Ritsuko Shimizu Makiko Yamazaki
[東京 13日 ロイター] - 三菱UFJフィナンシャル・グループは、米国でプロジェクトファイナンスを拡大する。バランスシート上の負担になることから米銀は減らす傾向にあるが、バイデン政権の「インフレ抑制法(IRA)」で再生可能エネルギーやデジタル化関連へ融資対象が広がる中、これまで積み上げてきた実績とノウハウが生かせるとみている。
IRAはエネルギー安全保障と気候変動対策に関連した北米での投資を税制面で優遇するもので、昨年8月に成立して以降、電気自動車(EV)などへの投資が加速している。プロジェクトファイナンスの対象も電力、資源、従来型のインフラから、再生可能エネルギー、データセンター、EVバッテリーなどに広がっている。
中浜文貴執行役常務・グローバルCIB事業本部長はロイターとのインタビューで「IRA成立でプロジェクトファイナンスが対象とするビジネスの領域が広がってきた」と述べた。金利上昇で企業の運転資金ニーズが強まらない中でも、IRA関連の投資はおう盛で、特定のプロジェクトに対して融資を行い、そこから生み出されるキャッシュを返済の原資とするプロジェクトファイナンスの需要は強い。
MUFGは、主幹事として融資組成を手掛けた米国プロジェクトファイナンスの融資額規模で13年連続首位。中浜常務は、主幹事として扱う案件にフォーカスしていることや、新しい投資領域はマージンが高いため「収益的には大きく改善している」と語った。
これまでブラジルのリオ・グランデがテキサス州で進める液化天然ガス(LNG)案件や、ジャックダニエルがバージニア州の蒸留工場でウイスキー残渣(ざんさ)をバイオガスに変換するプロジェクトなどを手掛けた。
LSEGによると、2022年の北米市場全体のプロジェクトファイナンスの融資額は21年比70%以上増加した。
<バランスシート上の負担軽減>
米銀はリーマン・ショックなどを経て、バランスシート上のリスクアセット圧縮のためプロジェクトファイナンス事業から撤退、もしくは縮小した。日本でも、リーマン・ショック後はグローバルで首位を争っていた三井住友フィナンシャルグループが今年5月に出した中期計画で、プロジェクトファイナンスを見直し、低採算案件を削減する方向を打ち出している。
金融庁は8月に公表した金融行政方針で「邦銀のプレゼンスが高い海外プロジェクトファイナンスは、長期にわたりエクスポージャーを保有することが多いという特性を踏まえ、適切なリスク管理を行うことが重要」と言及した。
これに対しMUFGは事業縮小ではなく、組成したローンを機関投資家などに売却する「Originate(組成) & Distribute(販売・転売)」と呼ばれる資産回転型のビジネスを強化。保有するローンの残存期間を短くし、バランスシート上の負担を軽減した。
販売先は米国のほか、日本やアジアなどの投資家に広げる方針。日本では生損保のほか、大手行や地銀などへの拡大を視野に入れている。
MUFGは世界で約360人がプロジェクトファイナンスに関わっており、そのうち米国は約90人。同チームを率いるジョナサン・リンデンバーグ米州投資銀行部長は、09年にシティグループから移籍した。かつてのシティのメンバーもその後にMUFGに移ってきたという。また、11年には英ロイヤルバンク・オブ・スコットランドから約50億ドルのプロジェクトファイナンス貸出資産を買収した。
脱炭素化やデジタル化の流れは米国に限ったものではなく、プロジェクトファイナンスの潜在需要は世界的に高まる可能性がある。中浜常務は「欧州も新たな息吹がおきている。今後5年間のうちにEVバッテリーを作るメガファクトリー、ギガファクトリーが20から25ぐらい建設されると言われている」と語った。
*インタビューは7日に実施しました。
*写真を差し替えて再送します
(清水律子、山崎牧子 編集:久保信博)