Norihiko Shirouzu Giulio Piovaccari
[オースティン(米テキサス州) 1日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手テスラが、生産工程に革命をもたらすとされる「ギガキャスト」(車体の一体成型技術)計画を後退させている。事情に詳しい2人の関係者が明かした。
テスラが先駆者となっているギガキャストは、数千トンのクランプ圧を持つ巨大なプレスを使用し、自動車の車体下部の大部分を金型によって鋳造する最先端の技術。一般的な工程の場合、車体下部は何百もの部品で構成される。
ロイターは昨年、テスラのギガキャスト部門に詳しい関係者の話として、同社が新たな小型車のプラットフォームを開発するのに際して、車体下部を一体成型することを目指していると伝えていた。
長期的な目標は製造工程の簡素化を通じたコストの削減だ。
しかし2人の関係者によると、テスラはそれ以降に一体成型推進の取り組みを停止し、車体下部を三つの部品の組み合わせで製造するという、既にある程度確立された方法を維持する道を選んでいる。この方法はクロスオーバーSUV(スポーツタイプ多目的車)の「モデルY」と、電動ビックアップトラックの「サイバートラック」に使われている。
ギガキャスト計画の保留を決めたことからは、販売台数減少と利益率低下、BYD(比亜迪)などの中国メーカーとの競争激化といった逆風に見舞われているテスラが、目先の支出を減らそうとしている動きの新たな一端が垣間見える。
同社は先月、世界全体の従業員の10%強をレイオフすると表明。複数の上級幹部も辞任したり、解任されたりしている。
関係者の話では、ギガキャスト計画が後戻りし始めたのは昨年秋で、テスラが低価格EVの「モデル2」開発を取りやめたとされる今年2月よりも前だ。当時は、モデル2の開発スピードを上げることと、コストがかさむ開発の遅れや製造面での問題発生を避ける上で、ギガキャスト計画棚上げに合理性があったのだという。
テスラやイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はこれまで、ギガキャストは長期的にコストを引き下げる効果があると主張してきた。ただ多大な初期投資が必要なほか、技術の完成は難しいだけでなく時間がかかる、と専門家は指摘する。
複数の専門家は、テスラがギガキャストに関してより保守的になっているのも無理はなく、その一因は過去に複雑かつ革新的な車を目標期限までに投入するのに大変な苦労を強いられてきたという事実があると述べた。
例えば昨年秋に登場した非常に実験的なサイバートラックにしても、販売価格は予想よりはるかに高くなり、製造面の問題を解決するために投入時期に相当な遅れが発生。さらに量産化に向けて現在も苦戦を強いられているところだ。
専門家の一人は、ギガキャスト棚上げで、テスラは生産や設計面の短期的な投資資金を節約できるだろうとの見方を示した。