*14:44JST アンジェス Research Memo(4):NF-κBデコイオリゴDNAは開発協力契約を塩野義製薬と締結
■アンジェス (TYO:4563)の主要開発パイプラインの動向
2. NF-κBデコイオリゴDNA
NF-κBデコイオリゴDNAは、人工核酸により遺伝子の働きを制御する「核酸医薬」の一種で、生体内で免疫・炎症反応を担う転写因子となるタンパク質(NF-κB)に対する特異的な阻害剤となる。
NF-κBがゲノムの特定の配列領域(炎症を引き起こすゲノム)に結合し、スイッチが入ることで痛みなどの炎症の原因となるタンパク質が生成されるが、NF-κBデコイオリゴDNAを体内に入れることで、炎症を引き起こすゲノムとNF-κBが結合しにくくなり、炎症の原因となるタンパク質の生成を抑制するメカニズムとなる。
現在は、椎間板性腰痛症を対象とした臨床開発を進めている。
椎間板性腰痛症の患部にNF-κBデコイオリゴDNA(開発コードAMG0103)を注射投与することによって、慢性腰痛に対する鎮痛効果とともに椎間板変性に対する進行抑制や修復を促す効果が期待される。
新タイプの腰痛症治療薬として2018年2月より米国で後期第1相臨床試験(25症例、対象患者は32~70歳、平均年齢53.5歳)を実施し、全症例の投与後12ヶ月間におけるトップラインデータを2021年4月に発表した。
臨床試験はプラセボ対照無作為化二重盲検試験となり、「AMG0103」を椎間板内に単回注射投与し(0.3mg、3.0mg、10.0mgの3群に分類)、12ヶ月後までの経過観察を実施した。
主要評価項目として忍容性と安全性を評価し、そのほか有効性の評価として腰痛の改善度、投与6ヶ月後の椎間板の高さの変化、患者自身の満足度の評価などを行った。
発表資料によれば、12ヶ月間の観察期間を通じて重篤な有害事象は認められず高い安全性が確認されたこと、有効性についても10.0mg投与群では、投与後早期に腰痛が大幅に軽減し、腰痛の抑制効果も投与12ヶ月後まで継続したことが確認されたとしている。
また、患者自身からも高い満足度が得られており、良好な結果が得られたものと同社では評価している。
治験責任医師からも、「AMG0103は素晴らしい安全性プロファイルを有し、12ヶ月にわたり腰痛を有意に軽減しており、慢性椎間板性腰痛症に苦しむ患者に対して画期的治療薬となる可能性があると考えています。
さらに、腰痛の軽減に加えて、椎間板の高さを回復させる可能性が示唆されたことは注目に値します。
」とのコメントを得ている。
現在、慢性椎間板性腰痛症に関しては、一般療法としてステロイド注射(対処療法)が使用されることが多いが、同治療薬との比較においても同等以上の効果が得られたとしている。
ステロイドが一時的な対処療法であるのに対してAMG0103は炎症を抑制する効果があり、その結果として腰痛の症状が改善することが理由と考えられる。
同社ではこの臨床試験結果を受け、国内での開発を進める方針を決定した。
国内でも慢性椎間板性腰痛症患者は多く、事業化が可能と判断したためだ。
第2相臨床試験計画書を(独)医薬品医療機器総合機構に提出しており、2023年内にも開始できる見通しとなっている。
試験内容や主要評価項目は米国で実施した臨床試験とほぼ同様で、投与量については10mg投与群の有効性が高かったことから、10mgを中心に複数に分類し実施する。
症例数は約90例で試験期間としては2~3年を見込んでいる。
なお、第2相臨床試験については塩野義製薬と開発協力に関する契約を締結しており、費用の一部を塩野義製薬が拠出する。
価格面を考えると鎮痛効果だけでは既存治療法と差別化が難しいため、椎間板変性に対する進行抑制効果や修復促進効果などが確認できれば、導出に向けて大きく前進するものと弊社では見ている。
2026年頃に判明する第2相臨床試験の結果が良好であれば、次の開発ステージに向けて塩野義製薬と協議していくことになる。
