[ワシントン 13日 ロイター] - ロシアがウクライナに侵攻して約10カ月。バイデン米政権は、この戦争を巡る米欧の同盟関係が厳しい欧州の冬を乗り越えられるよう、外交努力を強化している。
米政権はこの数週間、欧州各国をなだめるために看板政策の「インフレ抑制法」の微修正を表明し、先進7カ国(G7)とはロシア産原油の価格上限措置で合意にこぎ着けた。
バイデン大統領は、ロシアのプーチン大統領との対話に強硬に反対していた姿勢を一時和らげる場面もあった。交渉による和平を望む同盟国への目配せだ。
今週開催の米・アフリカ首脳会議にも、ウクライナ戦争は影を落としている。会議に参加するアフリカ49カ国の首脳らの多くは、食料危機という戦争の対価を払わされることに不満を表明してきた。
北大西洋条約機構(NATO)諸国から日本やオーストラリアなどの米同盟国まで、ロシアのウクライナ侵攻に反対する国々の結束はこれまで揺らいでいない。戦争を一因としたエネルギー価格の上昇により、各国がばらばらになるとの予想が裏切られた格好だ。
とはいえ、この結束を維持するためには外交と譲歩が必要になると、外交筋や米高官らは語っている。欧州がこれから冬を迎え、ウクライナに対する市民の支援の気持ちが試される時期だけに、外交努力の必要性は一層増すだろうという。
ある欧州の上級外交筋は「この冬、ウクライナ国民は苦しみ、ロシアは状況を一段と厳しくし続けるかもしれない」とし、「欧州市民にとって、結束を維持して武器と資金、支援をウクライナに届け続けることがますます難しくなる可能性がある」と述べた。
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、同盟国が結束を続けると予想しながらも、重圧は増しそうだと認めている。カービー氏は「冬の到来、そしてプーチン氏によるエネルギーの兵器化を踏まえれば、ウクライナだけでなく欧州全体に多大なストレスがかかるだろう」と話した。
<法律の微修正>
米欧の高官らは先週ワシントンで貿易交渉を行い、議題はインフレ抑制法に集中した。同法を成立させたことはバイデン氏にとって今年最大級の成果だったが、米産業に不当な補助金を出し、欧州を犠牲にしているとして欧州同盟国の怒りを買った。
1年にわたる議会での論争を経て成立した同法の修正は、バイデン氏の民主党にとって食指の動かないことだ。しかし同氏は、貿易交渉に先立つフランスのマクロン大統領との会談で、法律は米国に協力する同盟国を排除することを意図しておらず、「微調整」が可能だと述べた。
米政府は具体的な修正点をほとんど示していないが、バイデン氏の発言からは、「自由貿易のパートナー」という文言の解釈を緩めることで、法が定めた一部の制限対象からEUを除外する可能性がうかがえる。
意見の相違はまだ解消されていないとは言え、こうした核心部分について米国が譲歩姿勢を示したことは、ウクライナへの支援を続けるために対立を抑える必要性を米欧が認識していることの表れだ。
ジャーマン・マーシャル財団(ブリュッセル)のバイスプレジデント、イアン・レスラー氏は「難しい綱渡りだ。一方では、ウクライナを巡る連帯の必要性が強く認識されているが、他方ではバイデン政権が国内で達成しようとしている重要な政策目的がある」と説明。「米国の経済的利益に配慮する必要があり、そのことは欧州でも認識されていると思う」と続けた。
成功事例はある。G7とEU、オーストラリアは最近、ロシア産原油の取引上限価格を1バレル=60ドルとすることで合意。より低い上限価格を望むポーランドなどの国々や、エネルギーコストの上昇を懸念する国々との間で数カ月にわたって議論が繰り広げられた後に、歩み寄りにより対立点を克服することができた。
<対話の用意>
米国はロシアとの交渉姿勢についても修正を示唆した。プーチン氏との直接対話を望むマクロン氏との会談後、バイデン氏は記者会見で、プーチン大統領に戦争を終わらせる意思があるなら「話す用意がある」と述べ、プーチン氏にはその意思がまだないと付け加えた。
ホワイトハウスはその後すぐに、対話の機は熟しておらず「ウクライナ抜きでウクライナの」話をすることはないと説明した。
とはいえバイデン氏の発言は、ロシアとの対話という面でフランスに一歩歩み寄りながらも、ロシアとの戦争に勝つのが先決と主張するウクライナおよび東欧同盟国を疎外したくない米政府の意思をうかがわせるものだった。
フランス外交筋は「われわれは今、米国と非常に足並みをそろえている」と述べ、「ロシアとの対話チャンネルを維持するというわが国の立場に、米国がゆっくりと近づいた」と付言した。
バイデン氏の発言は、膠着する米ロ対立に挟まれ、交渉による解決を望む国々にも響いた。
ハンガリーとウクライナの対立など、課題は残っている。また、冬が来てエネルギー価格が上昇すれば、戦争の早期終結を望む人々の声は大きくなるだろう。
それでも外交関係者らは自信を示している。
アイルランドの国連大使、ファーガン・マイセン氏は「エネルギー価格に影響が及ぶのは確かで、その問題を軽視しているわけではない」とした上で、「欧州諸国と米国の、目的を持った結束が弱まることはないと断言できる。これはウクライナにとって生死の問題なのだ」と語った。
(Humeyra Pamuk記者、Michelle Nichols記者)