬局事業が占めているが、2030年段階では調剤薬局事業以外の営業利益構成比率を50%程度にまで引き上げることを展望している。
医薬品製造販売事業の成長を加速させ、医療従事者派遣・紹介事業とともに、収益性を下支えする存在へと育成を急ぐ方針だ。
人材投資とICT投資で質の高い医療サービスを提供し、勝ち残り・シェア拡大戦略で飛躍的成長を目指す
2. 調剤薬局事業の成長戦略
国の調剤薬局に対する諸施策は、2015年10月に公表された「患者のための薬局ビジョン」に沿って進められている。
目指す薬局像の実現に向けて段階的に進められているが、2018年改定では国が目指す方向性が一段と明確になった。
国の医療・介護の施策における最高位概念には地域包括ケアシステムの実現がある。
調剤薬局にも地域包括ケアシステムの一端を担うことが期待されており、それに向けた薬剤師・薬局の理想像を示したのが「患者のための薬局ビジョン」だ。
その具体的あり方の1つがかかりつけ薬剤師・薬局であり、同社はこれに対してここ数年積極的に取り組んできた。
2018年改定では地域支援体制加算が新設され、改めて地域包括ケアシステムの実現(地域連携)を目指す国の姿勢が強調された。
その意気込みが厳しい実績要件8項目となって表れているのは前述のとおりだ。
実績要件8項目を分析すると、厳しさの本質が“連携”にあることがわかる。
薬局側の努力だけでは達成できない要件が含まれている。
また、個々の薬剤師に対して受け身からプロアクティブ(能動的)へと意識変革(と実際の行動)を要求する内容も含まれている。
このことは「薬局における対人業務の評価の充実」として2018年改定の主要項目ともなっている。
こうした国の方針のもと、同社の成長戦略は明快で一貫している。
すなわち、勝ち残りによるシェア拡大だ。
勝ち残りやシェア拡大自体は大手調剤チェーン各社に共通する普遍的なテーマと言える。
重要なことはそのための具体的方法論であり、実現に向けて信頼性や説得力のある取り組みがなされているかどうかだ。
結論から言うと、同社は勝ち残り・シェア拡大戦略を実現可能な最有力ポジションにあると弊社では考えている。
様々な理由の中で弊社が最も注目するのは、同社が一貫して追求してきた1店舗当たりの売上規模だ。
同社の1店舗当たり売上高は359百万円(2018年3月期実績)と、同業他社と比較して群を抜いて高い。
店舗売上高は処方箋単価と処方箋応需枚数の積で求められるが、同社はその両方において同業他社をしのいでおり、それが店舗売上高としてあらわれている。
処方箋単価については、同社の2018年3月期実績は14,739円だった。
これは他の調剤大手の処方箋単価が10,000円を中心に9,000円台~11,000円のレンジにあることと比較すると、40%前後高いことになる。
こうした処方箋単価の違いは、調剤技術料の違いに加えて薬剤料の差によるところも大きいとみられる。
薬剤料の差は、同社が店舗展開において大学病院やがん専門病院等の高度医療に対応する立地への出店を強化したことに起因していると考えられる。
処方箋応需枚数については、同社の2018年3月期実績ベースの店舗当たり平均応需枚数は24.1千枚だった(総応需枚数を、調剤店舗数の期首期末平均で除して算出)。
他の調剤大手の店舗当たり平均応需枚数は20千枚前後であり、同社の店舗が20%前後多い状況となっている。
応需枚数が他社を上回る要因の一部は、処方箋単価が高い理由と重なる。
それに加えて、同社が進める「患者のための薬局ビジョンに」で期待されている薬局の機能(かかりつけ薬剤師・薬局、高度薬学管理機能など)を着実に実践する過程において必然的に応需枚数が増加したものと弊社では推測している。
このようにみてくると、同社の店舗売上高の高さ(すなわち店舗の規模)がもつ意味というのは、単に業績を構成する一つの要素にとどまらず、各種加算の獲得(それは国の施策に適応していることを意味する)に相対的に有利な状況にあることや、当該店舗がそれぞれの地域において果たしている役割や機能などをを、示唆するものでもあると言える。
