30日、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは「The Internet Needs New Rules. Let's Start in These Four Areas」と題された論説をワシントン・ポストへ寄稿した。
ザッカーバーグCEOは同社の事業分野であるインターネットに対して批判的な意見を表明しており、投資家は注目している。そして、自らがCEOを務めるフェイスブックの規制を公に政府へ要請しており、彼の本当の論点は何かを見極める必要があるだろう。
フェイスブック(NASDAQ:FB)は無数のスキャンダルに苦しめられ、2018年7月から12月までの間で株価は43.5%下落している。2016年の大統領選挙において、ロシア政府によるフェイスブック上でのプロバガンダやフェイクニュースなどのスパム行為を規制してこなかったことが批判の中心であった。
また2018年3月上旬では、ケンブリッジ・アナリティカ社は政治目的で数百万人のフェイスブックユーザーのデータ収集が許可されていたことが報じられ、その後同社は廃業に追い込まれた。そして先月、年初来28.6%高となっていたフェイスブックは、ニュージーランドの銃乱射事件がフェイスブック上で生中継されたことを受けて、再び下落した。
論説のタイミングとテーマにフェイスブックの狙いがある
30日のザッカーバーグCEOによる寄稿と民主党議員によるGAFA解体への呼びかけは、以下の理由から偶然の一致ではないだろう。
まず、今回の論説は規制当局や関係する個人に対する和解の印であると考えられる。そして、規制の必要性を受け入れている姿勢を示すことによって、競合に先駆けて規制に対処する準備をしていると考えられる。
論説の中では、「4つの分野で規制が必要」とザッカーバーグ氏は述べている。(1)有害コンテンツ、(2)公正な選挙、(3)プライバシー、そして(4)データポータビリティーである。
- 有害コンテンツ:現時点では有害コンテンツが何を指すのかは明確に定義されていない。ある人を不快にさせるコンテンツが他の人にも当てはまるとは限らないのだ。暴力を助長する内容でない限りは、容認されるべきであると考える者もいる。この分野は政府が関わるべき問題というよりはむしろ、社会的な規範の問題である。また、フェイスブックも規制当局も普遍的に「公正」な方針を定めることはできない。政府が企業に対し有害コンテンツを摘発するシステムの構築を義務付けることを望んでいると、ザッカーバーグ氏は述べた。もちろん、フェイスブックはすでにそのようなシステムを構築している。2017年中旬に同社は、ヘイトスピーチの削除を担当するモデレーターを3000人以上雇用した。このような取り組みが他社にも課されることになれば、大手競合他社は利益を妨げられ、小さな競合他社は完全に太刀打ちできなくなるだろう。
- 公正な選挙:ソーシャルメディアプラットフォームに人々の情報がますます集まる傾向の中で、公正な選挙は非常に重要な問題である。そして、これもまたフェイスブックがすでに規制に取り組んでいる分野である。同社は広告主を公開し、そのコンテンツをコントロールしている。この取り組みは競合にとって重荷となるだろう。
- プライバシー:これまで、フェイスブックはプライバシーを軽視してきた。しかし現在、ザッカーバーグ氏はEUにおける一般データ保護規則(GDRP)のような規制を呼びかけている。「より多くの国がGDRPのような規制を施行すればインターネットはさらに良くなるだろう」と同氏は述べた。しかし、本当にそのような規制の恩恵を授かるのはフェイスブックであろう。実際、GDRPへの準拠は非常にコストがかかるので、フェイスブックやグーグル(NASDAQ:GOOGL)のEUでの広告事業における地位はさらに向上した。GDRPの施行によってフェイスブックの広告到達率は約7%減であったのに対して、他のトップ50のアドテック企業は平均20%減となった。
- データポータビリティー:データポータビリティーとは、個人データを企業をまたいだサービス間で移管可能にすることを指す。データポータビリティーが可能になれば、ユーザーが要請した時、サービス事業者はデータを他社と共有せざるを得なくなる。この場合、フェイスブックは自社が対応するデータ移管フォーマットを他社に押し付けるだろう。そして、データポータビリティーによって、フェイスブックの大規模なリーチとターゲティング広告における圧倒的な地位はさらに強化され、多額の収益を生むだろう。
論説でザッカーバーグ氏が述べたことは、確かにソーシャルメディアの顧客体験とその社会への影響を改善させるかもしれない。しかし、これら4分野での規制によって、フェイスブックは他社を圧倒し、現在の圧倒的な地位をさらに強化するだろう。実際昨年4月の公聴会で、同氏は以下のように述べ、本当の論点を明らかにしている。「我々のようにリソースの豊富な大企業は容易に規制へ対応できるが、小さなスタートアップには難しいだろう」