[東京 30日 ロイター] - パナソニック (T:6752)が、米電気自動車(EV)メーカーのテスラ (O:TSLA)向けリチウムイオン電池の中核部材である「セル」のエネルギー密度を5年以内に約20%向上させる方針であることがわかった。同社の米国での車載電池事業幹部が明らかにした。セルが高容量化すれば1回の充電でより長距離の走行が可能となるため、EVの利便性が高まりそうだ。
米国でEV用の電池事業を統括する高本泰明氏によると、エネルギー密度の改善は段階的に行われる予定。今年に入ってエネルギー密度を5%以上向上させたセルを開発し、日本で生産を開始しているほか、テスラ (O:TSLA)と米ネバダ州で共同運営する電池工場では9月から順次ラインを切り替え、「2170」と呼ばれるセルの改良型を生産する。
パナソニックはセルの詳細な仕様を公表していないが、調査会社の資料などでは、2017年に導入された2170セルの体積エネルギー密度は700ワットアワー毎リットル(Wh/L)超で、EV用途では世界最高水準と推定されている。2170セルはテスラの「モデル3」などに採用されている。
もっとも高本氏は、EV市場が拡大し使い方も多様化すれば電池に対する要求も多様化してくるとみており、エネルギー密度の追求のみにこだわらない姿勢を示した。例えば、頻繁に充電するEVタクシーなどはタフな電池が求められ「全体バランスがより求められている」と述べた。
高コストな素材であるコバルトの使用量をゼロにした電池も、2─3年後を目標に商用化する方針という。コバルトは電池の正極に使われ、安定性などに寄与するがコストが高い。約7割がコンゴ民主共和国で採掘され、労働者の人権問題などもつきまとう。電池メーカー各社が削減に注力しており、パナソニックの最新型電池での使用割合は5%未満にまで減少した。
エネルギー密度の向上やコバルトの減少は、電池の安全性とトレードオフの関係にある。パナソニックは材料の配合や加工、設計などを工夫することで、エネルギー密度を向上させながら発火リスクを抑えた。中国を中心に、コバルトを含まず正極にリン酸鉄を用いる電池が普及しているが、高本氏によると、コバルトを使用する電池に比べると一般的にセルのエネルギー密度は半分以下という。
パナソニックは2014年にテスラと合同で電池工場を建設することで合意。テスラの車両生産遅延などから同事業は赤字が続いたが、2019年10─12月期に四半期ベースで初めて黒字転換した。
(山崎牧子 編集:平田紀之)