中川泉 金子かおり
[東京 6日 ロイター] - 米中対立や厳しさを増す安全保障環境のもと、政府は情報通信分野で機微情報の流出を念頭においた対策を強化し始めた。ドローンや監視カメラなど情報搭載機器の政府調達ルールを明確化、事実上の中国製品排除につながる対応に動き出したほか、国際的なデータ通信の大動脈であるアジア・太平洋の海底ケーブル敷設でも、アジア新興国に日本製の導入を促すよう、注力し始めている。
<インフラ点検や災害調査ドローン、民間企業も中国意識>
幕張メッセで9月に開催されたドローン展示会には最新製品がずらりと並んだ。会場では、ドローンからの情報ハッキングに対するセキュリティをテーマとしたコンファレンスも開かれ、撮影映像からの情報漏洩リスクに、多くの社が敏感に対応しようとしていることがわかる。
東京航空計器は、災害被害確認用に複数のカメラを搭載した耐風性の強い最新鋭ドローンを展示。「今回展示した機体、フライトコントローラおよび無線通信機器は航空機部品のノウハウを活かした純国産の自社オリジナルモデルであり、政府指針に従い、今後順次情報通信面での安全性を強化していく」(機体設計グループ長の隅田和哉氏)という。
東日本大震災の被災地である南相馬を実験場に、水上発着の機動性と過酷な自然環境への耐久性に富むドローンを作り上げたスぺースエンターテインメントラボラトリ―は、海難救助やインフラ監視への活用を視野に入れる。金田政太・代表取締役は、情報通信における信頼性を高めるために、一部で使用した中国製部品を今後の製品化段階ではできる限り国内製に切り替える方向で検討する考えを示す。
<省庁向け調達ルール厳格化、商用ドローン登録制も>
企業がサイバーセキュリティを意識した動きを見せる背景には、政府調達にかかる規制強化が強く影響している。特にドローンについては今年に入り、相次いで新たな規制強化が実施されている。
政府は2月、利用者の実態を把握するため、商用ドローンのID登録制を閣議決定した。テロやスパイ活動にも利用されやすいため、空港周辺や防衛関連施設などを飛行するドローンの警戒を強める狙いだ。
9月には内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)において、政府関係機関や独立行政法人向けにドローンの調達ルールを厳格化、来年度から適用する。防衛や公共の安全、重要インフラ点検、救命業務にかかわる査定結果や検査記録の情報漏洩を防ぐ。数年程度のドローン更新のタイミングで「信頼のおける機器に置き換えを要請する」としている。
こうしたルールは、民間企業の中国製品使用を直接排除するものではない。政府関係者も「民間のドローンは中国製がほとんどだが、機微情報に触れない限りは問題はない」とする。一方で「自衛隊や警察は今(中国製は)使っていない。将来的に重要インフラは、なるべく国産に切り替えていくことになるだろう」と話す。
実際、東京航空計器でも、国産をアピールして自治体や国土交通省と商談を展開中だという。
安全保障にかかわる複数の政府関係者は一様に「IT関連機器やソフトを通じて中国共産党に国の情報が抜き取られる可能性は否定できない」と話す。別の政府関係者も「先端技術やデータ等が中国に流出し軍事転用されるのではないか」と懸念を表明する。
<太平洋海底ケーブル、日本製を後押し>
内閣で国家安全保障を担う官邸幹部は「情報通信だけでなく、電力や海底ケーブルなど、新興国の重要インフラ建設における中国企業への過度な依存排除に力を入れている」と語る。
すでに中国は、欧米の海底ケーブル事業会社との連携で中国に陸揚げされるケーブル事業に実績がある。中国聯合通信 (SS:600050)、中国移動通信[CHNMC.UL]、中国電信(チャイナテレコム) (HK:0728)などが中心だ。
今年、NEC (T:6701)が受注したアジア地域を結ぶ大容量ケーブル「Asia Direct Cable(ADC)」のシステム供給契約先にも、ソフトバンク (T:9434)とともに中国企業が名を連ね、資本関与を強めている。
これに対し、総務省では、官民ファンドの海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)を通じて財政資金を投入、アジア諸国への日本の海底ケーブル輸出を支援する。国際通信は光海底ケーブルが担っており、次世代高速通信規格「5G」の整備に伴い需要が拡大する分野でもある。
<クリティカルな技術、同盟国で協議必要>
政府が情報通信の技術や情報、インフラに関わる規制を強化するのは、中国に対する米国など同盟国の動きも背景にある。自民党などから米国や英国などが情報を共有する「ファイブ・アイズ」への参画もにらむ連携強化を訴える声が上がるなか、機密情報を管理する重要性は高まっている。
過去には、ケーブルからの情報抜き取りが国際問題化した経緯もある。最近では米国の司法省や情報当局がグーグルなどが提案した海底ケーブル計画を巡り、中国に対する安全保障上の懸念を理由に、香港への接続を拒否するよう勧告。計画はいったん撤回された。総務省では、こうした米国の対中規制にすぐさま追随することはないにせよ、「米国の情報は参考にしている」としている。
一方、日中の経済関係は切っても切れない。笹川平和財団の渡部恒雄・上席研究員は、日本の対中戦略について「中国との経済関係を切るわけではない。米国もそれはできないし、経済的に大変なことになる」としたうえで、「クリティカルなテクノロジー、特に軍事的な中国の優位性をもたらすような情報・技術に絞って、同盟国の中で協議するということ」が必要だと指摘する。
(中川泉 金子かおり 編集:石田仁志)