もう1つの重要なポイントは、調剤薬局が果たすべき役割や使命について、同社が一貫したビジョンを有し、その実現のために必要な投資を継続していることが挙げられる。
具体的には、同社は“質の高い医療サービスの提供と、医療費の増加抑制に向けた取り組み”が自社(の調剤薬局)に期待される役割という意識のもと、その実現に向けて人材投資とICT投資を継続的に行っている。
その体力を賄っているのは、前述の店舗当たり売上高によって象徴的な高効率経営から産み出される潤沢なキャッシュフローだ。
ICT投資や人材投資に裏打ちされた顧客(患者)志向の薬局づくりが高い店舗収益と高効率経営を実現し、それが再度ICT投資や人材投資を通じてサービスの質の向上につながるというポジティブ・スパイラル(正の循環)ができているということだ。
これこそが同社の成長戦略の核であり、同社の強みだと弊社では考えている。
以下では主要ポイントについて詳述する。
(1) ICTの取り組み
同社は次世代の調剤薬局は、医療費増加抑制に向けた医療の適正化・効率化を担う存在となり、医療・介護・健康管理・未病の各分野が連携するうえでのハブ(HUB)に成り得ると考えている。
その上で、それにはICT(Information and Communication Technology)の活用が不可欠であるとしてICT投資に取り組んできている。
同社のICT投資の特徴は「自社開発」だ。
同社が自社開発にこだわった背景には拡張性やスピード感を重視したことがあるとみられる。
現状では、電子お薬手帳「お薬手帳プラス」、調剤システム、在宅コミュニケーションシステムなどについて社内のICT化を完了している。
これまでかかりつけ薬剤師・薬局の推進などで効果を発揮しているほか、今後は、対人業務の強化や医療連携強化などを通じて地域包括ケアシステムの一翼を担うことが期待されている。
ICT投資は巨額の費用を要するが、同社はこれまでに大部分の投資を終えており、既にランニングコスト主体の費用構造へと移行しているとみられる。
したがって、大型ICT投資による収益圧迫のリスクは小さいと弊社ではみている。
(2) 人材育成
調剤薬局ビジネスは薬剤師を抜きには語れない。
しかし薬剤師に求められるものも従来とは大きく変わってきている。
これからクローズアップされてくるキーワードは「対人業務」と「専門性」だと考えられる。
この点について同社は、薬剤師の知識・スキル面における専門性を評価・推進する「薬剤師ステージ制度“JP-STAR”」を2018年4月にスタートさせた。
また、門前薬局における高度薬学管理機能への取り組みとして、外部評価による認定取得を推進している。
具体的には「外来がん治療認定薬剤師」を3年間で30名以上、「緩和薬物療法認定薬剤師」を3年間で20名以上、それぞれ創出することを目指して人材研修を実施している。
薬剤師の確保という点では、大手調剤チェーンとしての知名度の高さや、医療従事者派遣・紹介事業とのシナジー効果によって、相対的に優位なポジションにあると弊社では考えている。
(3) 出店戦略とM&A
出店戦略では、出店ペースについて同社は、年間50店の新規出店(自立出店とM&Aによる出店の合計)を基準に考えている。
店舗業態については、門前薬局、特に大手調剤チェーンの経営による効率化された店舗に対する国の目が厳しさを増しているなか、どう対応するかという課題がある。
この点について同社は、門前薬局もチャンスがあれば拡大する方向でありながらも、都市部を中心にハイブリッド型薬局(※)の出店を加速させていくものとみられる。
※ハイブリッド型とは、メディカルセンター(医療モール)型薬局(以下、MC型)と面対応薬局(複数の医療機関の処方箋を取り扱う薬局)の両方の機能を兼ね備えたタイプの店舗。
同社は全国の大学病院の約4割について門前薬局を開設するなど、大型門前薬局の割合は業界の中でも非常に高い状況にある。
ICTの活用による高効率経営や、門前薬局ならではの機能・サービスの提供で、門前薬局の有効性は今後も維持できるとみられる。
