Alessandro Parodi Alexander Marrow
[28日 ロイター] - ロシアによる2022年のウクライナ侵攻以来、ロシアからの撤退によって外国企業が被った評価損と売上高の減少分が計1070億ドル(約16兆2000億円)余りに上っていることが、ロイターの分析で明らかになった。
損失額は昨年8月の集計から約33%増加しており、企業財務への打撃の大きさを物語っている。ロシアから欧米の専門知識が突然失われていることもはっきりしてきた。
グローバル・リスク・コンサルタント会社S―RMのEMEAコーポレート・インテリジェンス部門責任者イアン・マッセイ氏は「欧米の(ウクライナに対する)軍事援助が減る中でロシアの侵攻が続き、また、欧米の制裁体制の精度が上がるにつれ、ロシアからの撤退を目指す企業はさらなる困難に直面し、より大きな評価損や損失を受け入れざるを得なくなるだろう」と述べた。
再選を果たしたばかりのプーチン大統領は、さらなる資産の差し押さえや政治的圧力など、西側諸国からの孤立を進める新たな権限を得た、と同氏は付け加えた。
ロシア政府は外国企業の資産売却に少なくとも50%の値引きを要求するとともに、出国条件を着々と厳しくしている。
今年これまでに、英石油大手シェル、鉱山会社ポリメタル・インターナショナル、ロシアのインターネット検索大手ヤンデックスの親会社であるオランダのヤンデックスが所有する総額100億ドル近い資産の売却が発表され、値引き率は最大90%にも達している。仏食品大手ダノンは先週、ロシア資産の処分について規制当局の承認を受け、総額13億ドルの損失を計上したと発表した。
これまでに撤退した外国企業は約1000社に上る。
ただ、米イェール大経営大学院の分析によると、仏小売業者オーシャンや伊アパレル大手ベネトンなど数百の企業が、ロシアでまだ操業しているか、事業を維持している。
<ロシアの報復>
西側諸国はロシアの侵攻後、ロシア中央銀行の金(ゴールド)と外貨準備、約3000億ドル相当を凍結した。凍結した資産から得られる数十億ユーロの利子を再分配するという欧州連合(EU)の提案に対し、ロシアは報復を通告し、破滅的な結果を招くだろうと警告を発している。
欧米の銀行もまた、資産を没収した場合の法的紛争を懸念している。
「ロシアが戦争を続ける限り、ロシアにある西側の資産で安全と考えて良いものはない」とマッセイ氏は言う。
ロシアは既に、幾つかの西側企業が所有する資産を一時的に管理下に置いている。
国営ロシア通信(RIA)は、ロシアが報復措置をとれば、西側諸国は少なくとも2880億ドル相当の資産と投資を失うとの試算を示した。
これは、EU、主要7カ国(G7)、オーストラリア、スイスによるロシアへの直接投資総額が22年末時点で2880億ドルだったことを示すデータに基づいた数字だという。
ロイターは、RIAが引用したデータを確認できなかった。
しかし、ロシアの強硬姿勢は同国自体にもダメージをもたらす。
制裁専門家である弁護士のジェレミー・ザッカー氏によると、自身の事務所の顧客のうち、幅広い産業にわたって驚くほど多くの企業がロシアからの完全撤退を決めており、戦争が終わってもロシアに戻ることをちゅうちょする可能性が高い。
その結果、大量の技術が国外に流出し、ロシアは特定のハイテク生産を維持できなくなるかもしれない、と米法律事務所デチェルトの国家安全保障プラクティス責任者、ザッカー氏は言う。
同氏は「ロシア経済が相当な打撃を受けることは確かに思われる」と語った。
<日用品企業は事業継続>
22年の政令で、ロシアに制裁を科す「非友好的」な国の投資家が、プーチン大統領の明確な承認なしに主要なエネルギープロジェクトや銀行の株式を売却することは禁じられている。
一方、日用品や消費財メーカーの多くは、ロシアの一般市民が自分たちの製品に頼っているとして、完全撤退を控えている。
現在もロシアで事業展開している企業は、米菓子大手モンデリーズ・インターナショナル、フランスのオーシャン、スイス食品大手ネスレ、英日用品大手ユニリーバなど。
また、イタリア大手銀インテーザ・サンパオロのように、撤退を試みながら行政手続きのハードルに直面している企業もある。