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アングル:ルネサス工場が早期再開、生きた10年前の教訓 新たな課題も

発行済 2021-02-18 17:45
更新済 2021-02-18 17:54
© Reuters. アングル:ルネサス工場が早期再開、生きた10年前の教訓 新たな課題も

平田紀之

[東京 18日 ロイター] - 東北地方を襲った13日夜の強い地震は、ルネサスエレクトロニクスの工場を操業停止に追い込んだ。自動車向け半導体の世界的な供給不足に拍車をかける恐れがあったが、工場はわずか2日余りの停止で再開。そこには10年前の東日本大震災の教訓があった。一方、非常電源が機能せず、半導体生産で重要なクリーンルーム(防塵室、CR)が停止するという新たな課題も残した。

茨城県にあるルネサスの那珂工場は2011年3月の東日本大震災で被災し、約3カ月間操業を停止した。完成車や部品メーカーの多くはこの工場から出荷される半導体を使っており、自動車のサプライチェーンを寸断した。

それから間もなく10年、福島沖を震源とする最大震度6強の強い揺れは那珂工場を再び止めた。工場周辺の震度は4と、10年前の震度6弱より小さかったものの、各地で火力発電所が停止し、広範囲で停電が発生、24時間稼働する半導体の生産ラインに電気が一時的に供給されなくなった。折しも世界的に半導体が不足する中、10年前の苦い記憶が関係者らの頭をよぎった。

ところがルネサスは15日、後工程向けにウエハの出荷を再開。翌日から前工程の生産を段階的に再開した。東日本大震災の際に比べ、装置や建物に大きな被害が及ばなかったことが大きかった。ルネサスによると、過去の地震災害を受けて、建物や設備の揺れを抑える免震台や制振ダンパーを導入していた。

同様の取り組みを進めていた川尻工場(熊本市)では、熊本地震の後に1週間程度で段階的に生産を再開。揺れの大きさが異なるため単純比較は難しいが、今回も「被害抑制に効いているのではないか」と、ルネサスはみている。

震災の経験を踏まえた対策としては、治具の備蓄も増やした。ウエハへの回路焼き付けの工程で用いる石英管が地震の際に破損し、生産のボトルネックになったことを踏まえた。

<CR停止のインパクト>

一方、新たな課題も残った。バックアップ電源を複数用意していたが、工場のCRの機能が維持出来なかった。

微細な加工を施す半導体生産は、塵や埃の混入を避けるためにCRの機能が欠かせない。回路の焼付け時などに空気中のほこりや細菌などが紛れ込むとショート(短絡)や欠損などの不良品につながりかねないためだ。

製造装置の周辺は、温度や湿度、気圧、気流などを管理し、CR内の環境を維持している。作業員が入室する際には防塵服やマスクを着用し、エアシャワーを浴びる。微粒子を生じかねない鉛筆や紙などの持ち込みが制限される場合もある。

「家電のようにスイッチひとつですぐ再開できるわけではない」と、半導体メーカー関係者は口をそろえる。長期休暇などで計画的に停止する場合でも、設備の停止と再稼働には、それぞれ2日間程度かかるのが通例だという。ルーム内の清浄度や装置のコンディションの確保に時間がかかるためだ。

さらに、今回のように停電で突然生産が停止した場合は、ラインを流れていた仕掛品がどのぐらい再使用可能かを点検する必要もある。「露光や焼き付けの作業中だった半製品は再使用できないことが多い」(半導体メーカー関係者)。装置に故障が確認されなかったとしても、揺れで装置にずれが生じていないか点検や調整も必要になる。これらの作業を、装置一台一台に施さなければならない。

ルネサスの那珂工場では13日の地震発生後、CRへの電力供給が3時間程度停止した。停電の解消後も、CR内の安全や製品の確認のため工場の操業は停止し続け、16日から段階的な再稼働を始めた。21日ごろまでかけ、地震前の生産能力の回復を目指している。

ルネサスは、バックアップ電源が機能しなかった原因などは確認中としている。

<生産遅延の挽回には「3カ月」か>

世界的な半導体不足で、自動車大手は生産調整を余儀なくされている。その中で生じた那珂工場の操業停止は、長期化という最悪のシナリオはひとまず避けられた。もっとも、数日ながら遅延した生産分を取り戻すのには時間がかかりそうだ。

英調査会社オムディアの南川明シニアディレクターは、再稼働は想定よりも早かったと受け止めているが、生産中だった仕掛品は「半月分程度は再使用できない可能性がある」と分析している。

ルネサスは、急激な半導体需要の高まりを受けて生産量を増やすため工場の稼働を高めていた。ルネサスの柴田英利社長兼CEOは地震発生前となる10日の決算説明会で「需要になかなか供給が追いついていない」とし、受注残高が拡大していると話していた。

増産余地に乏しいことから、挽回のペースは緩やかになりそうだ。オムディアの南川氏は、生産の遅延分を取り戻すまで「3カ月程度はかかるのではないか」と話している。

◎ルネサス工場の地震災害からの復旧経過

被災工場 停止期間  被災前能力の回復  震度    発生年

(工場周辺)

東日本大震災    那珂   3カ月     半年     6弱   2011年

熊本地震      川尻   1カ月    3カ月     6弱   2016年

福島沖震源の地震  那珂    2日   1週間(見込み)  4   2021年

© Reuters. アングル:ルネサス工場が早期再開、生きた10年前の教訓 新たな課題も

出所:会社、気象庁、各自治体の資料からロイター作成

(平田紀之 編集:久保信博)

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