[東京 24日 ロイター] - 東京電力は24日、福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出を開始した。廃炉を進める上で課題となっていた処理水タンクを減らし、廃炉作業を進める。西村康稔経済産業相は会見で「廃炉に向けた大きな一歩を踏み出した」と述べた。これに対して、中国は日本の水産物の輸入を全面停止するなど反発を強めている。岸田文雄首相は、中国に対し、外交ルートで禁輸措置の即時撤廃を求める申し入れを行ったと語った。
東電は、最初に放出する処理水を海水で希釈、トリチウム濃度が基準値の1500ベクレル/リットルを下回っていることを確認し、放出を開始した。
2023年度中は、4回に分けて約3万1200トン放出する。1回目は17日間で7800トンを放出する。放出完了までは30年程度かかる見通し。
現在の技術ではとり切れないトリチウムが残った処理水について、東電が貯蔵している原発敷地内のタンクは24年2―6月ごろに満杯となる見込み。これらのタンクは廃炉作業を進める上で障害になるため、21年4月に政府は海への放出を決定した。
政府は福島第1原発の処理水放出時期について、今年の春から夏ごろを見込むとしていた。国際原子力機関(IAEA)が7月、処理水放出について国際的な安全基準と合致しているとの報告書を発表。岸田文雄首相は今月初め、漁業関係者との対話で「信頼関係は少しずつ深まってきている」との認識を示した。
原発処理水に関しては、2015年に経産省と東京電力が福島県漁連に対し、関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないと伝えていた。全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長は24日、放出反対の立場に変わりはないとした上で「この(海洋放出の)瞬間を目の当たりにし、全国の漁業者の不安な思いは増している」とコメント。政府に対し、漁業者へのフォローアップ体制の構築などを通じ「全責任をもって対応する」との岸田首相の約束の確実な履行を求めた。
海洋放出を受け中国外務省は声明で「国境を超えた影響を伴う原子力の安全性に関する重大な問題であり、日本だけの問題ではない」と非難。同国税関当局は、日本の水産物の輸入を同日から全面停止すると発表した。
香港政府も22日、輸入規制を24日から発動するとし、海洋放出を実施した場合、10都県からの水産物の輸入を禁止すると表明している。
農林水産省の統計によると、2022年の水産物の輸出総額は3873億円で、輸出先の1位は中国、2位が香港。中国向け輸出額は871億円、香港向けは755億円。
西村経産相は会見で「政府として科学的根拠に基づいて、規制の早期撤廃、さらなる規制強化を行わないよう強く求めていく」と語った。
政府は今後漁業関係者への支援を本格化する。21年度の補正予算で300億円を計上、22年度には500億円の基金を設けており、処理水の放出に関連した被害への支援を進める。
中国の輸入停止措置に関連する国内事業者の被害への賠償について、東京電力の小早川智明社長は「しっかりと相談に応じたい」とした。
東電は放出地点の近場の10拠点で海水を採取し、25日夕にも分析結果を発表する。
環境省も25日朝、周辺海域で海水を採取し、放射性物質濃度の分析を行った上で、27日午前に発表。水産庁も25日の魚のサンプリング取得分について、26日朝に分析結果を公表する。
(石田仁志、浦中美穂 編集:宮崎亜巳、田中志保)