*16:58JST 澁澤倉庫 Research Memo(8):2027年3月期に営業利益53億円、ROE7%以上を目指す
■中期経営計画
3. 「中期経営計画2026」と成長戦略
澁澤倉庫 (TYO:9304)は、「Shibusawa 2030 ビジョン」実現に向けたセカンドステージとして2024年5月に「中期経営計画2026」を策定した。
基本方針として、主力の物流事業の収益力の強化、国内外の物流ネットワークの拡充、物流の枠を超えた業域の拡大、物流事業とのシナジー効果を発揮できる不動産ポートフォリオの拡充、ESGへの取組み強化という5つの成長戦略を推進することで、持続的価値を創造する考えである。
このなかで特徴的なのは業域の拡大と不動産ポートフォリオの拡充で、前者では物流周辺のまだ手掛けていない事業を取り込み、後者ではCRE戦略推進の加速や環境対応のバリューアップ投資により収益性を向上させ、物流との融合による価値創造していくとともに、新規物件の投資など不動産事業を積極化する考えだ。
その結果、2027年3月期の数値目標として、営業収益850億円、営業利益53億円、経常利益60億円を設定した。
また、新たにROEを財務目標として取り入れ、「Shibusawa 2030 ビジョン」最終年度までにROE10%以上を達成するため、「中期経営計画2026」においてはそのマイルストーンとして7%以上を目指す。
なお、成長戦略の詳細は次のとおりである。
(1) 収益力の強化
主力の物流事業の収益力の強化では、同社の強みを生かして3つの具体的な施策を実行する予定である。
まず、物流DXを推進して、機械化・自動化による作業効率の向上、情報を活用した新たな価値の創造を図る。
また、専門性を追求することで、波動に対応可能な自動化とマンパワーのハイブリッドオペレーションや、多品種少量物流モデルの全国展開を推進する。
倉庫機能の差別化やバリューアップに向けては、温湿度管理や危険品などに対応する拠点の拡充、流通加工や検品、EC対応などの付加価値の提供により新たな物流サービスの拡充を図る。
(2) 物流ネットワークの拡充
物流ネットワークの拡充では、積極的な投資によって、得意分野の専門性を発揮できる拠点や商品特性・作業形態に適した拠点など国内物流の拠点拡充を図る。
また、現在導入している輸配送管理システムの機能拡充による配車効率や運行効率の向上、オープンネットワークによる協力会社車両も含めた運行管理や労務管理のレベルアップなどによって、国内輸送ネットワークを強化する。
香港や上海など海外拠点では既存の冷蔵・冷凍倉庫の増設や保冷輸送ネットワークの強化も進め、保冷車による域内物流を拡充する方針である。
また、フィリピンやベトナムでも提携先の所有する冷蔵倉庫を足掛かりに、コールドチェーン物流の拡充を推進する。
総じて域内で拠点を整備するとともに、現地企業とのパートナーシップ、ローカルマネージメント層の登用などにより、域内の物流ネットワークの強化を目指す。
(3) 業域の拡大
業域の拡大では、付加価値のあるサービスによって物流の枠を超えた領域拡大を目指す。
例えば、決済代行やマッチングといった商社機能の提供や日本食材の輸出支援など、物流と商流を兼ね備えたサービスを取り込む方針である。
また、オペレーションノウハウを生かした物流機器の開発や、メンテナンス請負や物流機器の販売代理、生産計画と連動したプラントロジスティクスや人材派遣事業などの製造拠点内サービスを計画しているほか、不用品の収集・運搬や再販売などリサイクル事業も立ち上げる考えである。
(4) 不動産ポートフォリオの拡充
不動産事業は、安定した収益・利益の確保により、ボラティリティの高い物流事業を下支えしている一方で、今後は先行して成長する物流事業にキャッチアップしていく。
そのため、CRE戦略※の推進や環境対応などにより物件のバリューアップを進め、事業ポートフォリオの収益性向上を図る。
また、蓄積した不動産知見の活用などで物流施設賃貸業務(不動産)と請負物流業務(物流)を融合した新たな価値創造や物流施設の設備ノウハウの深化を図り、物流事業とのシナジーを深めることで、事業ポートフォリオの拡大を目指す。
さらに、自社所有物件の再開発だけでなく、新たな物件を取得して再開発することも検討している。
例えばより高い利回りになるよう、一棟買いした物件を不動産(賃貸オフィス)と物流(物流倉庫)に分けて貸すことも念頭にあるようだ。
このため、中央日本土地建物グループ(株)や清和綜合建物(株)など不動産専業の事業パートナーとの連携も強化する方針である。
※CRE戦略:企業価値向上の観点からCRE(企業不動産:事務所や店舗、工場など事業用不動産)の見直しを行い、不動産投資の効率性を最大化する戦略。
(5) ESGへの取組み強化
