[東京 20日 ロイター] - 米アップル (O:AAPL)が20日に発売した新型iPhoneは、国内で最大1万円の値下げをした。初代発売から10年を経てなお根強い多くのファンの存在が販売を下支えすると見られるが、世界的な低価格スマホの台頭や総務省のルール変更といった向かい風が吹いている。
今回の新型iPhoneは、処理速度やカメラの性能が向上するなかで、従来モデルからの値下げを実現した。例えば「11」は7万4800円からとし、前機種の「XR」に比べ1万円安く価格を設定した。「端末の販売だけでは先行き厳しいとの危機感の現れ」(携帯電話会社関係者)と見られている。アップルは音楽や映像の配信といったサービスにも力を入れてきている。まず端末を購入しやすくして、その後のサービス利用を促そうとしている。
<内外からの逆風>
確かにiPhoneを巡る環境はさえない。世界の市場で中国勢を中心に低価格・高機能のスマホが台頭してきている一方、ファン層以外の一般消費者が短期間で買い替えを迫られたり新規購入を促されるほどの目新しい進化はここ数年、見られない。
国内市場では、10月から始まる総務省の新ルールによる環境変化も逆風となり得る。
iPhoneのシェアがアンドロイド端末に比べて大きい日本市場は「世界で一番高額で性能の良い憧れのモデルが実質ゼロ円で買える特異な市場」(MM総研の横田英明研究部長)と見られてきた。
しかし新ルールでは、端末購入補助の上限が2万円となった。iPhoneと低価格スマホがともに2万円の値引きなら、iPhoneの方が価格が高いだけに値引率は低くなる。新ルール案が示された6月には、iPhoneの国内販売の大幅な減速を予想する声が一時、市場に広がった。
高価格スマホの市場は「若干、落ちる傾向は否めないだろう」(MM総研の横田氏)という。新ルールによって通信料金と端末代金が分離される。このため「ゼロ円端末」に代表されるような、端末代金の値引き分を通信料金に負担させる従来の手法が用いられなくなり、端末代金に割高感が生じやすい。
もっとも、足元では「当初想定したより、影響はあまりないのではないか」(MM総研の横田氏)と、冷静な見方が優勢となっている。ソフトバンク (T:9434)とKDDI(au) (T:9433)が、48カ月分割払いで端末を購入し25カ月目以降に端末を返却すれば半額になるプランを9月に打ち出したことで、影響が緩和されるとの見方だ。
<根強いファンが支えに>
逆風の中でも、ファンの支持は根強い。新型iPhoneを求めてApple丸の内を訪れた埼玉県在住の会社員、芝伸紀さん(48)は、その魅力について「(アップルは)OS(基本ソフト)とハードの両方を手掛けるだけに操作性が良い」と話す。
ファンがiPhoneを支持する背景には、アップルの関連製品やサービスが連携する「エコシステム」の存在がある。クラウドサービスのiCloudを通じて、iPhoneやiPad、Apple Watchといった端末間でデータを共有しやすいという。埼玉県の芝さんも、自宅で使用する同社製パソコンとの連携もスムースで、ほかのスマホの購入は考えられないという。
アップルウオッチの新型を購入しようとストアを訪れた都内在住の学生、内野沢安紀さん(20)も、アップル製品はエコシステムが魅力だとし「これから一生iPhoneを使っていくことになりそう」と話した。
国内スマホ市場でのiPhoneのシェアは、ソフトバンクが取り扱いを始めた08年に7割を超えた。NTTドコモ (T:9437)がアンドロイド携帯に力を入れた時期に3割台に縮小したが、11年にau(KDDI)、13年にドコモが取り扱いを始める中で、5割前後に回復した。その後は5割付近で、ほぼ横ばいとなっている。
(編集:石田仁志)