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アングル:韓国、難路続く燃料電池車対策 水素社会に高い壁

発行済 2019-10-02 09:11
更新済 2019-10-02 09:16
アングル:韓国、難路続く燃料電池車対策 水素社会に高い壁
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Hyunjoo Jin Jane Chung

[ソウル 25日 ロイター] - 燃料電池車(FCV)の普及をめざす韓国政府の取り組みに乗じようと、ソン・ウォンヤンさんは昨年9月、蔚山市内に水素補給ステーションを開設した。わずか1年後、彼はもう廃業を検討している。

蔚山にはヒュンダイ・モーターズ (KS:005380)の主力工場が立地し、市内を走るFCVは韓国の都市で最多の約1100台。ソンさんが新設した水素補給ステーションは、蔚山市内5カ所のうちの1つだ。

建設費は電気自動車向けの急速充電設備に比べ6倍以上の30億ウォン(250万ドル)だが、政府が負担してくれた。ソンさんが経営するガソリンスタンドの隣に設置された2基の水素補給ポンプには、毎日ヒュンダイ製のSUV「ネクスコ」が確実に訪れる。

だが、それでも経営は赤字だ。1日に補給できる台数に限度があり、また消費者のFCVへの乗り換えを促すために政府が水素小売価格を低く設定していることも制約となっている。

ソンさんはロイターに対し、「政府が運営コストを補助してくれない限り、どこの水素補給ステーションでも、閉鎖する以外に選択肢がなくなる」と語った。「さもなければ、ここは30億ウォンもかけた鉄クズということになる」

こうした採算面での障害にさらに追い打ちをかけるように、今年は水素貯蔵タンクの爆発事故で犠牲者が出たことで、「ゼロ・エミッション」燃料を推進する政府・ヒュンダイによる野心的なキャンペーンに対する抗議行動が発生した。

<日本を上回る大胆な導入目標>

アジア第4位の経済規模である韓国では、水素エネルギーを「未来の社会基盤」と位置づけ、文在寅大統領自ら水素テクノロジーの推進役になることを宣言、2030年までに85万台のFCVを導入するという目標を掲げている。

これまでの販売台数が3000台に満たないことを考えれば、決して容易な目標ではない。やはりFCVの普及に熱心で、自動車市場の規模は韓国の3倍もある日本でさえ、同時期の導入計画は80万台だ。

電気自動車が環境に優しい自動車としての注目をもっぱら集めている中、韓国内での水素補給インフラ構築の困難さは、FCVが広範囲での普及に向けて直面する長く苦しい戦いを象徴している。

韓国政府、そして国内でFCVを発売している唯一の自動車メーカーであるヒュンダイにとって、FCVの普及は、巨額を投じるわりには成功する保証のないプロジェクトだ。

ロイターの試算では、現在の補助金水準を続けた場合、文政権は2022年までにFCVの販売と水素補給ステーションの建設に対して総額18億ドルの国費を投じることになる。

補助金のおかげで「ネクスコ」の価格は約3500万ウォン(2万9300ドル)と半額に下がり、2018年3月に発売された同車種の販売台数は今年に入って急増している。これに比べて、日本政府による補助金はトヨタ自動車 (T:7203)が発売するFCV「ミライ」の価格の3分の1にすぎず、実勢価格は約4万6200ドルとなっている。

政府による熱心な支援の恩恵を受けているのは主にヒュンダイだという批判も一部にあるが、同社自体も大きなリスクを背負っている。同社は2030年までに、サプライヤー各社とともに水素関連の研究開発や施設に65億ドルを投資する計画だ。

ヒュンダイは電子メールで送信された声明のなかで、「(FCV)生産施設の建設、サプライチャネルの確保、販売網の確立には大規模な投資を行う必要があるが、それにはリスクも伴う」と述べている。

<住民側の抗議行動が激化>

5月、地方都市の江陵で、政府研究プロジェクトが保有する水素貯蔵タンクが爆発した。サッカー場半分ほどの規模の研究施設が破壊され、2人が死亡、6人が負傷した。予備調査によれば、タンクに酸素が混入した後、火花によって爆発が生じたという。

