[ワシントン 26日 ロイター] - トランプ米大統領は今年11月にメキシコの麻薬カルテルをテロ組織に指定する方針を表明したが、その発表に至る前の数週間に、米政府閣僚や主要な大統領補佐官の多くが指定に反対意見を述べていたことが、事情に詳しい関係者5人の話で明らかになった。
政権高官を含む2人の関係筋によると、反対論の大きな根拠は、テロ組織指定を強行すると、米国境での不法移民対策や麻薬密輸取り締まりにメキシコが協力を控えるなど、両国関係が悪化しかねないとの懸念だった。同時に、テロ組織に指定すれば、メキシコからの移民がテロから逃れたという理由で米国に難民申請し、認可を得やすくなるという指摘もあった、と同高官らは述べた。
ホワイトハウスでの影響力が大きい移民問題強硬派のスティーブン・ミラー大統領補佐官も早い段階からテロ組織指定に懸念を示した高官の一人だったという。
その後、11月8日の会合で次官級の高官はテロ組織指定を棚上げするよう進言することを全会一致で決定。11月20日の閣僚級の会合でも同様の決定が全会一致で下されたという。2つの会合にはミラー氏のほか、国務、司法、国土安全、国防、財務、商務の各省などの代表が出席した。
ホワイトハウスとミラー氏はコメントを控えた。
<トランプ氏はメキシコの反発受け再考>
トランプ大統領は同月26日に保守派のコメンテーター、ビル・オライリー氏とのインタビューで、メキシコの麻薬カルテルをテロ組織に指定する考えを表明。しかし、それから2週間も経たない12月9日にトランプ氏はツイッターへの投稿で、メキシコのロペスオブラドール大統領の要請で、テロ組織指定を一時的に見送ると明らかにした。
大統領が事前に閣僚らの進言を受けていたかは取材で判明しなかった。[nL4N2870X6]
米政権高官は、これは方針の撤回というより戦略的な動きだと指摘。「(メキシコの)さらなる協力を得るために、テロ組織指定をちらつかせるだけでも十分に効果はある」と述べた。
そのうえで、麻薬密輸および移民対策におけるメキシコの協力姿勢によっては、テロ組織指定が再び検討される可能性は十分にあると述べた。
メキシコ政府は、麻薬カルテルを過激派組織「イスラム国」や国際武装組織「アルカイダ」と同等に扱う場合、米国が軍事介入する口実になるとの懸念を示してきた。
ロペスオブラドール氏の報道官は24日、ロイターに対し、大統領が12月5日のバー米司法長官との会談で、テロ組織指定は米国による内政干渉に当たるとして容認しないと伝えたと明らかにした。エブラルド外相はトランプ氏の見送り表明を受け、「良い結果をもたらす」とツイートして歓迎の意を表した。
2018年まで10年間、米国務省のテロ対策部門でテロ組織指定の責任者を務めたジェイソン・ブラザキス氏(現米ミドルベリー国際大学院教授)は、麻薬カルテルのテロ組織指定は2国間関係を損ねるだけでなく、メキシコで事業を展開する外資系企業の撤退や投資見直しなどを促し、同国経済に打撃を与える可能性があると指摘。「犯罪とテロの境界線を曖昧にするのは非常に問題がある」とした。