梅川崇 山崎牧子
[東京 8日 ロイター] - シンガポールの投資ファンドが東芝 (T:6502)に要求した株主提案を巡り、提案したファンド自身による投票が株主総会前日まで承認されていなかったことが、日本の政府関係者2人の話で明らかになった。
安全保障に関わる日本企業への外資規制を目的に、6月に全面適用された改正外為法に基づく政府の事前審査が長引いたため。しかし、同法の本来の趣旨に沿って審査が行われたのかどうか、専門家だけでなく政府内からもプロセスの透明性を疑問視する声が出ている。
シンガポールに拠点を置くエフィッシモ・キャピタル・マネジメントは5月、東芝の企業統治を強化するためとして共同創業者の今井陽一郎氏らを社外取締役候補として提案。日本の政府関係者によると、エフィッシモに承認の結果が最終的に伝えられたのは東芝の株主総会の前日に当たる7月30日だった。
関係者によると、その時点までに今井氏への賛成票が選任に必要な過半に満たないことが、事前投票などからほぼ判明していた。「エフィッシモの提案に対する票読みができない中、判断はできるだけ先延ばしにすべきとの声が(政府内の)一部で上がった」と、別の政府関係者は明かす。
安全保障上重要とされる日本企業の株式1%以上を保有する海外の投資家が、株主総会で取締役候補に提案された場合、その投資家自身による投票行為は改正外為法の事前審査の対象となる。
事前審査の期間は原則30日。今回の事案を承認するまでにどの程度の時間がかかったかは明らかになっていない。エフィッシモは5月中に株主提案をしたが、いつ事前申請を行ったかについてはコメントしてない。ただ、政府関係者によると「30日を超えている」という。安全保障の観点から審査が長引く場合は延長可能だが、今回のケースがその基準に該当するかどうか、専門家からは疑問視する声があがる。
「今井氏が取締役になることが安全保障上のリスクかどうかという点のみを考慮すべき」と、ギブンズ外国法事務弁護士事務所のスティーブン・ギブンズ代表は指摘する。「審査が政治的な要素を帯び、安全保障以外の観点が承認の時期や判断に影響するようにみえることは問題だ」と、同代表は批判する。
審査を行う立場の経済産業省はロイターの取材に対し、改正外為法の趣旨にのっとって審査していると回答。「国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げる、または公衆の安全の保護に支障をきたすことになるかどうか、という観点のみから審査を行っている」とした。承認したタイミングや審査期間などについてはコメントを控えた。
エフィッシモ、東芝ともロイターの問い合わせに対して回答を避けた。エフィッシモは、旧村上ファンドの出身者が2006年に設立。東芝株15.36%を保有する筆頭株主だったが、7月31日の株主総会直前に9.91%まで引き下げた。
総会でエフィッシモの提案は否決されたものの、今井氏は43.43%の支持を得た。
改正外為法を巡っては、海外の物言う株主(アクティビスト)を排除するためではないかとの懸念が外国の投資家から出ていた。日本政府はそうした見方を否定してきたが、今回の事案で疑念が強まった恐れがあると、政府関係者の1人は言う。
「前日の承認はギリギリセーフと言えるが、このやり方がベストかと言われればそうでもない」と、政府関係者は話す。
日本企業の統治指針策定に数多く携わってきたニコラス・ベネシュ氏は、改正外為法の運用に政府の裁量が入る余地があるとすれば、日本市場に対する海外投資家の期待を削ぎかねないと指摘する。
「日本は海外の他の市場と資本の呼び込みで競う立場。(投資の)ルールが裁量的、不明瞭であればあるほど、日本の市場は思っていたより現代的でもないし、洗練されてもいないと思われてしまう」と、ベネシュ氏は話す。
(編集:久保信博)