Paritosh Bansal
[13日 ロイター] - バーゼル銀行監督委員会は先週、大手銀行が年末に主要なリスク指標を報告する際の計算方法を変更するよう提案した。これにより米国での短期資金調達が打撃を受ける可能性がある。
「グローバルなシステム上重要な銀行(G─SIB)」は他の銀行よりも多くの資本を保有することが義務付けられており、資本の上乗せ幅は12月末時点のリスク計算に基づいている。
一部の銀行は資本への影響を抑えるため年末に調整を施し、リスク度合いを低下させている。ロイターの推計によると、JPモルガン・チェースとバンク・オブ・アメリカはリスクを圧縮し、それぞれ80億ドルを超える資本の上積みを回避した。
こうした銀行の「お化粧」に対処するためにバーゼル委はリスク計算の大半について、年末時点の評価ではなく年間の平均値を使用することを提案。米連邦準備理事会(FRB)も数カ月前に同様の提案を行っている。
銀行関係者への取材や銀行の開示資料によると、平均値を採用することにより大手行はレポ市場で利益を上げることが難しくなり、海外のヘッジファンドなどの市場参加者のコストが上昇する。
その結果、ストレス時のマーケットメーカー不足が問題となっている米国債市場に影響を及ぼし、政府の国債発行コストが高くなる可能性があると銀行関係者は話した。
その一方で大きなメリットもある。銀行の抱えるリスクを規制当局がより正確に把握することができ、金融の安定性が高まる。また銀行の「お化粧」により年末に金利が上昇しがちなレポ市場の機能が円滑になる可能性が高い。
バーゼル委は世界の金融システムへの影響が大きい銀行について点数を算出し、それに応じて損失を吸収するための追加資本(GSIB サーチャージ)の規模が決まる。資本の上乗せ幅は点数が基準値を超えるごとに0.5%ずつ増加する。
ロイターは対象となる米銀8行の2023年の点数を推計した。それによるとJPモルガンとバンク・オブ・アメリカは第3・四半期末から第4・四半期末の間に点数を0.5%ポイント引き下げた。これはそれぞれ80億ドル以上の資本上乗せに相当する。
銀行側からは日次平均の代わりに月末か四半期末の数字に基づく措置を求める声もあり、変更が提案通りに行われるかは不明。JPモルガンは、概念として「平均」への移行は支持しているが、日次平均は不要としている。
また算出方法について、経済成長を考慮していないため、リスク状況が変化していないにもかかわらず必要資本が膨れ上がってしまうなどの問題も示されている。
ある銀行関係者は、銀行が数字を操作しているというが、多くの変数はコントロールの範囲外と指摘。株価上昇でリスク指標も上昇するとし、また年末の数字が低くなるのは、年末年始のホリデーシーズンで業務が低調になることを反映していると述べる。
<レポ市場>
両行の点数が変化した要因の一つはグローバルな活動の規模を測る「法域を超える債権・債務に関する指標」だ。2人の銀行筋は例として銀行と、国外に拠点を置くヘッジファンドなどとのレポ取引を挙げた。米銀はこれらの取引を中央清算機関の証券取引清算機関(FICC)に移管することで法域を超える活動の指標を低下させたという。
JPモルガンとバンク・オブ・アメリカは、FICCがレポ取引の清算を行うスポンサードレポが年末に増加した。スポンサードレポへの移行は顧客との相対取引を好む大手行にとってはコスト増になる可能性がある。
銀行のリスク計算で平均値を採用すれば、年間を通じた活動によりGSIBの点数が決まるため、銀行はコストの増加を招かずにリスクを負うことができなくなる。関係筋はそうなれば銀行はコストを顧客に転嫁するか、規模を縮小するかの選択を迫られることになると指摘する。