●尖閣攻防で中国離れ加速の公算●
「日中関係、著しく悪化」(岸田外相)、政府の連日の尖閣侵入抗議で表現がエスカレートしてきている。
今までは王毅外相の横暴発言にも我慢の姿勢だった岸田外相自ら抗議姿勢を強めてきた。
中国は疑似監視活動(漁船乗組員と監視船の人員往来)まで行っており、300隻を超える大量の公船・漁船のみならず、実効支配体制を目指していると見られる。
一般的には、北戴河会議に絡んだ習体制の引き締めと見られているが、実効支配を目指す長期戦略の一環であることに変わりはない。
南シナ海問題などで先頭走る日本に直接的ダメージを与えることを狙っている公算も大きい。
3日、日本研紙(5398:東証2部銘柄だが、M&Aで上場廃止予定)は77.5%出資の中国・昆山正日研磨料を解散および清算すると発表した。
04年設立だが、赤字続きで成果を上げられなかった。
会社全体のリストラの一環と見られるが、中小企業を中心に同様の状態にある企業は多いと思われ、追随する企業が続出するか注目される。
また、中国重視で知られてきたイオンが、このところマレーシア、ベトナム、ミャンマーなど、東南アジア展開を加速させている。
「チャイナ・プラスワン」から「脱中国」の印象が深まるか、主要企業の動きも注目されるところだ。
あくまで印象だが、日本企業の収益動向で中国を中心にアジアの伸びが停滞し、その分北米依存が強まり、ドル安円高の警戒感が強まった感がある。
現状の日中関係を見ると、業績拡大に注力するより、摩擦激化リスクの回避に重点を置かざるを得ないように見える。
その一つが東南アジア経済の自立化、日本企業の東南アジア展開の加速化と考えられる。
国情や企業の展開がバラバラなので、全体イメージを作るのは難しいが、「東南アジアで稼ぐ」企業が次第に注目されると考えられる。
9日のアジア通貨市場は大半が上昇した。
高利回りを求める動きが資金流入を支え、投資活動も活発化する流れにある。
今までは中国経済の影響が大きく、貿易縮小(9日ジェトロ発表の15年世界貿易は12.7%減)の影響を受けてきたが、緩やかに成長加速の期待がある。
中心はタイと考えられる。
日本企業の進出が多く、自動車・部品、電子部品を中心に生産基盤が拡大していると思われる。
タイは軍事クーデターや大水害後遺症などで低迷が続いてきたが、7日の国民投票で新憲法案が承認(ただし米政権は批判)、来年にも総選挙を実施、プラユット暫定首相の長期政権化に進むと見られる。
6日、日本式都市交通シ
ステム開通式に参加した石井国交相はアーコム運輸相と会談し、新幹線整備(バンコク-チェンマイ間670キロ)の協力覚書を調印した。
軍事政権は一時、中国に靡く姿勢も見せていたが、日本との協力関係強化の従来路線に戻りつつあると考えられる。
他にも、マレーシア-シンガポールの高速鉄道計画、インドネシアやベトナムでの様々な投資、中国色の強いラオスでも発電所建設が進められている。
6日ラオスで開催されたASEAN経済閣僚会合で、日本と新産業創出支援を柱とする今後10年の経済協力計画が合意された。
中国にはない幅広い産業支援が強みだ。
ASEANは昨年末、域内の単一市場化を目指す「ASEAN共同体」を発足させており、それを軌道に乗せることが当面の焦点になる。
中国が突然、どういった動きをしてくるか(制御できないものを含め)、極めて不透明だが、その裏で東南アジアとの経済連携が着実に進展して行くかどうかが焦点になろう。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/8/10号)