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焦点:ノルドストリームガス漏れ、気候被害は不明も「甚大な恐れ」

発行済 2022-09-29 12:10
更新済 2022-09-29 12:18
© Reuters.  ロシアから欧州を結ぶバルト海の海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」2本で、原因不明のガス漏れが発生した。漏れ出しているのは温室効果ガスであり、気候災害につながるので

[27日 ロイター] - ロシアから欧州を結ぶバルト海の海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」2本で、原因不明のガス漏れが発生した。影響の程度はまだ不明だが、漏れ出しているのは温室効果ガスであり、気候災害につながるのではないかとの懸念が生じている。

2本のパイプラインとも稼働中ではなかったが、内部にはメタンを主成分とする天然ガスが残っていた。メタンは温室効果ガスのうち、気候変動の原因としては二酸化炭素に次いで2番目に大きい。

「不確定要素は多いが、こうしたパイプラインが壊れると、気候に甚大な影響が生じ、前代未聞の規模になる可能性もある」と語るのは、非営利団体「クリーンエア・タスクフォース」の上級研究員で、大気化学を専門とするデビッド・マッケイブ氏だ。

マッケイブ氏をはじめとする温室効果ガス排出問題の専門家らはロイターに対し、ガス漏れの規模を評価することはまだ不可能だと語った。パイプライン内部のガス温度や、漏れ出している速度、ガスが海面に到達する前に水中微生物に吸収される量などの要因について不確定要素が残っているためだ。

ただ、パイプラインに残っていたガスはほぼすべてメタンであるため「大規模で非常に有害な影響が極めて心配だ」とマッケイブ氏は言う。

メタンによる地球温暖化効果は二酸化炭素に比べ、20年間で80倍以上、100年間で約30倍とされている。科学者らは、今後数年間でメタンの排出量を大幅に削減することが、気候変動抑制に向けた不可欠な対策となると指摘する。

<量的把握は困難>

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの持続可能性ガス研究所のジャスミン・クーパー研究員は、海底パイプラインからのガス漏れに関する既存のデータは乏しく、海面に達したガスの量を正確に把握することは困難だと語った。

「(ロシア国営ガス会社)ガスプロムではガスの流量に基づく試算を行うだろうが、彼らは実際の大気中へのガス(メタン)漏れの量について、測定と監視を行うチームを派遣する必要がある」とクーパー研究員は言う。

メタンガスの測定を行う民間衛星会社GHGSatで測定担当バイスプレジデントを務めるジャン=フランソワ・ゴーティエ氏によれば、入手可能なデータに基づく「控えめな推定」では、破損当初は合計1時間あたり500トン以上のメタンが放出されており、時間の経過とともにガス圧、流量とも減少しているという。

比較対象として、2016年に米カリフォルニア州のアライソ渓谷で起きた大規模ガス漏れ事故では、ピーク時に1時間当たり約50トンのメタンガスが漏れ出した。「つまり、今回は規模が1桁大きくなるという意味だ」とゴーティエ氏は述べた。

ガス漏れを起こしたパイプラインの1つ、「ノルドストリーム2」はまだ1度も稼働したことはなく、ロシアによるウクライナ侵攻の直前にドイツにより運用開始が延期された。同パイプラインの広報担当者は、今週の時点では、パイプライン内に3億立方メートルのガスが入っていたと話している。

ロンドンのクイーン・メアリー大学で化学工学を専攻するポール・バルコム氏は、パイプライン内の全量が大気中に放出されれば、約20万トンのメタンガス排出に相当するとみる。

ドイツの非営利団体「ドイツ環境支援」も、パイプラインから想定される排出量について同様の試算値を提示している。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による換算係数に基づきロイターが行った計算では、これだけの量のメタンが放出された場合、100年間でみれば、約600万トンの二酸化炭素とほぼ同じ地球温暖化効果を生み出すことになる。これはハバナ、ヘルシンキ、オハイオ州デイトンといった中規模都市が1年間に排出する二酸化炭素の量にほぼ匹敵する。

一方、「ノルドストリーム1」からのガス漏出量は、さらに読みにくい。広報担当者が、数週間前に保守作業のために運用を停止した時点でパイプラインに残っていたガスの量についてコメントを控えているためだ。

欧州連合(EU)でエネルギー問題を担当するステファノ・グラッシ氏は27日、今回のガス漏れが「気候と生態系に災厄をもたらす」危険性があると指摘。ツイッターに「事態を把握し、ガス漏れを止めて被害の深刻化を防ぐ最速の方法を見つけるため、(EU加盟国と)連絡を取り合っている」と投稿した。

EU諸国は、米国、ブラジル、パキスタン、メキシコなど100カ国以上と共に、破滅的レベルの気候変動を回避することを目標として、メタンガス排出量を2030年までに20年比で少なくとも30%削減することを公約している。

<環境へのリスクは>

各国当局によれば、原油流出が直接的に野生動物に影響を与え、最終的にその命を奪う可能性があるのに対し、パイプラインからのガス漏れが周辺の動植物の生命に与える影響は限定的だという。

ドイツ環境省がガス漏れによる海洋生物への重大な脅威はないと説明したのに対して、環境保護団体グリーンピースは27日、漏れ出すガスに魚が巻き込まれ、呼吸困難に陥る可能性があるという懸念を表明した。

デンマークのエネルギー庁はロイターに対し、ノルドストリームのガス漏れに関する調査をどこが担当するのかを語るには時期尚早であり、まだ誰も現場の確認に向かっていないと説明。ガス漏れは数日、あるいは1週間続く可能性があるとの見方を示した。

(Shadia Nasralla記者、Kate Abnett記者 翻訳:エァクレーレン)

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