伊賀大記
[東京 20日 ロイター] - 円安が止まらない。ドル/円は129円台に上昇し、2002年4月24日以来となる130円も視界に入ってきた。米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締め姿勢を強める一方、日銀は指し値オペを実施し、金利上昇を抑制する中、日米金利差との連動性が強まっている。貿易赤字など円売り材料は豊富で、日銀が10年金利の許容レンジを拡大したとしても円高効果は限定的との見方も出ている。
<連動が2年から10年に>
為替はマネーフローや市場のリスク心理など様々な要因に影響を受けるため、2国間の金利差だけに反応するわけではない。2021年ごろまでは連動しない期間も多かった。しかし、足元のドル/円は日米金利差との連動性が非常に高くなっている。
「これまで米2年債利回りと連動性の高かったドル/円は、今は10年債利回りとの相関性が強まっており、米10年債利回りの上昇がドル/円を押し上げた」と、T&Dアセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト兼ファンドマネジャー、浪岡宏氏は指摘する。
10年金利差との連動が高まっているのは、市場参加者が日米中央銀行の姿勢の違いに注目しているためだ。米セントルイス地区連銀のブラード総裁は18日、FRBが政策金利を年内に3.5%まで引き上げるとの見方を改めて示し、米10年債利回りは一時2.98%と、2018年12月以来となる3%台に接近した。
一方、日銀は19日、10年債を0.25%で無制限に買う指し値オペを再び実施した。円安材料と受け止められるリスクもあったが、金利上昇抑制の姿勢を改めて示した格好だ。
為替の所管は財務省であり、日銀は物価目標を達成、もしくは不安定な経済を支えるために現在の金融緩和政策を遂行しているだけとも言えるが、マーケットの注目がそこに集まる限り、ドル買い・円売り圧力は弱まりにくい。
<「口先介入」では効果限定的>
貿易赤字など、その他の円安材料も多い。日本の3月貿易収支は4124億円の赤字と、ロイターの予測中央値1008億円を大きく上回った。8カ月連続の赤字で、2021年度の貿易収支は5兆3749億円の赤字と、14年度以来の大きさとなった。
1月に1兆円を超える大赤字になった経常収支は3月以降、黒字化に向かうとの予想も出ている。しかし、実際にマネーフローを伴う貿易収支を経常収支以上に為替の大きな要素として重視する市場参加者は少なくない。円安は原油や石炭など原材料の輸入価格をさらに高めるため、貿易赤字とも連動しやすい。
日本の当局者から連日のように「口先介入」が行われているが、効果は限定的。実際に、ドル売り・円買いを行う為替介入は難しいとの見方が市場には多いためだ。
政府短期証券(FB)を発行し円資金を調達すれば、資金面ではほぼ無制限に行える円売り介入と違い、円買い介入の場合は、外貨準備高の量(3月末時点で1.35兆ドル=約174兆円)が事実上の円買い介入の限界となる。インフレに悩む米国の理解も得にくいとみられている。
<YCCレンジ拡大では効果薄か>
こうした中、市場の注目は27─28日の日銀金融政策決定会合に集まる。三菱UFJ銀行のチーフアナリスト、井野鉄兵氏は「日銀が何もしなかった場合はドル/円の跳ね方が大きくなる可能性がある」と警戒。1ドル130円を超えた場合、132円も視野に入ってくるとみている。
黒田東彦日銀総裁は18日の衆院決算行政監視委員会で、円安のマイナス面にも考慮が必要と指摘したが、「バランスシートの縮小や政策金利引き上げは可能だが、今その状況でない」と発言しており、市場では利上げなど大きな政策変更の可能性は低いとみられている。
政策の微修正の可能性があるとされているのが、YCCにおける10年債金利の許容レンジの引き上げだ。米国だけでなくドイツなど欧州でも金利は大きく上昇しており、「国債の市場機能を維持するために現在の上下0.25%から拡大させるとの理屈は通りやすいのではないか」(国内証券)という。
ただ、微修正では、0.50%を含む複数回の利上げが織り込まれている米金利との差を縮めるのは難しい。
野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は、日銀が許容レンジを例えば上下0.5%に拡大した場合、もしくはレンジを撤廃した場合でも、現在の米金利から推計される10年債金利の上昇めどは0.33%程度と指摘。この程度であれば、日米10年金利差縮小による円高効果は1円程度しかないと試算している。
日銀が政策修正を行えばサプライズ感が出やすく、円安はいったん止まるかもしれない。しかし、インバウンド収入増加による貿易収支の改善など、日銀が金融引き締めに向かえると市場が期待できるようなファンダメンタルズの変化がなければ、「歯止め」は短期間の効果にとどまる可能性が大きい。
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