現在の産油国外交は、5ヶ国以上が瀬戸際政策を展開しているという信じがたい時代を迎えている。しかし実際に徹底しているのは、イランだけだろう。
イランは現在イギリスとタンカー拿捕についての問題を抱えているものの、同時に次期英国首相であるボリス・ジョンソン氏と和解を目論んでおり、このことからも同国の巧妙さが窺い知れる。
また米国はイランに対し強力な制裁を加えているものの、同国に要望を飲ませることは厳しそうに見える。
ペルシャ湾における緊張がここまで高まり、原油のリスクプレミアムが小さく不安定なことは滅多にない。
今回の政治問題に関わっている米国、イギリス、サウジアラビア、UAE、そしてイランさえも実際に戦争を望んでいるわけではないというのは、もはや周知の事実となっている。
これに原油需要に対する懸念が高まっていることも重なり、市場は現在弱気となっている。
望ましくない政治問題
米国が対イランの制裁強化に動いてから、原油価格はほぼ想定通りの動きとはなっていない。
WTI原油先物は5月16%下落した後、6月には9%の反発を見せたものの、今月に入ってからは2%下落している。一方でブレント石油先物は6月に4%上昇したものの、今月は4%近く下落している。
しかし原油需要はそこまで下がっているのだろうか。
この疑問もまた答えを出しづらいものだ。
なぜなら米原油在庫は過去5週間にわたり減少を続けており、需要が下がっているとはとても言えないからだ。
6月14日に終了した週以来、米原油在庫は市場予測の約2倍となる約3000万バレルの減少を見せている。これは、2017年11月から2018年1月にかけての10週間連続の減少以来、最も長い減少である。
またEIAの発表した週報によると、7月19日までの1週間における原油在庫は約1100万バレルの減少となり、400万バレルの減少という市場予想を大幅に上回ることとなった。
望ましくない世界情勢
だが世界的な視点から見ると、国際エネルギー機関(IEA)の弱気姿勢により、米原油在庫の減少をどのように見ればよいか判断が困難になる。IEAは原油需要の予測を先週、日量110万バレル(bpd)に修正した。これは前回の150万bpdから120万bpdへの修正に続く、今年2度目となる修正だ。ファティ・ビロルIEA事務局長は中国の経済成長が鈍化した場合、更なる下方修正を年内に行う可能性があると述べた。
ロイター通信のジョン・ケンプ石油コラムニストは23日、2018年半ばから石油消費量は減少しており、サウジアラビアを始めとするOPEC加盟国の意に反するものの、原油価格の下落は避けられないと述べた。
しかし中国経済が予想を上回る成長を見せる可能性も十分存在する。中国の景気刺激策が米国との貿易戦争による損失をカバーできるかもしれないからだ。
米原油在庫の減少は朗報か
現状で原油にとって最も良い材料は米原油在庫の減少である。
世界的に原油にとって悪い経済見通しが続く中で、EIAによる週報は、在庫量の大幅減により各経済指標の不調の影響を相殺したため、原油投資家にとっては希望の光となっている。
米原油消費量は夏場以降は通常、運転人数の減少により落ち込む傾向がある。そうした中でもWTI原油先物(年初来パフォーマンス+26%)とブレント原油先物(年初来パフォーマンス+19%)が秋以降も上昇を続けるのか、注目が集まっている。
また繰り返しにはなるが、石油市場やOPECの救世主となるのは中東における政治問題ではなく、EIAによる発表となるだろう。