[26日 ロイター] - バイデン米大統領は24日、マイクロチップを手に会見に臨み、国内の半導体製造業者に370億ドルの支援を行う方針を明らかにした。米国の自動車メーカーが半導体不足で生産休止に追い込まれたことが契機となり、半導体産業に対する米政府の支援は業界関係者も予想しなかったスピードでまとまった。
半導体業界の経営幹部や米政府当局者は以前から、高価格半導体の製造工場が徐々に台湾や韓国へ移転している事態を懸念していた。クアルコムやエヌビディアなど米半導体大手は、それぞれの分野では市場で支配権を握るが、自分たちが設計した半導体の組み立ては海外の工場に依存している。
米国は昨年、中国との関係が悪化。高性能半導体の生産を海外の製造業者に頼るのは安全保障上のリスクとの懸念から、議会が軍事支出の一環として半導体産業向けの補助を認めた。しかしこれまで補助の財源は確保されていなかった。
その後、半導体の供給不足が発生。フォード・モーターは半導体不足により第1・四半期の生産が2割落ち込む恐れがあると発表し、ゼネラル・モーターズ(GM)は北米全土で生産を削減した。
半導体製造装置大手、米アプライド・マテリアルズの戦略・テクニカルマーケティング・グループの責任者、マイク・ロサ氏は「われわれが慣れ親しんでいる最終製品の多くにとって半導体は非常に重要な部品だというメッセージが、極めて明確に伝わっている」と述べた。
<操業休止報道に議会が危機感>
半導体製造工場への補助金を求める半導体企業に自動車メーカーが合流して数週間のうちに、上院民主党のチャック・シューマー院内総務とバイデン氏がそろって資金確保を約束した。
現時点では業界への支援を中国に対抗するための包括法案の一部に盛り込むことを目指しており、シューマー氏は今春には法案を上院本会議に提出する考えだ。ただ、自動車用半導体の供給不足がすぐに解消することはないとの見方で全員が一致している。
戦略国際問題研究所のジム・ルイス上級研究員によると、自動車工場の操業休止報道は、これまで具体性を欠く警鐘を無視してきた大衆の心に響き、インフラ法案の年内成立を危ぶんでいた議会は早急に解決に向けて動くことを決めた。
ルイス氏は「誰も中国に対して弱腰だとは見られたくない。自分の選挙区でフォードの従業員に『すみません、お役に立てません』とは言いたくない。足並みが全てそろったタイミングだった」と話した。
包括的な対策には国や地方の半導体製造業向け補助制度に官民で資金を拠出する「マッチングファンド」が含まれており、テキサスやアリゾナなどの州の間で半導体製造工場の誘致合戦が激化するだろう。半導体製造工場の建設には200億ドル(約2兆1314億円)もの費用がかかる可能性がある。
半導体受託生産大手の台湾積体電路(TSMC)が提案しているアリゾナ州での工場建設計画や、サムスン電子が検討しているテキサス州での工場建設計画が、米国の補助制度の恩恵を受けることになりそうだ。ただ、これらの工場は自動車向けではなく、スマートフォンやラップトップ型パソコンなどに使われる高性能半導体がターゲットになる。また両社の発表した計画によると、いずれの工場も稼働は2023年か24年だ。
<長期的には他の米企業にも恩恵>
一方、長い目で見ると、支援は幅広い米企業にも恩恵が及びそうだ。工場を建設する半導体メーカーはいずれもアプライド・マテリアルズやラム・リサーチ、KLAといった米国の半導体装置製造企業から機器を調達する。
インテル、マイクロン・テクノロジー、グローバル・ファウンドリーズなど、既に米国に工場網を持っている企業も恩恵を受けそうだ。
さらに規模の小さい、特殊な半導体を手掛ける企業にも追い風が吹くだろう。
自動車・防衛産業向け半導体を製造するスカイウォーター・テクノロジーのトーマス・ソンダーマン最高経営責任者(CEO)は「自動車業界における最近の半導体不足で、米国内の半導体サプライチェーン強化の必要性が浮き彫りになった」と指摘。「スカイウォーターは他社と異なるビジネスモデルを確立し、所有権や操業地の面で純粋な米国企業であるため、特別な立場にあると考えている」と話した。
補助金が給付されても、米国の半導体企業は長期的には今後も低コストのアジア企業と競争しなければならず、自動車用半導体の供給不足問題は当面、残りそうだ。
自動車用半導体を手掛けるポーラー・セミコンダクターのスリヤ・アヤール副社長によると、同社の工場は生産能力を超える注文を受けており、自動車メーカーからの需要にできる限り応えるため、他の注文については生産のペースを落とし、需要への対応を加速し始めたという。
アヤール氏は「需要はこの水準が少なくとも1年間は続くと見込んでいるが、もっと長引くかもしれない」と話した。
(Stephen Nellis記者)