[東京 18日 ロイター] - 安倍政権は12月上旬、景気下支え策や成長推進策として、大規模な財政出動を伴う経済対策を打ち出した。いずれも日銀の超低金利政策を活用した、金融・財政のポリシーミックスの相乗効果を期待したものだ。世界的な金融緩和傾向のもとでの財政出動による景気浮揚を支持する学識経験者の声は増えつつあるといわれているが、一方でその効果が日本にも当てはまるのか、将来への禍根をどう受け止めるのか、有識者の見方を紹介する。
東京大学大学院の福田慎一教授は、人口減少などの構造問題を抱えている日本において、ポリシーミックスで経済成長に向けた対策をいくら打っても、その有効性には疑問があると指摘。課題は少子化を食い止めることにあり、それに応える政策が打ち出されていないと言う。さらに、ポリシーミックスで本格的に景気浮揚が図れたとしても、その時には金利も同時に上昇しているはずで、財政悪化は急速に進むと指摘する。
今回の大型経済対策は災害対策など国土強靭化に向けた多額の財政出動を盛り込んだものだが、財源が限られる中で大規模自然災害に大型歳出で備えることはどの程度意味があるのか、あるいは成長につながるのか、といった視点も必要との立場を示す。
<ゼロ金利と大型財政出動、初の壮大な社会実験>
福田教授は「世界経済の状況からみて経済は悪化傾向にあるとはいえ、米中通商交渉の合意見通しから金融市場は強気で動いており、危機的というほどの状況ではない。その中で、ポリシーミックスなどの形でどこまで政策対応が必要な状況かの見極めは難しい」とみている。
そもそもポリシーミックスの考え方が登場したのは大恐慌時代。財政拡大で何とか不況を乗り越えようとしたのが発端だ。戦後もポリシーミックスはそれなりに機能してきたといえるが、当時は現在とは異なり、ある程度の高成長とプラス金利が見込める状況だった。
このため同教授は「金利ゼロ・低成長という時代に同じようにポリシーミックスを行うことで、どの程度の効果が生まれるのか。歴史的に初めてのことだ」として、効果不明ながらも壮大な社会的実験を行っているに等しいと指摘する。
<日本での政策有効性に疑問>
最近は世界の経済学学会の中でも、金利がゼロにはりつき流動性のわなが発生しているもとでは財政政策は有効との見方が増えていると、同教授は指摘する。経済成長を高めるために財政を拡大しても、中央銀行が国債を買い支えることで金利上昇は回避される。つまり、「金利<成長率」という状態を維持できるため、財政の悪化が回避されるのは確かだ。
しかしポリシーミックスによる成長加速という目的は必ずしも達成できるとは限らないとして、福田教授は効果に2つの疑問を呈する。
「一つには、財政の持続可能性の問題がある。ポリシーミックスは成功すると経済が上向き、通常は金利も上昇する。そうなると成長率よりも金利が高くなり、財政赤字の拡大要因となる。財政再建は難しい状況に陥る」と指摘。
もう一つは、「そもそもポリシーミックスを実施しても経済自体が構造問題を抱えていれば、本格回復はできない。日本がまさにそうで、デフレ構造の本質は、人口減少や老後不安で将来が見通せず、物価や賃金が上がりにくいということだ」という。
<国土強靭化より少子化対策を>
安倍政権は今月、事業規模26兆円の総合経済対策を閣議決定した。そこには、日銀による強力な金融緩和継続のもとで思い切った財政政策を講ずることが可能との考え方が盛り込まれている。
福田教授は、こうした今回の大型対策について、「ポリシーミックスは、財政の使途が成長に資する内容かどうかが重要だ」と指摘。「日本では少子高齢化対策が本丸のはず。しかし、これまでそれに応える政策はやっていないし、結果として出生率の低下には歯止めがかかっていない」と厳しい見方を示す。
またこのところ、大規模な自然災害が相次いでいるため国土強靭化に巨額の財政をつぎ込む姿が目立つが、「老朽化インフラの補修は必要とはいえ、災害対策は成長に寄与するとはいい難い。自然災害にお金で対抗するには無理があり、成長には結びつかない」と主張。「大規模な事業のほうが予算が立てやすいというだけの話で、決して経済にとっていいことではない」としている。
(編集:佐々木美和)