10日のS&P 500は6日続伸となった。主な要因として米国とメキシコ間で不法移民対策が合意に達し、米国は対メキシコへの関税の見送りを決定したことがある。これによりマーケットのリスク選好を高める結果となり、円売りによってドル円がサポートされている。しかし、我々の見解では、以下の3つの理由から数日後もしくは数週間後にドル円は下落すると考えている。
1.メキシコのエブラルド外相は10日、トランプ大統領が主張する「完全にサインされ文書化された合意」は存在しないと述べた。また、不法移民の減少が思わしくない場合、移民の流れを調査し、新たな施策について議論するとの考えを同外相は示した。曖昧な合意はマーケットにとって不透明感をもたらす。トランプ大統領はマーケットの要求に応えることで知られているので、対メキシコ関税の可能性は依然として残っていると考えられる。
2.次に米国経済の減速が挙げられる。5月の雇用統計は予想を著しく下回った。原油やガス価格は下落しており、労働市場も軟調であり、今週発表される物価指数や小売売上高は予想を下回ることが予想される。
3.ジェローム・パウエルFRB議長は、貿易摩擦による米経済への影響を丹念にモニタリングし、「景気拡大を持続させるために適切な行動をとる」と述べた。「利下げ」というワードは明言していないが、金融緩和政策を示していることは明らかである。フェデラルファンド金利先物では9月に94%の確率で利下げすることが織り込まれている。パウエル議長のハト派的な姿勢によって、米ドルが更に下落することが予想される。米ドルはその他主要通貨に対して数ヶ月ぶりの高値を記録したが、今回の発言によってハイベータ通貨でショートスクイズが起こり得るだろう。テクニカル分析の観点では、ドル円が108を下回るまで下落することは時間の問題である。またECBは先週利下げの可能性を否定し、ユーロ/米ドルは1.135を上回ることが考えられる。
10日で最も下落した通貨はNZドルと豪ドルであった。中国の貿易収支は予想を上回ったものの、その主な要因は輸入が急減したことであった。一方、輸出が増加している要因としては、新たな関税を回避するために輸出業者が米国向け出荷を急いだ可能性が考えられる。いずれにせよ、米中関係の見通しは暗い。トランプ大統領は10日、中国に対してG20首脳会議を欠席する場合、即座に追加関税を課すと警告した。一方、ポンドは軟調な英GDPと鉱工業生産指数を受けて、下押し圧力を受けている。英国の雇用統計は本日公開が予定されている。製造業や建設業の雇用者数が減少していることを考慮すると、下振れリスクが考えられる。