AMG0103の開発に成功すれば、慢性椎間板性腰痛症に使用される世界初の核酸医薬品となる可能性があり、同臨床試験の結果が注目される。
「ゾキンヴィ」は2023年5月に販売承認申請、2023年内か2024年の年明け早々に承認取得の可能性
3. ゾキンヴィ
同社は2022年5月に米バイオ医薬品企業のアイガーと、希少遺伝性疾患で早老症とも呼ばれるHGPS及びPLを適応症とした治療薬「ゾキンヴィ」について、日本における独占販売契約を締結した。
その後、2023年3月にオーファン・ドラッグ指定※を受け、同年5月12日付で厚生労働省に国内製造販売承認申請を行ったことを発表した(米国での治験データを援用)。
過去にも希少遺伝性疾患であるムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイム(R)」の独占販売契約を米BioMarin Pharmaceutical Inc.と2006年に締結し、販売してきた実績がある(契約解消に伴い2019年12月期第2四半期で販売終了)。
当時はオーファン・ドラッグ指定後に承認申請を行い、約7ヶ月で承認を取得したことから、「ゾキンヴィ」も早ければ2023年内か2024年の年明け早々に承認を取得する可能性がある。
承認された場合には、アイガーから製品を仕入れて販売していくことになる。
なお、契約一時金及び開発進捗に応じたマイルストーンとして最大150万米ドルを支払う契約となっている。
※オーファン・ドラッグは希少疾病用医薬品のことで、指定基準としては患者数が5万人未満と少なく、治療法が未だ確立されておらず代替する医薬品がないこと、またはすでにある治療薬に対して非常に高い有効性または安全性が期待される医薬品であることなどが挙げられる。
オーファン・ドラッグ指定を受けると、研究開発費用の助成金が交付されるほか、優先審査を受けることが可能となる。
HGPS及びPLは、患者数が世界でも合わせて600人程度と極めて少ない致死性の高い遺伝的早老症のことで、HGPSはLMNA遺伝子の点突然変異により、ファルネシル化※された異常タンパク質であるプロジェリンが生成されることにより発症する。
また、PLはLMNAやZMPSTE24遺伝子の変異によりプロジェリンとは異なるファルネシル化タンパク質を生成し老化を促進する。
「ゾキンヴィ」はHGPSやプロセシング不全性早老性PLの小児及び若年成人において、核膜と強固な結合を形成するファルネシル化した欠陥タンパク質(細胞の不安定化と早期老化を惹起)の蓄積を阻害する作用を持つ。
臨床試験の結果ではHGPS患者の死亡率を60%減少させ、平均生存期間を2.5年延長させることができたとしている。
また、安全性についても多くのPL患者が10年以上にわたって「ゾキンヴィ」治療を継続しており、副作用も嘔吐や下痢、悪心等その大半が軽度または中等度のものとなっている。
2020年11月に米国、2022年7月に欧州で相次いで販売承認されたことから、国内でも承認される可能性は高い。
※タンパク質に行われる修飾の一種。
ファルネシル化により、タンパク質の末端には疎水性のプレニル基が結合する。
末端が疎水性になったタンパク質は、その疎水性の部分を細胞膜内に挿入するため、タンパク質は細胞膜(細胞の内側)につなぎ留められる。
つまり、ファルネシル化されたタンパク質は、細胞の内側の細胞膜上に存在するようになる。
なお、売上規模に関しては薬価や投与患者数次第(患者数は国内で10人未満)となるが、米国での販売価格(年間1億円強)を参考にすれば「ナグラザイム(R)」と同等かやや上回る規模になると見られる(「ナグラザイム(R)」のピーク時売上高は2018年12月期382百万円)。
また、同社は製造販売承認取得と並行して、新生児のオプショナルスクリーニングを行うACRLで、HGPSやPLも検査可能疾患として加える予定にしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
