[上海/香港 8日 ロイター] - 米国の大手インターネット企業は、香港の反体制的な活動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)によりコンテンツ戦略の見直しを迫られており、香港当局に利用者情報の提供を一時的に停止しても、急場しのぎの対応で長続きしないとみられている。
そもそも香港はフェイスブックやグーグル、ツイッターなどにとって重要な市場ではなく、各社ともサービスの多くがブロックされている中国本土で裕福な広告主につながるための足場として香港を利用してきた。
しかし米ネット企業は今、岐路に立たされている。中国当局はコンテンツが国安法に違反すると見なせば、たとえそれが海外から投稿された場合でも検閲することが可能となる。
香港でハイテク業界を代表する議員のチャールズ・モク氏は、ロイターに対し「当該企業は香港に進出することの不利益を完全に見直さなければならない」と指摘。企業が当局の要請を拒否した場合、裁判で罰金を科せられたり、幹部らが投獄される恐れもあると警告した。
米交流サイト大手フェイスブック (O:FB)は2010年に香港で事業を開始。昨年には市内に大規模な新オフィスを開設したばかりだ。ロイターの今年1月の報道によると、同社は中国の企業や政府機関向けに年間50億ドル超の広告を販売しており、中国は米国に次ぐ大きな収益源となっている。
米ネット企業は、コンテンツを完全に削除することなく、特定の国でコンテンツを制限するために「ジオブロッキング」と呼ばれる手法をしばしば利用してきた。
しかし、国安法の下ではそうした対策が不十分となる可能性がある。当局は令状がなくても各社に協力や情報提供を要請できるからだ。とりわけ海外利用者に関する情報提供が当局から要求されれば、企業は対応に苦慮せざるを得ない。
香港の情報技術連盟の名誉会長であるフランシス・フォン氏は「香港で国安法を順守することが、逆に海外では違法行為に当たる恐れがある」と指摘した。
<コンテンツ問題>
米国のソーシャルメディアサービスは中国本土ではブロックされているものの、香港では自由に運用されている。他の米インターネットプラットフォームにも、中国本土では禁止されているコンテンツが豊富にあり、香港では違法と判断される可能性がある。
例えば、米動画配信サービス大手ネットフリックス (O:NFLX)では、香港の民主活動家で中国側が分離独立主義者と見なす黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏のドキュメンタリー番組「Joshua: Teenager vs. Superpower」や、中国共産党支配下の香港の悲惨な未来を描いたとして中国国営メディアから批判を受けた映画「Ten Years」などの視聴が可能だ。
ネットフリックスはコメントを控えた。
アルファベット (O:GOOGL)傘下グーグルの動画投稿サイト「ユーチューブ」は中国政府を批判する際のツールとしてよく利用されており、中国共産党最高指導部の腐敗を告発して米国に逃亡中の中国人実業家、郭文貴氏は動画で繰り返し香港の抗議活動への支持を表明している。
グーグルからのコメントは得られていない。
米ネット企業はいずれも、当局によるコンテンツのブロックもしくは削除要請にどのように対応するかを明らかにしておらず、今後政治的な問題に巻き込まれる恐れもある。
コンサルティング会社BDAチャイナのダンカン・クラーク会長は「海外のコンテンツプレイヤーは、香港で何を見せるかを再考しなければならない」と述べた。