環境への取組みでは、GHG排出量削減とリサイクル物流の事業化に向け、再生可能エネルギー導入施設の拡大、環境配慮型施設の建設(CASBEE・ZEB※認証取得)、リサイクル・サーキュラーエコノミー事業の実現、モーダルシフト輸送サービスの強化を図る。
社会への取組みでは、物流事故の削減、イノベーションの活用、人的資本価値の最大化、協力会社との連携強化を通じて、無事故の推進(安全対策強化)、従業員満足度の向上(制度、就業環境の質向上)、人権への配慮の強化(ダイバーシティの推進)、協力会社と連携した環境や安全対策・労働環境の質向上を推進する。
ガバナンスへの取組みでは、経営基盤の強化、中長期的な企業価値向上、リスクマネジメントの深化、コンプライアンスの徹底によって、グローバル化に対応したガバナンスの構築、適切なリスクテイクによる持続的な企業価値の向上、リスク・リターンの関係を最適化するリスクマネジメントの実践、コンプライアンス体制の強化、情報開示の充実を目指す。
※CASBEE・ZEB:CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は建築物の環境性能を評価し格付けするシステム。
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、快適な室内環境を実現しながら消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物。
CASBEEとZEBを組み合わせることで、より環境によい高水準の建築物を実現することができる。
なかでも重点課題である環境に関しては、同社のCO2排出量を「中期経営計画2026」の期間中に2019年度の基準値から40%削減する目標を策定、「Shibusawa 2030 ビジョン」ではさらに50%以上の削減を目指している。
そのため、新設する本牧倉庫ではCASBEEのAランクやZEBの認証取得のほか、太陽光発電システム・再生可能エネルギーの導入、環境に配慮した車両の導入、サーキュラーエコノミーの推進などを計画している。
また、経営基盤である人的資本の強化については、持続可能な成長に向けて、長期視点で人材・働き方の多様性を生かせる制度を導入するなど、人材の育成・能力開発、ダイバーシティ・インクルージョン、従業員エンゲージメントの向上、人事制度の充実といった4つの強化施策を推進する考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
3. 「中期経営計画2026」と成長戦略
澁澤倉庫 (TYO:9304)は、「Shibusawa 2030 ビジョン」実現に向けたセカンドステージとして2024年5月に「中期経営計画2026」を策定した。
基本方針として、主力の物流事業の収益力の強化、国内外の物流ネットワークの拡充、物流の枠を超えた業域の拡大、物流事業とのシナジー効果を発揮できる不動産ポートフォリオの拡充、ESGへの取組み強化という5つの成長戦略を推進することで、持続的価値を創造する考えである。
このなかで特徴的なのは業域の拡大と不動産ポートフォリオの拡充で、前者では物流周辺のまだ手掛けていない事業を取り込み、後者ではCRE戦略推進の加速や環境対応のバリューアップ投資により収益性を向上させ、物流との融合による価値創造していくとともに、新規物件の投資など不動産事業を積極化する考えだ。
その結果、2027年3月期の数値目標として、営業収益850億円、営業利益53億円、経常利益60億円を設定した。
また、新たにROEを財務目標として取り入れ、「Shibusawa 2030 ビジョン」最終年度までにROE10%以上を達成するため、「中期経営計画2026」においてはそのマイルストーンとして7%以上を目指す。
なお、成長戦略の詳細は次のとおりである。
(1) 収益力の強化
主力の物流事業の収益力の強化では、同社の強みを生かして3つの具体的な施策を実行する予定である。
まず、物流DXを推進して、機械化・自動化による作業効率の向上、情報を活用した新たな価値の創造を図る。
また、専門性を追求することで、波動に対応可能な自動化とマンパワーのハイブリッドオペレーションや、多品種少量物流モデルの全国展開を推進する。
倉庫機能の差別化やバリューアップに向けては、温湿度管理や危険品などに対応する拠点の拡充、流通加工や検品、EC対応などの付加価値の提供により新たな物流サービスの拡充を図る。
(2) 物流ネットワークの拡充
物流ネットワークの拡充では、積極的な投資によって、得意分野の専門性を発揮できる拠点や商品特性・作業形態に適した拠点など国内物流の拠点拡充を図る。
また、現在導入している輸配送管理システムの機能拡充による配車効率や運行効率の向上、オープンネットワークによる協力会社車両も含めた運行管理や労務管理のレベルアップなどによって、国内輸送ネットワークを強化する。
