シェールオイルの出現によって世界中に安価な原油が提供されることとなった。しかし2年前の原油価格の暴落時に、数多くの米シェール生産者が倒産したことを覚えている人は数少ない。
ヘッジファンドは当然、景気が悪い時にシェールオイル株のカラ売りを仕掛け、収益を上げることができる。そのため、多くのエネルギーファンドが市場の低迷期にも絶えず収益をあげ続け、エネルギーファンド業界は存続し続けるように思われるかもしれないが、必ずしもそんなことはない。今年度ファンドらはどのように収益をあげてきたのだろうか?
「状況はあまりよくない」という表現が、シェールオイルに頼っている多くのファンド業界にぴったりの表現だろう。「ひどい」というのは特に運用実績を表すのに適切であろう。これらの表現にあてはまる2つのファンドとして、運用成績が今年10月に7%下落した英国に本拠を置くのウェストベック・エネルギー・オポチュニティ・ファンドと、今年度65%下落したニューヨークのイクイノックス・エネルギー・ファンドが挙げられる。このデータは同ファンドが投資家に非公開で共有したデータをinvesting.comが入手したものである。
再び過剰供給にさらされ、原油価格がどんなに安価であってもシェールオイル生産会社が存続できるという考えを持つOPECにとって、上記ファンドの運用データは木曜日のOPEC総会において重要な議題となる。
シェールオイル生産への懸念は誇張されすぎか
元ゴールドマンサックスのファンドマネージャーと、リーマンブラザーズの原油トレーダーであるジェーンルイス・リー・ミー氏が率いるウェストベックファンドは、10月に投資家に向けて30ページ近くにもなる文書の中で「シェールオイルの急激な生産増加による懸念は誇張され過ぎである」述べていた。
このファンドの指摘の背景には、主要なシェールオイル採掘業者が今年の過剰供給により原油価格が急落しているため減産せざるを得ないかもしれないと言ったことがある。また、シェールオイルの主要地域バッケン油田において、15年前に水平ボーリングや水圧破砕の開発を援助したコンチネンタル・リソーシーズ社の最高責任者であるハロルド・ハン氏は、ザ・ウォール・ストリート・ジャーナルの最近のインタビューで、企業は原油が1バレル40ドル以下であっても経営できるであろう、だが「私たちは、限界費用で売るためにいるのではない」と語っていた。
ウェストベックのポートフォリオには、パレックス・リソーシーズ、プレミア・オイル、テュロー・オイル、グラン・ティエラ・エナジー、エイカ―BP、エンクエストなどの国際的石油探査会社が含まれている。
各原油間の価格差に苦しめられる
ウェストベックは10月に原油価格が10%下がったことを受けて、リスクを上げ失敗した運用上の間違いを認めた。また、ウェストベックは「苦しい各原油の価格差」による影響がシェールオイル市場においても現在広がっていると述べた。
その差とは、バッケン油田のシェールオイルの価格がWTI原油より約15ドル安く取引されていることだとウェストベックは述べた。テキサス・ミッドランド油田のシェールオイルは1バレルにつき7ドルWTI原油より安い。しかし、一番低かったのはカナダの原油で、WTI原油よりも35ドルも安く取引されていた。
WTI原油が下落する中で、さらに安いカナダの原油価格をくい止めるために、カナダのアルバータ州は日量32万5000バレル(生産高の9%近く)の減産を1月から始める計画をしていると今週発表した。
石油掘削への設備投資が削減される可能性
ウェストベックによると、
「2019年度の予算が計画されている今、現在の原油価格の下落によって、ようやく回復基調を取り戻しつつある設備投資が再び縮小する恐れがある。第3四半期の決算報告からわかるように、企業の資本支出は大幅に削減されているからである。こういった保守的な米国企業の現状下においては、支出を削減するような計画が立てられるだろう」と述べる。
同氏は続けて、主要シェール生産地域に偏った生産データも同様に、米国市場への懸念感を与えてしまう要素となりうることも言及している。
「特に、3つの主要なシェール油田(ベッケン、パーミアン、イーグルフォード)における、8月の産出量は日量15万バレルしか増加しなかった」
総生産量が大きいことに間違いないが、米エネルギー情報局(EIA)の予想を9万バレルしか上回らなかったと言われている。
加えてウェストベックは、
「重要なこととして、EIAのSTEO(短期的エネルギー動向)モデルが「仮定を置いていない」ことや、多くの市場参加者が「インフラ/パイプラインの限界」に気づいていないことが挙げられる」
カナダのサスカチュワンにおける天候不良による停電によって、カナダから米国へと輸送される2つの主要パイプラインは、今週一時的に影響を受けることとなった。
市場はシェールオイルについて楽観的である。しかし...
ウェストベックは、シェールオイルへの投資不足によって石油市場は2019年には苦しくなり始め、2020年から2022年には大規模な供給不足になるだろうと予想している。さらに、
「市場はシェールオイルに頼り過ぎであり、シェールオイルが前代未聞の長期的な投資不足を補えると確信し過ぎている。M&Aのデータを見ても、シェールオイルが毎年のように高い成長率を保てるかどうか心配するべきだと示し始めている。市場はおそらく過剰に楽観的であり、その楽観的な考えは次の2~3年で結果が現れるだろうと考えている」
と述べている。
イクイノックス・エネルギー社は、ポートフォリオに組まれているエネルギー会社は過小評価されているためだとし、損失についての投資家宛文書を発行しなかった。
だが、運用成績は10月が35%の損失を出していて、2015年の設立当初以来最低の月であった。年初から10月にかけての65%の損失は、ここ3年間で最大の年間損失になる。
10月の損失を受けて、企業全体の運用資産残高は4億9500万ドルであった一方、イクイノックス・エネルギー基金のみにおける運用資産は900万ドルであったとしている。これらの数字が現在どうなっているかは明確になってはいない。