[ワシントン 10日 ロイター] - 米連邦取引委員会(FTC)と全米のほぼ全ての州は9日、競合企業を次々と買収することで独占的な企業になったとして、米交流サイト大手フェイスブックを反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで提訴した。しかし専門家からは、FTCなどの訴えはフェイスブックの行動がどのように消費者に損害を与えたのかについて説明が不足しているとの指摘も出ている。
米司法省は10月に米アルファベット傘下のグーグルを独占禁止法違反で提訴しており、今年の米巨大IT(情報技術)企業に対する大型訴訟はフェイスブックが今年2件目。
ノートルダム大学ロースクールの教授で米司法省独占禁止部門の弁護士だったスティーブン・イェルダーマン氏は今回の提訴について、消費者が損害を被ったことを示す説得力のある事例を欠いていると指摘。「こうした損害について大きな話があったなら、間違いなくそれを強調していただろう」と述べた。
イェルダーマン氏などの独禁法専門家は、FTCや州当局は、訴訟を起こした時点ではこうした事例をほとんど欠いていても、審理が進む中で、経済や市場の専門家にフェイスブックが引き起こしたとする消費者の損害について証言させるとみている。
消費者と企業の関わり方や企業の消費者への影響の及ぼし方は大きく変化しており、新しい法理論は損害の内容についてより幅広いアプローチを取りつつある。
<後付けの主張>
今回の訴訟はフェイスブックが2012年に写真共有アプリ「インスタグラム」を、14年に通信アプリ「ワッツアップ」をそれぞれ買収したことが反競争的だと主張し、フェイスブックは両事業を売却すべきだとしている。
専門家の間では、過去にさかのぼって独禁法違反を主張するのは難しく、合併計画の承認以前に事業買収が消費者に損害を及ぼすと立証する方が容易だとの声が聞かれる。
ハワード大学ロースクールのアンドルー・ガビル教授によると、1998年に起こされた米マイクロソフトの独禁法違反容疑を巡る画期的な裁判では、米規制当局が消費者の損害の定義付けに苦労し、代わりにマイクロソフトの行動が将来の競争を阻害したとの理屈を持ち出した。これはマイクロソフトが最終的に企業分割を免れるのに有利に働いたという。
ガビル教授は「フェイスブックを巡る訴訟は証明が難しいだろう。そうした損害が同社の行動に強く基づいているという推論を判事に納得させる必要があるからだ」と述べた。
フェイスブックの方針に詳しい関係者も、ロイターの取材に、同社の行動が消費者に損害を及ぼしているかどうかが「今回の訴訟の核心になる」と述べた。「規制当局は、人々にはもっと多くの選択肢があったかもしれないと主張しているが、フェイスブックが存在しなければ世界がもっと競争的だったという証拠を何も持っていない」とした。
<「損害」の概念も変化>
この関係者によると、フェイスブックは今回の訴えを「歴史修正主義」と見ており、裁判の中では弁護の一環としてこうした主張を続けるという。
ロイターが入手した音声記録によると、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は10日の質疑応答で従業員に対し、同社は厳しい競争に直面していると述べた。
一部の独禁法専門家は、消費者の損害を証明しようとする考え方に否定的で、今の時代、独禁法に基づく訴訟はもっと幅広い損害の定義に焦点を当てるべきだと主張している。
こうした主張は米政界で支持が高まっている。下院専門委員会は今年公表したハイテク企業に関する報告で、「単に消費者を保護するためではなく、労働者や起業家、自営業者、公開市場、公平な経済、民主主義的な理想なども保護するように設計された」法的基準を確立する必要性を訴えた。
独禁問題に取り組むアメリカン・エコノミック・リバティー・プロジェクトのサラ・ミラー氏は、競争相手を締め出したり、独占を維持するために買収を行ったりするのは違法だと指摘。「今回の訴訟は、貧しいコンテンツ、誤報や偽情報の増加、不十分な個人情報保護など、競争の欠如で消費者が被っている損害を明らかにする」と述べた。
(Nandita Bose記者)