一方、ハイブリッド型薬局では健康サポート機能やかかりつけ薬剤師・薬局機能を充実させ、地域連携や未病・予防への取り組みの中核の役割を果たしていく方針だ。
M&Aによる出店に関しては、同社はM&Aに消極的な企業とみられることもあった。
消極的とみられた理由は、前述の店舗当たり売上高に代表される“日本調剤スタンダード”にかなう案件を吟味しながらM&Aに臨んでいたことにあると思われる。
結果としてM&A件数が同業他社に比して大幅に少ない状況が続いてきたことでM&Aに消極的という見方につながったと考えられる。
しかしながら、“業界再編本格化”や“生き残りによるシェア拡大”の先にあるのはM&Aによる店舗拡大であり、今後は同社もM&Aを積極化させてくることになるとみられる。
こうしたなか、M&Aに関する事業環境は従来よりも良化しつつあるようだ。
同社は、2018年改定を境に需給バランスが供給過多となり、案件の企業価値評価(買収価格)が低下していくと予想している。
また、案件の内容においても再生案件に該当するものが増加してくるとみている。
こうした環境変化は再生型M&Aの経験とノウハウを蓄積した同社には追い風と考えられる。
過去の実績において同社は、買収した店舗を買いっぱなしということはせずに、手を加えてきっちりと“日本調剤化”を図ってきた。
そうした実績に裏打ちされた同社の今後の進展に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
1. 『2030年に向けた長期ビジョン』の概要
日本調剤 (T:3341)は2018年4月に『2030年に向けた長期ビジョン』を公表した。
その内容は、国内の社会構造の変化(超高齢化社会の進行など)や医療費削減の要請の増大、薬局に要求される機能の高度化と調剤薬局の淘汰などの環境変化を乗り切り、調剤薬局事業を始めとして各事業を飛躍的に拡大させ、2030年をメドとした企業規模を売上高1兆円にまで高めようというものだ。
同社はまた、市場シェアとして、主力の調剤薬局事業で10%、医薬品製造販売事業で15%の獲得を目標に掲げている。
調剤薬局事業については、市場規模が現状の約8兆円規模から2030年時点では約9兆円規模に拡大していると想定されるなか、10%のシェア獲得により9,000億円の事業に成長させることを計画している。
医薬品製造販売事業については、同社はジェネリック医薬品メーカーが将来的に大手5〜6社に集約されるとの見方を示しており、その中で勝ち残り組の一角を占めることへの意欲が15%という数値に込められているとみられる。
事業ポートフォリオとしては、現状は営業利益の約80%を調剤薬局事業が占めているが、2030年段階では調剤薬局事業以外の営業利益構成比率を50%程度にまで引き上げることを展望している。
医薬品製造販売事業の成長を加速させ、医療従事者派遣・紹介事業とともに、収益性を下支えする存在へと育成を急ぐ方針だ。
人材投資とICT投資で質の高い医療サービスを提供し、勝ち残り・シェア拡大戦略で飛躍的成長を目指す
2. 調剤薬局事業の成長戦略
国の調剤薬局に対する諸施策は、2015年10月に公表された「患者のための薬局ビジョン」に沿って進められている。
目指す薬局像の実現に向けて段階的に進められているが、2018年改定では国が目指す方向性が一段と明確になった。
国の医療・介護の施策における最高位概念には地域包括ケアシステムの実現がある。
調剤薬局にも地域包括ケアシステムの一端を担うことが期待されており、それに向けた薬剤師・薬局の理想像を示したのが「患者のための薬局ビジョン」だ。
その具体的あり方の1つがかかりつけ薬剤師・薬局であり、同社はこれに対してここ数年積極的に取り組んできた。
2018年改定では地域支援体制加算が新設され、改めて地域包括ケアシステムの実現(地域連携)を目指す国の姿勢が強調された。
その意気込みが厳しい実績要件8項目となって表れているのは前述のとおりだ。
実績要件8項目を分析すると、厳しさの本質が“連携”にあることがわかる。
薬局側の努力だけでは達成できない要件が含まれている。
