老舗企業が変化を受け入れなくてはならない時が来ている。
世界最大手の原油企業であるロイヤル・ダッチ・シェル(NYSE:RDSa), (LON:RDSa)は、原油に次ぐ新たな分野で覇権を握るために事業の多角化を行っている。同社は何年もの間で電力取引や供給事業に取り組み、主に企業に対してサービスを提供してきたが、現在は個人にも電力を販売しようとしている。
同社が長期的にビジネスを存続させていくためには、飛躍的な進歩が必要であると経営陣は認めている。先週、Shell Energy社のColin Crooks最高経営責任者(CEO)は「エネルギーシステムは何年にもわたって発電し、電気は再生可能である必要がある」とスカイニュースに対して述べた。同社は First Utility社という家庭用電力供給ベンチャーを買収して、リブランディングを行った。
リブランディングにおいて同社は、英国電力市場で最安値となる基本料金プランや100%再生可能エネルギーであることを強調している。
推測ゲーム
最大の課題はビジネスのどの部分が将来最も価値を持つのかを推測することである。生産か、送電か、家庭への電力供給なのか?
原油生産が不安定でエネルギー卸供給価格のボラティリティが高いことにより、推測は困難なものになっている。また、上限料金規制や、電力網料金、環境税、補助金などにより、さらに推測は難しくなっており、もはや宝くじのようだ。ドイツのRWE(DE:RWEG)の自己資本利益率(ROE)が-18%であるのに対し、英国のスコティッシュ・アンド・サザン・エナジー(LON:SSE)は12.7%のROEとなっている。
シェルの株価は方向性に欠いた値動きをしている。2018年5月に同株は73.86ドルで最高値を記録し、12月までに25%急落したが、現在はいくらか勢いは改善している。米国ではADRで取引されており、2018年末から13%上昇している。29日の終値は62.59ドルであった。
上流から下流まで事業を展開してきた同社の経験をもとに、多角化することでリスクを分散させている。First Utilityに加え、ドイツの住宅用蓄電池メーカーであるsonnen社やEV充電ステーション企業のGreenlots社やNewMotion社を買収している。
オランダ年金基金と共同で蘭最大手の電力業者であるEneco社へ出資しており、蘭海岸で2つの巨大風力発電所を試運転している。
多角化への投資額はシェルグループの設備投資予算額の8%を占めており、昨年の配当額の12%以上にも相当する。四半期配当を現金で全額支払われることに慣れた株主は、原油やガス事業、高い配当などを望むだろう。
戦略的な利点
しかし、シェルには3つの利点がある。
1つは、健全なバランスシートと、エネルギーコモデティー市場への深い知見である。したがって、First Utilityの競合と違い、予想外の卸供給エネルギー価格の高騰によって倒産することはないだろう。
2つ目は、テクノロジーの発達によって、再生可能エネルギーへの設備投資は安くなっていくと考えられることだ。このことはエネルギー政策の不安定性から免れられる訳ではないが、補助金へ頼る必要性を減らし、同社が再び同じ失敗を繰り返すリスクが減少することを意味する。Enecoと共同で建設している風力発電所への出資の際に、同社は風力発電への補助金をビジネスモデリングで考慮すべきではないと明記していた。
3つ目は、既存のビジネス基盤を利用し比較的ローコストですぐにスケールできるビジネスがある点だ。
First Utilityの6倍の顧客基盤を持ち、80億ドルの売上高を誇る英国のエヌパワーは、投資予算の変更に段階的な手続きを踏む必要があり、過去4年間で損失を垂れ流している事業を切ることができない。シェルにとってこの企業は既存企業のステレオタイプであろう。
買収はシェルの投資家に忍耐を強いるだろう。しかし、同社が「世界最大の電力企業」を真剣に目指しているのならば、買収はある種の賭けるべきギャンブルのようなものだろう。