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アングル:世紀の巨大爆発を世界に配信、レバノン流血の取材記録

発行済 2020-08-10 08:00
更新済 2020-08-10 08:09
© Reuters. アングル:世紀の巨大爆発を世界に配信、レバノン流血の取材記録

Alessandra Galloni

[8日 ロイター] - すさまじい爆風で床にたたきつけられ、倒れてきた衣装だんすを辛うじてかわし、飛び散ったガラスのかけらで額を切ったとき、とっさに考えることは何だろうか。

8月4日、巨大な爆発が起きたレバノンの首都ベイルートで、ロイターの記者たちは血をぬぐい、そのまま現場の映像を撮り始めた。

シニアTVプロデューサーのアヤット・バスマは、被害の映像をいち早く世界に配信した記者の一人だ。港に保管されていた硝酸アンモニウム2750トンによるこの爆発で、少なくとも150人が死亡し、首都の大部分が破壊された。

その日、バスマは休みを取っていた。

「床に倒れこむと、ひたすら車の盗難防止アラームが鳴る音だけが響いていた。死にたくない、と思った」と、バスマは語る。「とたんに、アドレナリンがドッと出た」

大きく切れた額からの流血で髪は濡れていたが、バスマはそのまま着替えて家の外に飛び出し、唯一手元にあったカメラで撮影を始めた――自分のスマートフォンだ。

周辺では茫然(ぼうぜん)自失の状態の住民らが流血し、ガラスやがれきの山をよじ登っていた。負傷した家族を抱え、近くの車を呼び止め、病院まで連れて行ってくれるよう懇願する住民もいた。

隣の建物は屋根が吹っ飛んでいた。爆発時に上空を見た人たちは、遠くで火の玉が上がり、空がオレンジ色になり、白いキノコ雲が現れたと語った。

「何もかも倒壊していた。隣人たちは叫び、子どもたちは泣いていた」と、バスマは振り返る。「割れたガラスの上を車が走っていく音だけが聞こえた」

「でも、ずっと自分にこう言い聞かせた。『撮って、送る。撮って、送る』」

ジャーナリストは通常、レンズを通して、もしくはノートにメモを取りながら状況を記録・観察する。しかし事故後数日の間、地域の総局でもあるベイルート支局のスタッフは、進行するニュースの一部でありながら、それを報じるという事態に陥った。自宅では家族が負傷したり、ショック状態にある中、記者らは街中での取材を何時間も続けた。

TVプロデューサーのヤラ・アビ・ネーダーは、爆発の瞬間は車を運転していた。夕暮れの涼しい風を入れるために窓を開けていたことが幸いし、割れたガラスを大量に浴びずに済んだという。それでも飛んできた破片で額が切れたが、そのまま携帯で動画を撮影し、同僚らに送った。

「映像を送ることだけに集中した」、「ある意味、一種の拒絶だった。自分の顔がどうなっているのか、確認したくなかった」と、ネーダーは言う。

フォトグラファーのモハメド・アザキーは、当初は地面が揺れるのを感じて地震だと思ったという。港にたどり着くと、いたるところに遺体があった。

下半身が車の下敷きになっている男性がいた。上半身は血と土にまみれており、アザキーが「亡くなっている」と思いながら近づいた瞬間、男性は目を開いて両腕をばたばたさせた。

アザキーはすぐに救助隊を呼び、男性は車の下から救出された。

<オフィスは壊滅>

かつては洗練され美しかったベイルート中心部は、事故が起きる前から、何カ月にも及ぶ抗議デモや経済危機ですでに荒廃していた。爆発は、長らくバリケードされ、寂れていた店の窓を粉々にし、街にとどめの一撃を放った。

中心地にあるロイターの複数のオフィスも破壊された。エレン・フランシス記者は、天井が崩れ落ち、ガラスの破片がパソコンに突き刺さる中、デスクの下に隠れて身を守った。

フランシスは携帯を取り出し、社内用語で「スナップ」と呼ばれる速報を送るよう同僚らに連絡しようとした。

「『大規模爆発』と『スナップをお願い』とメッセージを送ろうとしたが、なかなかうまく打てなかった。手がひどく震えていたから」と、フランシスは語る。

「大丈夫か」と叫んだ支局長のトム・ペリーもまた、同僚らに爆発を伝え、妻と息子に連絡を取ろうとしていた。「今すぐここを出ないとダメだ」

外に出た2人は、顔から流血している女性が両腕を広げて近寄ってくるのに気づいた。オフィスに戻ろうとしていたアビ・ネーダーだ。

「オフィスは無くなった」とフランシスは告げた。3人はペリー支局長の自宅に向かい、傷んだ壁とがれきの残る部屋で夜通し職務に当たった。

中東担当のエディター、サミア・ナコールは、これまでにレバノン内戦、イラク侵攻、アラブの春を取材した。イラク侵攻の現場では重傷を負った。

今回の爆発の瞬間、ナコールは10代の子ども2人とともに車に乗っていた。

何年もの戦争取材を経験したナコールは、とっさに子どもたちに伏せるように言い、その後は車から降りて身を守れる場所を探した。

「子どもたちの目に浮かぶ恐怖とトラウマ、そして子どもたちに何かあったらと考えたときに自分の全身をかけめぐった不安を、死ぬまで忘れられないだろう」と、ナコールは言う。「今回の悲劇は、私がこれまでずっと忘れようとしていた記憶を呼び覚ましてしまった」

3人は走って自宅に戻った。そして、ナコールはノートパソコンの電源を入れた。

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