また、個々の薬剤師に対して受け身からプロアクティブ(能動的)へと意識変革(と実際の行動)を要求する内容も含まれている。
このことは「薬局における対人業務の評価の充実」として2018年改定の主要項目ともなっている。
こうした国の方針のもと、同社の成長戦略は明快で一貫している。
すなわち、勝ち残りによるシェア拡大だ。
勝ち残りやシェア拡大自体は大手調剤チェーン各社に共通する普遍的なテーマと言える。
重要なことはそのための具体的方法論であり、実現に向けて信頼性や説得力のある取り組みがなされているかどうかだ。
結論から言うと、同社は勝ち残り・シェア拡大戦略を実現可能な最有力ポジションにあると弊社では考えている。
様々な理由の中で弊社が最も注目するのは、同社が一貫して追求してきた1店舗当たりの売上規模だ。
同社の1店舗当たり売上高は359百万円(2018年3月期実績)と、同業他社と比較して群を抜いて高い。
店舗売上高は処方箋単価と処方箋応需枚数の積で求められるが、同社はその両方において同業他社をしのいでおり、それが店舗売上高としてあらわれている。
処方箋単価については、同社の2018年3月期実績は14,739円だった。
これは他の調剤大手の処方箋単価が10,000円を中心に9,000円台~11,000円のレンジにあることと比較すると、40%前後高いことになる。
こうした処方箋単価の違いは、調剤技術料の違いに加えて薬剤料の差によるところも大きいとみられる。
薬剤料の差は、同社が店舗展開において大学病院やがん専門病院等の高度医療に対応する立地への出店を強化したことに起因していると考えられる。
処方箋応需枚数については、同社の2018年3月期実績ベースの店舗当たり平均応需枚数は24.1千枚だった(総応需枚数を、調剤店舗数の期首期末平均で除して算出)。
他の調剤大手の店舗当たり平均応需枚数は20千枚前後であり、同社の店舗が20%前後多い状況となっている。
応需枚数が他社を上回る要因の一部は、処方箋単価が高い理由と重なる。
それに加えて、同社が進める「患者のための薬局ビジョンに」で期待されている薬局の機能(かかりつけ薬剤師・薬局、高度薬学管理機能など)を着実に実践する過程において必然的に応需枚数が増加したものと弊社では推測している。
このようにみてくると、同社の店舗売上高の高さ(すなわち店舗の規模)がもつ意味というのは、単に業績を構成する一つの要素にとどまらず、各種加算の獲得(それは国の施策に適応していることを意味する)に相対的に有利な状況にあることや、当該店舗がそれぞれの地域において果たしている役割や機能などをを、示唆するものでもあると言える。
もう1つの重要なポイントは、調剤薬局が果たすべき役割や使命について、同社が一貫したビジョンを有し、その実現のために必要な投資を継続していることが挙げられる。
具体的には、同社は“質の高い医療サービスの提供と、医療費の増加抑制に向けた取り組み”が自社(の調剤薬局)に期待される役割という意識のもと、その実現に向けて人材投資とICT投資を継続的に行っている。
その体力を賄っているのは、前述の店舗当たり売上高によって象徴的な高効率経営から産み出される潤沢なキャッシュフローだ。
ICT投資や人材投資に裏打ちされた顧客(患者)志向の薬局づくりが高い店舗収益と高効率経営を実現し、それが再度ICT投資や人材投資を通じてサービスの質の向上につながるというポジティブ・スパイラル(正の循環)ができているということだ。
これこそが同社の成長戦略の核であり、同社の強みだと弊社では考えている。
以下では主要ポイントについて詳述する。
(1) ICTの取り組み
同社は次世代の調剤薬局は、医療費増加抑制に向けた医療の適正化・効率化を担う存在となり、医療・介護・健康管理・未病の各分野が連携するうえでのハブ(HUB)に成り得ると考えている。
その上で、それにはICT(Information and Communication Technology)の活用が不可欠であるとしてICT投資に取り組んできている。
同社のICT投資の特徴は「自社開発」だ。
