[28日 ロイター] - 米アップル (O:AAPL)はブラジルやインドに製造拠点を新設してもなお中国への依存度の高さを解消できず、トランプ米政権による追加関税の適用が迫る中で逆風が強まっている──。ロイターがアップルのサプライチェーンを分析した結果、こうした状況が浮かび上がってきた。
アップルはまず9月1日、中国で製造したスマートウオッチやワイヤレスヘッドフォンなどについてトランプ政権が発動する15%の追加関税が待ち受ける。さらに12月15日には、主力製品であるスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」にも追加関税がのしかかる。
米企業の中で、アップルほど中国との結び付きが強い企業はまれだ。何しろ中国では、台湾の鴻海精密工業(フォックスコン) (TW:2317)や和碩聯合科技(ペガトロン) (TW:4938)、緯創資通(ウィストロン) (TW:3231)などが所有する受託生産工場で数十万人がアップル製品を組み立てている。
近年はアップルも中国以外の国にも生産委託先を広げ、例えば2015年には受託生産工場がゼロだったインドでも、今年までに3カ所の組み立て施設ができた。その中にはiPhone「X(テン)」を製造する計画のフォックスコンの工場もある。インドは世界に残った数少ない急成長を続ける携帯電話市場の1つで、アップルは高い輸入関税を避けるために同国内に生産拠点を確保した。同じ目的でアップルとフォックスコンは、ブラジルにも進出した。
ただインドやブラジルがそうであるように、中国国外の工場は比較的規模が小さく、アップルは各国内の需要を賄うためだけに利用している。
一方で中国国内の受託生産地点はそれ以上に拡大し、フォックスコンだけでも15年の19カ所から今年は29カ所に増えた。ペガトロンも8カ所から12カ所になっている。背景にはアップルがスマートウオッチや人工知能(AI)搭載スピーカー、ワイヤレスヘッドフォンなどを生産ラインに加えたことがある。
そして受託生産工場以外、つまりアップルに半導体やガラス、ケーブル、サーキットボード(電子部品を集積・配線する基板)などを提供するサプライヤーは一層中国に集中している。ロイターがアップルのデータに基づいて独自に集計したところでは、15年時点でアップルの全サプライヤーのうち中国拠点の割合は44.9%、今年は47.6%だった。
<大規模生産ゆえの制約>
アップルは中国以外に生産拠点を分散化する上でいくつかのハードルに直面している。中国には非常に多数のサプライヤーが集まっているため、年間に数億台もの端末を製造することが可能な上に、出荷までの在庫期間も数日にとどまる。こうした無駄の無さこそが、株主から高く評価される潤沢なキャッシュフローを生み出す重要な要素だ。
他のスマホメーカーは出荷台数がずっと少なく、それだけ柔軟な対応ができる。アルファベット (O:GOOGL)子会社グーグルの場合、スマホ「ピクセル」の生産を中国からベトナムに移す、と一部で報道されている。
ところがアップルは、その規模ゆえに小回りが利かない。他国では中国ほど大規模な労働力を得られないからだ。生産工場は設計や顧客ツールのトラブル対応などに長けた優秀な技術者が必要だが、ベトナムの人口は中国の10分の1未満にすぎない。
アップルがインドないしベトナムで端末を製造できても、生産台数は同社が必要とする量のごく一部になるだろう。
あるサプライヤーの経営者は、世界中を見渡しても1日60万台のスマホを生産できるインフラを備えた場所は中国以外ほとんどないと指摘した。
(Stephen Nellis記者)