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窪田製薬HD Research Memo(3):「Kubota Glass」は今後も製品改良や臨床試験を重ねて育成

発行済 2022-09-21 17:03
更新済 2022-09-21 17:15
© Reuters.
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■主要開発パイプラインの概要と進捗状況

1. ウェアラブル近視デバイス「クボタメガネ」
(1) 近視の市場動向
窪田製薬ホールディングス (TYO:4596)は、近視の進行を抑制または改善する効果が期待されるウェアラブル近視デバイス「クボタメガネ」の開発に注力している。
近視の種類は屈折性近視、軸性近視、偽近視、核性近視などに区分されるが、その多くは軸性近視と呼ばれるもので、眼軸長が伸展することにより網膜が焦点の後ろに移動し、遠くが見えにくくなるメカニズムとなっている。
このため、眼軸長を短縮させることができれば軸性近視は矯正できることになる。
現在は治療法がなく、屈折矯正(メガネ、コンタクトレンズ、屈折矯正手術)によって光の屈折を調整し、網膜に焦点を合わせることで視力矯正を行っている。


近視人口は生活様式の変化もあって世界的に増加傾向が続いており、最も身近な疾患と言われている。
同社資料によると、世界人口に占める近視の比率は2010年で約28%の水準であったが、2050年には約50%(50億人弱)に上昇するとの予測もある。
特に日本や中国、韓国などの東アジアの国々では20歳以下の近視保有率が90%超と高水準となっている。
2020年以降は新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)による在宅時間増加の影響もあって、10歳以下の若年層の近視が顕著に増加しているとの報告もあり、社会問題化している。
近視が進行すると、将来的に緑内障や白内障など失明につながる疾患になるリスクが正視に比べて2~5倍に上昇すると言われており、根治療法の開発が強く望まれている疾患でもある。


世界の近視用レンズ市場は、2021年の244億米ドルから2025年には273億米ドルと今後5年間で10%以上成長するとの予測もあり、同社では「クボタメガネ」の商業化に成功すれば、その潜在需要は2030年までに最大1兆3千億円※になる可能性があると見ている。


※近視人口に同社が想定する普及率とデバイス価格を掛け合わせた数値。



(2) 「クボタメガネ」の仕組み
クボタメガネテクノロジーとは、網膜にAR技術による光刺激を与えて近視の進行抑制、治療を目指す同社独自のアクティブスティミュレーション技術である。
光半導体とミラーレンズを使ってMyopic defocusという周辺網膜より手前にピントを合わせた画像を投影することで眼軸長の伸展の抑制または短縮を促し、近視の進行を抑制する仕組みである。
既にヒトでの概念実証試験を行い眼軸長の伸展を抑制する効果が確認※されている。
シュプリンガー・ネイチャーが刊行する国際的な学術誌「Scientific Reports」でも、7名の被験者(成人)による4ヶ月間の臨床研究の結果(週3~5日、1.5時間/日実施)、対象眼に対して眼軸長の伸展が抑制されたことが明らかとなった(2022年7月発表)。


※米国の眼科専門研究所にて、21~32歳の近視傾向のある被験者12名に対してクボタメガネテクノロジーを用いた試作機である卓上デバイスにて眼軸に与える影響を検証した結果、対象眼と比較して眼軸長の短縮効果が確認されたことを2020年5月に発表した。
また、ウェアラブルデバイス型試作機でも同様の効果を確認したことを同年8月に発表した。



なお、Myopic defocusを用いた他社先行品※1が近視抑制効果のあるデバイスとして米国で販売承認されたが、装着時間が10~12時間とほぼ1日着用しなければならないのに対して、「クボタメガネ」は1~1.5時間と短時間の使用で近視抑制効果が得られる点が長所である。
点眼薬やオルソケラトロジー※2といった治療法もあるが、副作用やリスクが大きい点が難点で普及するには至っていない。
このため、「クボタメガネ」が近視抑制デバイスとして市場を開拓する余地は十分あると考えられる。


※1 米クーパービジョンのMiSight 1 day(コンタクトレンズ)が2019年に初めて販売承認された。

※2 一般的なコンタクトレンズとは異なり、特殊なデザインの高酸素透過性コンタクトレンズを就寝中に装着する事により角膜の形状が正しく矯正され、日中を裸眼で過ごすことができる近視矯正方法のことで、2009年に日本でも承認された。



(3) 事業戦略
「クボタメガネ」の今後の事業戦略は、ソフトローンチによる販売を行い、顧客からのフィードバックも得ながら製品の改良を進めると同時に、臨床試験の実施により近視抑制デバイスとしてのエビデンスを積み上げ、各国で販売承認を取得し、普及拡大を目指すものである。
また、長期的にはコンタクトレンズでの商品化も視野に入れており、知財戦略として関連特許を取得した※。


※2022年8月に米国で、「近視抑制のための電子コンタクトレンズの光学設計」「ソフトコンタクトレンズ内にフレキシブルプリント配線板を封入するための支持ピラー」の2件に関する特許を取得したことを発表した。



販売に関しては、2022年6月に米国FDAにて「Kubota Glass」の医療機器としての登録が完了したことを受け、米国では眼科研究所及び眼科病院を運営するMVAにて販売を開始した(販売価格5,200ドル)。
眼科病院で製品説明やサイズ、視力の検査などを行いオーダーメイドにて製造販売し、アフターケアなども眼科病院で行う。
日本でもARデバイスとして同年8月より販売を開始し(販売価格税込77万円)、一部の眼科病院及びメガネ専門店で取り扱いが開始されており、代理店希望の連絡や直接購入を希望した問い合わせも入ってきているようだ。
そのほか、2021年5月に医療機器として製造許可を取得した台湾でも2022年7月に大手眼科機器販売会社のEverLight Instrument Companyと販売代理店契約を結び、販売の準備を進めている。
今後はこれら地域で取り扱い眼科病院や眼鏡店など販路を拡大すると同時に、EC販売もできるような体制を整えつつ、プロモーション等による認知度向上を図る計画である。


開発面では、各国で臨床試験を実施し近視進行抑制デバイスとしてエビデンスを積み重ねると同時に、製品改良も継続して取り組む方針である。
臨床試験の実施状況としては、2022年6月より米国にて7~12歳の子ども(45例)を対象に開始した。
現在米国及び日本で販売されている「Kubota Glass」を使用して眼軸長や屈折率がどのように変化するのかを1年間かけて観察する試験となる。
そのほか、台湾でも今後臨床試験を行う予定である。
臨床試験の結果が良好であれば、製薬・医療デバイスメーカーとの販売パートナー契約につながる可能性もあり、今後の動向が注目される。
また現時点では、近視進行を抑制効果という面においては当局の承認を取得していないため、こうした効果・効能を打ち出して販売することができないが、今後効果に関する承認を取得できれば取り扱う眼科病院や眼鏡店も大きく広がり、販売拡大に弾みがつくものと予想される。


製品改良としては、現在数種類にしぼっているサイズの拡充やサイズの調節機能を付加するなど、より消費者に受け入れられる製品に向け、社内で検討している。
今後、購入ユーザーからの評価も収集しながらさらなる製品改良にも役立てたい考えだ。
また、低コスト化に向けた取り組みも進める必要がある。
販売価格については、円安及び半導体不足の影響もあり、想定よりも高額で販売することとなった。
生産ロットが数十台規模であったこともあり、部材も割高で調達せざるを得なかったことが影響したものと見られる。
現在は、設計や部材の見直し等によるコスト低減に取り組みつつ生産量を拡大し、量産効果で低コスト化を進めていく方針だ。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

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