同社が自社開発にこだわった背景には拡張性やスピード感を重視したことがあるとみられる。
現状では、電子お薬手帳「お薬手帳プラス」、調剤システム、在宅コミュニケーションシステムなどについて社内のICT化を完了している。
これまでかかりつけ薬剤師・薬局の推進などで効果を発揮しているほか、今後は、対人業務の強化や医療連携強化などを通じて地域包括ケアシステムの一翼を担うことが期待されている。
ICT投資は巨額の費用を要するが、同社はこれまでに大部分の投資を終えており、既にランニングコスト主体の費用構造へと移行しているとみられる。
したがって、大型ICT投資による収益圧迫のリスクは小さいと弊社ではみている。
(2) 人材育成
調剤薬局ビジネスは薬剤師を抜きには語れない。
しかし薬剤師に求められるものも従来とは大きく変わってきている。
これからクローズアップされてくるキーワードは「対人業務」と「専門性」だと考えられる。
この点について同社は、薬剤師の知識・スキル面における専門性を評価・推進する「薬剤師ステージ制度“JP-STAR”」を2018年4月にスタートさせた。
また、門前薬局における高度薬学管理機能への取り組みとして、外部評価による認定取得を推進している。
具体的には「外来がん治療認定薬剤師」を3年間で30名以上、「緩和薬物療法認定薬剤師」を3年間で20名以上、それぞれ創出することを目指して人材研修を実施している。
薬剤師の確保という点では、大手調剤チェーンとしての知名度の高さや、医療従事者派遣・紹介事業とのシナジー効果によって、相対的に優位なポジションにあると弊社では考えている。
(3) 出店戦略とM&A
出店戦略では、出店ペースについて同社は、年間50店の新規出店(自立出店とM&Aによる出店の合計)を基準に考えている。
店舗業態については、門前薬局、特に大手調剤チェーンの経営による効率化された店舗に対する国の目が厳しさを増しているなか、どう対応するかという課題がある。
この点について同社は、門前薬局もチャンスがあれば拡大する方向でありながらも、都市部を中心にハイブリッド型薬局(※)の出店を加速させていくものとみられる。
※ハイブリッド型とは、メディカルセンター(医療モール)型薬局(以下、MC型)と面対応薬局(複数の医療機関の処方箋を取り扱う薬局)の両方の機能を兼ね備えたタイプの店舗。
同社は全国の大学病院の約4割について門前薬局を開設するなど、大型門前薬局の割合は業界の中でも非常に高い状況にある。
ICTの活用による高効率経営や、門前薬局ならではの機能・サービスの提供で、門前薬局の有効性は今後も維持できるとみられる。
一方、ハイブリッド型薬局では健康サポート機能やかかりつけ薬剤師・薬局機能を充実させ、地域連携や未病・予防への取り組みの中核の役割を果たしていく方針だ。
M&Aによる出店に関しては、同社はM&Aに消極的な企業とみられることもあった。
消極的とみられた理由は、前述の店舗当たり売上高に代表される“日本調剤スタンダード”にかなう案件を吟味しながらM&Aに臨んでいたことにあると思われる。
結果としてM&A件数が同業他社に比して大幅に少ない状況が続いてきたことでM&Aに消極的という見方につながったと考えられる。
しかしながら、“業界再編本格化”や“生き残りによるシェア拡大”の先にあるのはM&Aによる店舗拡大であり、今後は同社もM&Aを積極化させてくることになるとみられる。
こうしたなか、M&Aに関する事業環境は従来よりも良化しつつあるようだ。
同社は、2018年改定を境に需給バランスが供給過多となり、案件の企業価値評価(買収価格)が低下していくと予想している。
また、案件の内容においても再生案件に該当するものが増加してくるとみている。
こうした環境変化は再生型M&Aの経験とノウハウを蓄積した同社には追い風と考えられる。
過去の実績において同社は、買収した店舗を買いっぱなしということはせずに、手を加えてきっちりと“日本調剤化”を図ってきた。
そうした実績に裏打ちされた同社の今後の進展に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)