2. NF-κBデコイオリゴDNA
NF-κBデコイオリゴDNAは、人工核酸により遺伝子の働きを制御する「核酸医薬」の一種で、生体内で免疫・炎症反応を担う転写因子となるタンパク質(NF-κB)に対する特異的な阻害剤となる。
NF-κBがゲノムの特定の配列領域(炎症を引き起こすゲノム)に結合し、スイッチが入ることで痛みなどの炎症の原因となるタンパク質が生成されるが、NF-κBデコイオリゴDNAを体内に入れることで、炎症を引き起こすゲノムとNF-κBが結合しにくくなり、炎症の原因となるタンパク質の生成を抑制するメカニズムとなる。
現在は、椎間板性腰痛症を対象とした臨床開発を進めている。
椎間板性腰痛症の患部にNF-κBデコイオリゴDNA(開発コードAMG0103)を注射投与することによって、慢性腰痛に対する鎮痛効果とともに椎間板変性に対する進行抑制や修復を促す効果が期待される。
新タイプの腰痛症治療薬として2018年2月より米国で後期第1相臨床試験(25症例、対象患者は32~70歳、平均年齢53.5歳)を実施し、全症例の投与後12ヶ月間におけるトップラインデータを2021年4月に発表した。
臨床試験はプラセボ対照無作為化二重盲検試験となり、「AMG0103」を椎間板内に単回注射投与し(0.3mg、3.0mg、10.0mgの3群に分類)、12ヶ月後までの経過観察を実施した。
主要評価項目として忍容性と安全性を評価し、そのほか有効性の評価として腰痛の改善度、投与6ヶ月後の椎間板の高さの変化、患者自身の満足度の評価などを行った。
発表資料によれば、12ヶ月間の観察期間を通じて重篤な有害事象は認められず高い安全性が確認されたこと、有効性についても10.0mg投与群では、投与後早期に腰痛が大幅に軽減し、腰痛の抑制効果も投与12ヶ月後まで継続したことが確認されたとしている。
また、患者自身からも高い満足度が得られており、良好な結果が得られたものと同社では評価している。
治験責任医師からも、「AMG0103は素晴らしい安全性プロファイルを有し、12ヶ月にわたり腰痛を有意に軽減しており、慢性椎間板性腰痛症に苦しむ患者に対して画期的治療薬となる可能性があると考えています。
さらに、腰痛の軽減に加えて、椎間板の高さを回復させる可能性が示唆されたことは注目に値します。
」とのコメントを得ている。
現在、慢性椎間板性腰痛症に関しては、一般療法としてステロイド注射(対処療法)が使用されることが多いが、同治療薬との比較においても同等以上の効果が得られたとしている。
ステロイドが一時的な対処療法であるのに対してAMG0103は炎症を抑制する効果があり、その結果として腰痛の症状が改善することが理由と考えられる。
同社ではこの臨床試験結果を受け、国内での開発を進める方針を決定した。
国内でも慢性椎間板性腰痛症患者は多く、事業化が可能と判断したためだ。
第2相臨床試験計画書を(独)医薬品医療機器総合機構に提出しており、2023年内にも開始できる見通しとなっている。
試験内容や主要評価項目は米国で実施した臨床試験とほぼ同様で、投与量については10mg投与群の有効性が高かったことから、10mgを中心に複数に分類し実施する。
症例数は約90例で試験期間としては2~3年を見込んでいる。
なお、第2相臨床試験については塩野義製薬と開発協力に関する契約を締結しており、費用の一部を塩野義製薬が拠出する。
価格面を考えると鎮痛効果だけでは既存治療法と差別化が難しいため、椎間板変性に対する進行抑制効果や修復促進効果などが確認できれば、導出に向けて大きく前進するものと弊社では見ている。
2026年頃に判明する第2相臨床試験の結果が良好であれば、次の開発ステージに向けて塩野義製薬と協議していくことになる。
AMG0103の開発に成功すれば、慢性椎間板性腰痛症に使用される世界初の核酸医薬品となる可能性があり、同臨床試験の結果が注目される。
