[上海/シンガポール 20日 ロイター] - 中国とロンドンおよびチューリヒの証券取引所を接続し、中国企業が欧州で上場できるようにする制度は、流動性が高まらず壁に直面している。中国企業の資金調達を多様化するという本来の目的に反し、中国本土上場株との裁定取引手段と堕しており、アナリストは制度の微調整が必要だとみている。
上海とロンドンの証取を接続する制度は4年前から稼働しているが、この制度を利用してロンドンでグローバル預託証券(GDR)を上場した中国企業は5社にとどまっている。昨年始動した上海とスイス証券取引所(SIX)を結ぶ制度では、13社がチューリヒでGDRを上場した。
市場参加者が少ないため、これらGDRの需要は乏しい一方で、裁定取引を狙う投資家をおびき寄せている。
裁定機会が生まれるのは、大半の中国企業が投資家を引きつけるため、中国上場の「A株」よりも割安な価格でGDRを発行するためだ。発行されるやいなや、ヘッジファンドはGDRを中国上場株と交換し、その差額を懐に入れる。
中国のヘッジファンドのアナリストは「GDRを買った後、A株に転換することで得られるリターンは、全てのコストを差し引いたベースで4─5%だ」と語る。
これは、欧州との関係を強化し、新たな資金調達の場を開拓するという中国の狙いを脅かす悪循環だ。
英国のジョン・エドワーズ対中国通商担当官は、世界が地政学的に複雑化する中で、資金調達の場を多様化したい中国企業が増えていると説明。「米国よりも欧州で資金調達する方が理にかなっている」と語る。
だがエドワーズ氏は「出来高が低いのは良くない。ヘッジファンドの裁定も良くない。有効な資金調達経路として、われわれが長期的に目指しているのはこのような姿ではない」と続けた。
中国の弁護士によると、GDRをA株に転換する投資家が多いため、そうした裁定取引の利益を確定するためのデリバティブ商品を設計するブローカーまで登場した。
<容易でない修復>
この状況の修復は一筋縄ではいかず、時間も要する。ただロンドン証券取引所グループ(LSEG)代表と英政府の通商担当高官らは最近、中国の複数の都市を訪れて英資本市場を売り込むなど、状況改善に努めている。
一方SIXは、スイスの市場環境が現在厳しいため、投資家の間で中国企業投資のリスクを取る意欲が低下していると説明。GDRという形態が目新しいこともあり、出来高が増えないとしている。
このため、中国企業がSIXで発行するGDRは1件当たり平均数億ドルと、小規模にとどまっている。しかも大半の企業は裁定取引のせいで、ロックアップ期間空けにGDRの一部キャンセルを余儀なくされている。
SIXは流動性を集中させようと、中国GDRの1日当たり取引時間を2時間半に圧縮する苦肉の策まで導入したが、機能していないという。
スタンダード・チャータード銀行の証券サービス担当ディレクター、ディーン・ディン氏によると、大半の機関投資家が、中国の適格外国機関投資家(QFII)制度や上海・香港証取接続制度を通じて既に中国株に投資していることも、GDRの需要が伸びない要因となっている。
(Li Gu記者、Tom Westbrook記者)