中川泉
[東京 16日 ロイター] - 4月ロイター企業調査では、新型コロナウイルスによる事業への影響について「終息のめどが立たない」との回答が3月の2割から6割に急増、企業が不透明感を強めていることがわかった。設備投資も、現時点で見送りないし最低限にとどめる企業が8割弱を占め、感染終息後も前年並みか縮小とする企業も8割強と、縮小傾向に歯止めはかかりそうにない。
政府が新型コロナウイルス対策として打ち出した事業規模108兆円の緊急経済対策については、規模感はまだ不足しているとの見方が75%を占めた。サプライチェーンに影響が出ている企業の割合も前月調査より増え、半数を超えた。政府に対しては、消費刺激策や資金繰り対策のさらなる拡充を希望する声が多い。
調査は4月1日から13日までの期間に実施、調査票発送企業は499社、回答社数は230社程度だった。
<サプライチェーン、世界的物流停滞に局面変化>
新型コロナウイルス関連で売り上げや生産が減少した企業は56%に上り、3月調査の47%から増加した。うち1─3割程度の減少は45%、3割以上の減少は11%と、どちらも増えた。
サプライチェーンに影響が出ている企業は3月の47%から59%に増加。中国の工場停止などの影響に加え、欧米での経済停滞や、世界的な物流停滞を挙げる声がここへきて目立ち始めた。
企業からは「欧米メーカーによる不可抗力宣言が続発。検査立ち会いが実施できず、工程や納期の見通しが極めて立てづらい状況にある」(機械)、「中国との物流に影響が出ており、現地工場が稼働しても船便や航空便の確保に苦慮している」(その他製造)といった声があった。
中国からの入荷の遅れでは「マスクや衛生用品の納入が停滞」(サービス)、「衛生陶器と照明機器の納期が遅れている」(建設・住宅メーカー)といった状況となっている。
<事業への影響終息めど立たず 前月の3倍に>
新型ウイルス感染拡大に伴う事業への影響が終息する時期については「めどがたたない」との回答が前回の22%から60%に増加した。
「ワクチン・新薬の実用化なしには、今回の事態は終息しない」(化学)との声が増えた。打撃が大きい自動車業界からは「実体経済へのダメージが大きく、元の水準までは回復しない」(輸送用機器)との弱気な見方もある。
関連業界では「自動車メーカーの操業停止が拡大しつつあり、グローバルで影響が大きくなってくる」(金属製品)など不安も広がっている。建設業界からは「インバウンド需要に頼っていた部分が多く、終息後も国内の先行き次第」との声が寄せられた。
<108兆円対策、まだ不足>
政府が新型ウイルス感染拡大防止や資金繰り支援、給付金などで事業規模108兆円の緊急経済対策を打ち出したが、「やや不足」、「かなり不足している」が合わせて75%にのぼった。全体として「規模よりもスピード感がない」(卸売)といった評価が目立った。
十分な規模であると評価する企業からも「終息がみえない状況下では評価が難しく、とりあえず第一弾の施策という認識のため」(食品)といった声があるほか、「今後予想される景気縮小に対し規模が小さい」(電力・ガス)など、この先さらに経済が悪化することへの不安も大きい。
対策に盛り込まれている資金繰り支援や雇用調整金、感染終息後の消費支援などについても、さらなる拡充を求める声が4割を占めた。緊急事態宣言の対象地域における休業要請に関連して「休業補償の支給を条件とした強制的な休業命令」(サービス)を求める声もある。
一方「過大」との見方はわずか5%、「十分な規模」との見方も21%にとどまった。中には「一時的なパニック状態に乗じて過度なバラマキ政策をとると、何でも国が補償すべきとの主張になりかねない」(機械)、「大企業や一定以上の給与所得者への支援は不要。中小企業・個人事業主・低所得者層に対象を絞るべき」(小売)といった指摘もあった。
<投資計画、大幅な抑制姿勢>
2020年度設備投資計画については、現時点で「すべて見送る」が4%となった。「投資などは後回しで、まずは当面の経営維持が喫緊の課題」(窯業)といった回答がある。
また「必要最低限」が73%にのぼり、大幅な抑制姿勢となっている。感染終息時についても「前年より拡大する」との回答を「縮小する」との回答が上回った。
慎重化の背景には「終息後の産業地図の変化を注視してから実行することになる」(ゴム)など、「経済活動そのものが変わるため、従来の投資基準は適用できなくなる 」(小売)といった認識の広がりもある。
雇用や賃金については、約9割の企業が従来通り維持する考えであることが分かった。「雇用・賃金の低下による経済の負のスパイラルは回避しなくてはならない」(卸売)といった考え方が複数寄せられた。
(グラフ作成:照井裕子 編集:石田仁志)