「ゾキンヴィ」は2023年5月に販売承認申請、2023年内か2024年の年明け早々に承認取得の可能性
3. ゾキンヴィ
同社は2022年5月に米バイオ医薬品企業のアイガーと、希少遺伝性疾患で早老症とも呼ばれるHGPS及びPLを適応症とした治療薬「ゾキンヴィ」について、日本における独占販売契約を締結した。
その後、2023年3月にオーファン・ドラッグ指定※を受け、同年5月12日付で厚生労働省に国内製造販売承認申請を行ったことを発表した(米国での治験データを援用)。
過去にも希少遺伝性疾患であるムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイム(R)」の独占販売契約を米BioMarin Pharmaceutical Inc.と2006年に締結し、販売してきた実績がある(契約解消に伴い2019年12月期第2四半期で販売終了)。
当時はオーファン・ドラッグ指定後に承認申請を行い、約7ヶ月で承認を取得したことから、「ゾキンヴィ」も早ければ2023年内か2024年の年明け早々に承認を取得する可能性がある。
承認された場合には、アイガーから製品を仕入れて販売していくことになる。
なお、契約一時金及び開発進捗に応じたマイルストーンとして最大150万米ドルを支払う契約となっている。
※オーファン・ドラッグは希少疾病用医薬品のことで、指定基準としては患者数が5万人未満と少なく、治療法が未だ確立されておらず代替する医薬品がないこと、またはすでにある治療薬に対して非常に高い有効性または安全性が期待される医薬品であることなどが挙げられる。
オーファン・ドラッグ指定を受けると、研究開発費用の助成金が交付されるほか、優先審査を受けることが可能となる。
HGPS及びPLは、患者数が世界でも合わせて600人程度と極めて少ない致死性の高い遺伝的早老症のことで、HGPSはLMNA遺伝子の点突然変異により、ファルネシル化※された異常タンパク質であるプロジェリンが生成されることにより発症する。
また、PLはLMNAやZMPSTE24遺伝子の変異によりプロジェリンとは異なるファルネシル化タンパク質を生成し老化を促進する。
「ゾキンヴィ」はHGPSやプロセシング不全性早老性PLの小児及び若年成人において、核膜と強固な結合を形成するファルネシル化した欠陥タンパク質(細胞の不安定化と早期老化を惹起)の蓄積を阻害する作用を持つ。
臨床試験の結果ではHGPS患者の死亡率を60%減少させ、平均生存期間を2.5年延長させることができたとしている。
また、安全性についても多くのPL患者が10年以上にわたって「ゾキンヴィ」治療を継続しており、副作用も嘔吐や下痢、悪心等その大半が軽度または中等度のものとなっている。
2020年11月に米国、2022年7月に欧州で相次いで販売承認されたことから、国内でも承認される可能性は高い。
※タンパク質に行われる修飾の一種。
ファルネシル化により、タンパク質の末端には疎水性のプレニル基が結合する。
末端が疎水性になったタンパク質は、その疎水性の部分を細胞膜内に挿入するため、タンパク質は細胞膜(細胞の内側)につなぎ留められる。
つまり、ファルネシル化されたタンパク質は、細胞の内側の細胞膜上に存在するようになる。
なお、売上規模に関しては薬価や投与患者数次第(患者数は国内で10人未満)となるが、米国での販売価格(年間1億円強)を参考にすれば「ナグラザイム(R)」と同等かやや上回る規模になると見られる(「ナグラザイム(R)」のピーク時売上高は2018年12月期382百万円)。
また、同社は製造販売承認取得と並行して、新生児のオプショナルスクリーニングを行うACRLで、HGPSやPLも検査可能疾患として加える予定にしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)