香港や上海など海外拠点では既存の冷蔵・冷凍倉庫の増設や保冷輸送ネットワークの強化も進め、保冷車による域内物流を拡充する方針である。
また、フィリピンやベトナムでも提携先の所有する冷蔵倉庫を足掛かりに、コールドチェーン物流の拡充を推進する。
総じて域内で拠点を整備するとともに、現地企業とのパートナーシップ、ローカルマネージメント層の登用などにより、域内の物流ネットワークの強化を目指す。
(3) 業域の拡大
業域の拡大では、付加価値のあるサービスによって物流の枠を超えた領域拡大を目指す。
例えば、決済代行やマッチングといった商社機能の提供や日本食材の輸出支援など、物流と商流を兼ね備えたサービスを取り込む方針である。
また、オペレーションノウハウを生かした物流機器の開発や、メンテナンス請負や物流機器の販売代理、生産計画と連動したプラントロジスティクスや人材派遣事業などの製造拠点内サービスを計画しているほか、不用品の収集・運搬や再販売などリサイクル事業も立ち上げる考えである。
(4) 不動産ポートフォリオの拡充
不動産事業は、安定した収益・利益の確保により、ボラティリティの高い物流事業を下支えしている一方で、今後は先行して成長する物流事業にキャッチアップしていく。
そのため、CRE戦略※の推進や環境対応などにより物件のバリューアップを進め、事業ポートフォリオの収益性向上を図る。
また、蓄積した不動産知見の活用などで物流施設賃貸業務(不動産)と請負物流業務(物流)を融合した新たな価値創造や物流施設の設備ノウハウの深化を図り、物流事業とのシナジーを深めることで、事業ポートフォリオの拡大を目指す。
さらに、自社所有物件の再開発だけでなく、新たな物件を取得して再開発することも検討している。
例えばより高い利回りになるよう、一棟買いした物件を不動産(賃貸オフィス)と物流(物流倉庫)に分けて貸すことも念頭にあるようだ。
このため、中央日本土地建物グループ(株)や清和綜合建物(株)など不動産専業の事業パートナーとの連携も強化する方針である。
※CRE戦略:企業価値向上の観点からCRE(企業不動産:事務所や店舗、工場など事業用不動産)の見直しを行い、不動産投資の効率性を最大化する戦略。
(5) ESGへの取組み強化
環境への取組みでは、GHG排出量削減とリサイクル物流の事業化に向け、再生可能エネルギー導入施設の拡大、環境配慮型施設の建設(CASBEE・ZEB※認証取得)、リサイクル・サーキュラーエコノミー事業の実現、モーダルシフト輸送サービスの強化を図る。
社会への取組みでは、物流事故の削減、イノベーションの活用、人的資本価値の最大化、協力会社との連携強化を通じて、無事故の推進(安全対策強化)、従業員満足度の向上(制度、就業環境の質向上)、人権への配慮の強化(ダイバーシティの推進)、協力会社と連携した環境や安全対策・労働環境の質向上を推進する。
ガバナンスへの取組みでは、経営基盤の強化、中長期的な企業価値向上、リスクマネジメントの深化、コンプライアンスの徹底によって、グローバル化に対応したガバナンスの構築、適切なリスクテイクによる持続的な企業価値の向上、リスク・リターンの関係を最適化するリスクマネジメントの実践、コンプライアンス体制の強化、情報開示の充実を目指す。
※CASBEE・ZEB:CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は建築物の環境性能を評価し格付けするシステム。
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、快適な室内環境を実現しながら消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物。
CASBEEとZEBを組み合わせることで、より環境によい高水準の建築物を実現することができる。
なかでも重点課題である環境に関しては、同社のCO2排出量を「中期経営計画2026」の期間中に2019年度の基準値から40%削減する目標を策定、「Shibusawa 2030 ビジョン」ではさらに50%以上の削減を目指している。
そのため、新設する本牧倉庫ではCASBEEのAランクやZEBの認証取得のほか、太陽光発電システム・再生可能エネルギーの導入、環境に配慮した車両の導入、サーキュラーエコノミーの推進などを計画している。
また、経営基盤である人的資本の強化については、持続可能な成長に向けて、長期視点で人材・働き方の多様性を生かせる制度を導入するなど、人材の育成・能力開発、ダイバーシティ・インクルージョン、従業員エンゲージメントの向上、人事制度の充実といった4つの強化施策を推進する考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)