研究所を相手取った訴訟で2人の死者のうち一方の遺族の代理を務める弁護士は、「犠牲者の1人は爆風で吹き飛ばされ、岩に叩きつけられて死亡した」と語る。

1ヶ月後、ノルウェーの水素補給ステーションでも爆発事故が起きた。今週には韓国国内の化学プラントで水素ガスが漏洩し、その後の火事で従業員3人が火傷を負った。

こうした安全性に対する懸念により、韓国では、近隣での水素関連施設の建設に不安を抱く住民グループによる抗議行動が激化している。

江陵での爆発事故の2日前、港湾都市・仁川市で計画中の燃料電池発電所に反対して、キム・ジョンホさんが1ヶ月のハンガーストライキを開始した。キムさんは、江陵での爆発事故によって、住民の不安は水素生産による環境汚染リスクから安全性への疑念に向いている、と話す。仁川市ではその後、発電所の安全性と環境への影響を再検証することに同意した。

複数の爆発事故を受けて、水素補給ステーションの経営を考えていた人々も浮き足立っている。

平沢市では4月、水素補給ステーションの設置先としてガソリンスタンド2事業者を選定したが、3ヶ月もしないうちに両者とも辞退を決意し、市は選定作業を再開せざるをえなかった。

設置先候補の1つだった事業者は、匿名を希望しつつ、「最初はとても興味をもった。しかし注意深く検討してみると、とうてい利益にならない事業を政府が推進していることが分かった」と語る。

「いつ爆発が起きるかとヒヤヒヤしながら暮らすことはできない」。こうした不安に対処するため、政府は住民向けの説明会を開催している。またヒュンダイは、ユーチューブやソーシャルメディアを通じて情報を発信しつつ、消費者に水素の安全性を理解してもらうよう取り組んでいると話している。

<「政府の散財の尻拭い」>

水素補給ステーションはFCVの広汎な普及に不可欠の要素であり、政府は2019年末までに114カ所を整備する計画だが、まだ29カ所しか完成していない。コストの半分を肩代わりするための地方自治体・企業からの資金集めが難航していることや、用地選定や住民の反対運動もステーション整備の障害になっている。

水素補給ステーション整備に当たる事業者も、前途多難を承知している。

100カ所のステーション設置を受注したコンソーシアムのCEOユー・ジョンスー氏は6月に行ったプレゼンテーションのなかで、「非常に厳しい時期、いわば『死の谷』が待ち構えているだろう」と述べ、2025年まで黒字転換は期待できないとしている。

このコンソーシアムにはヒュンダイも参加しているが、政府に対して、水素補給ステーションの運営コストを補助するよう求めている。韓国産業通商資源省の当局者は、計画が未完成であることを理由に匿名を希望しつつ、そのような措置も検討中であるとロイターに語った。

元ヒュンダイ技術者で自動車アナリストのリュー・イェンファ氏は、「水素社会をめざす政府の散財の尻拭いを強いられている納税者の負担がさらに増すだけだ」と言う。FCVは商業的に成立しないというのがリュー氏の見方だ。

文政権は先月、来年度予算で「水素経済」関連の支出を2倍以上の5000億ウォン超にすると発表した。予算には、FCV及び水素補給ステーション関連の3590億ウォンが含まれており、今年度と比べても52%増、2018年の298億ウォンに比べれば飛躍的な伸びとなっている。

<ドライバーの苛立ち>

「ネクスコ」を「走る空気清浄機」と宣伝するヒュンダイにとって、規模の経済を実現してコストを削減するためには、韓国政府の野心的な目標が大きな頼りだ。

ヒュンダイは、補助金適用前のFCVの生産コストを、年間生産台数が3万5000台に達した時点で5000万ウォンまで削減することを目標としている。来年は1万1000台を生産する予定で、2022年までに年間4万台まで増やしたいと希望している。

だがその一方で、水素補給をめぐる制約と補給ステーションの少なさが、かなりの苛立ちを引き起こしている。

水素補給ステーションを運営するソンさんによれば、補給そのものには約5~7分しかかからないが、次のドライバーは、水素を供給する貯蔵タンクの圧力が十分に高くなるまで、さらに20分ほど待たなければならない。さもないと、FCVのタンクが満タンにならないからだ。

今のままでは、ソンさんのステーションは1日に約100台のFCVにしか対応できない。これに比べ、彼のガソリンスタンドであれば最高1000台に対応可能だ。また、水素補給を求めてやってきた多くのドライバーは、20分も待っていられず、満タンにせずに出て行ってしまう。

燃料費の安さに惹かれて「ネクスコ」を購入したチョイ・ギューホさんによれば、他の地域では水素補給ステーションがないため、蔚山市を離れるのは難しいという。

「非常に不便だ。いつ市外にまでドライブできるようになるか待ち遠しい」と彼は言う。

(翻訳:エァクレーレン)

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